『明日は我が身』
石燕の筆(影絵草子)
第1話
ある旅人が旅の途中に会った男の話を常連客相手にある惑星の小さなバーでしていた。
『妙な男だったよ』
その男は道にたたずみへらへらとうれしそうに笑っていた。
何かうれしいことでもあったのかと聞くが、ただただ男はへらへらと笑っているだけ。
頭がおかしいやつなんだと思って男を無視して通り過ぎようとすると
男が一言こう言った。
「あなたで9999人目ですよ」
何が?と聞くと、
わたくしはこの道に立ってわたしに声をかけてくれる親切な方と最初から無視をする方の統計をとっているのです。
あと一人で一万人ですよ。一万人になったらわたくしには会社から莫大な金が入るんです」
そう言う男は引き続き道に立ってまたへらへらと笑いだす。
旅人はこんな辺境の星でよくやるなあと孤島のような小さな島星を宇宙船で旅立った。
その話をしていると、隣に座っていた男が、話に入ってくる。
『ああ、その統計やってたの多分うちの会社ですよ』
『今じゃお金が入っていい暮らししてるんでしょうね』
と返すと、
男性客は笑いながら、
『いやいや、あれはねリストラですよ。そういう体で会社から追い出すためのね
だから、一銭も入りませんし、あとはリストラを通達されておしまいです』
それを聞いていた男たちは、
『明日は我が身だ』とウィスキーを一杯あおってそそくさと、店を出ていく。
『明日は我が身』 石燕の筆(影絵草子) @masingan
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