『独裁者』

石燕の筆(影絵草子)

第1話

男が大きなベッドで目を覚ます。


軍服に着替える。


国民の前で挨拶をする。


誰もが自分にひれ伏す。


『ああ一度でいいから逆らう人間はいないものか、こんな家系に生まれたばかりに』


顔が似た男と入れ替わる。


平凡なサラリーマンだ。


独裁者と、サラリーマン。


二つの生活をする二人。


やはりそれぞれが、


元の生活に憧れる。


だが、独裁者だけは家族のあたたかみを知り、拒否する。


『この男を殺してしまえば』


そんな考えが過るが、そんなことはできない。


そんな中、他国との戦争が起きる。


独裁者は、戦争の続く中、流れ弾を浴び家族を守り死んでしまう。


男に、すべてをたくし、事切れる。


『どうか誰もが笑って暮らせるそんな世をお前の手でつくれ』


独裁者は、今日も国民の前に立つ。


あのサラリーマンの男だ。


そして高らかに宣言する


『権力の放棄』と『すべての国民が等しい人権と地位を所有する権利』を。


国民は、泣きながらどよめいた。


その日、世界に『平和』が生まれた。


それを、男は『法律』と定めた。


その日は、平和を象徴するように


雲ひとつない青空だった。

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『独裁者』 石燕の筆(影絵草子) @masingan

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