第38話 芹田の説得
「諦めなければ、きっと報われるから、わしの言う事を信じなされ! さて……と、新見君と宇佐田君は、このシェルターでしばらく待機しているが良い。わしは、ちょいとばかり厄介な事になっているようだから、特殊フィールドに戻るとしようか!」
敵が増えているのを気に病みながら、芹田は特殊フィールド内へと戻ろうとした。
(芹田先生が戻ったところで、どうにかなるってわけでも無さそうなのに……もしかして、芹田先生も以前は龍体に変身出来て、かなり活躍していた時代も有ったって事なのかな? その名残りで、窮地に陥ると、つい構えて主導権を握るような行動に出てしまいがちなのかも知れないな、芹田先生って)
その後ろ姿を見ていた
見間違いかと思い、手の甲で目を擦った。
(あれっ、今のは、一体何だったのだろう……? 気のせい……? あの芹田先生が龍体に見えるなんて、僕の目は、どこかおかしくなってしまったのだろうか?)
「芹田先生、行ってしまいました……」
もしかすると、透子も、芹田が龍体のようになっていた姿を目撃していたのかも知れないと思い、その事について、透子が話し出すのを待ってみた颯天。
少しの間、期待して待っていたが、透子の口から出た言葉は、予想と違っていた。
「芹田先生は、優しくて暖かい……」
独り言のように、透子が言った。
----------------
このエイリアン達の襲撃が発生する少し前に、芹田と遭遇した時の事を胸の中で何度も
『深刻そうな
芹田は、透子の顔を覗き込むなり、心配そうに尋ねて来た。
訓練生時代から、何度となく芹田を頼り、アドバイスを受けていた透子。
『芹田先生、実は……私、大和撫子でいる事が出来なくなりました。間もなく地球防衛隊本部に転属される事に決まったのです』
『なんと! 君のような、誰よりも努力し続けた貴重な人材を大和撫子隊から排除するとは! 一体、何たる事態だ!』
訓練生時代から透子を誰よりも目にかけて来た芹田は、その報告に憤った。
『でも、これは……私が、いつまで経っても超sup遺伝子を覚醒させる事無く、隊員達の足を引っ張ってばかりなので、もう仕方ないんです』
『タイムリミットまで、まだ時間が残されているじゃろう! 何ゆえに、そのような早急な判断が下されたのじゃ?』
『荒田隊長の決定なので、逆らえません!』
透子と荒田が破局した事は、芹田も噂で耳にしていた。
『荒田君が、そのような私情を仕事に持ち出すような低俗な器だったとは! 彼ほどの有能な実力者が、優先順位を見誤るとは、大変遺憾なる事だ!』
『私もですが、荒田隊長の同じ部署に居辛い気持ちは分かるので……これも、自分の蒔いた種ですし、実力も伴わない状態で彼に逆らったのですから、自業自得なんです……』
『そんな事など決してないぞ! 新見君は、自分をそんなに卑下する必要などない! 君はまだ目覚めていないだけなのじゃよ! 君は、決して、荒田君と比べても劣るような人材ではない!』
芹田の激励の言葉は、透子の心に響いたが、それを鵜吞みに出来るほど、その時の透子は楽観的では無かった。
『芹田先生にそう言って頂けただけで、今まで努力して来た分は、十分報われたような気持ちでいます。ありがとうございます』
『いやいや、それだけで終わらせようとするでない! 君には、まだ大事な使命が残っているのじゃから!』
『ですが、自分には、これが精一杯なんです! 今まで頑張って来て、それでも覚醒しなかったのですから。もう引く以外の選択肢は無いんです……いつまでも有りもしない望みにしがみついている私って、何だか
志半ばで退くのは、不本意だったが、それでも状況を呑む以外無いと実感している透子は苦笑いした。
『まて、わしの話をしっかり聴くのじゃ! 教え子達には言ってなかったが、わしもかつては、今の新見君と同じじゃったんだ!』
『同じ……って? どういう事ですか?』
意外な発言に、思わず透子は顔を上げ、芹田の瞳を見つめて尋ねた。
『その言葉の通りじゃよ。つまり、わしも、遅咲きだったんだ、同期の誰よりも。いや、同期どころか、後輩にもどんどん抜かれて行ったよ』
『芹田先生が……? そんな事は、信じられません! 私が耳にしていたのは……こんな事を言っていいのか、分からないですが……伝説の偉大な黒龍が、芹田先生だったかも知れないという事だけです……』
本人を前に、その噂話を
『そうか……君らにも、そんな噂が飛び交っていたのじゃな。もう随分と昔に現役を引退して、わしの事を知る者は、この施設内に数えるほどしかいないから、知られてないと思っていたのじゃが……』
『真実だったのですか? 本当に、芹田先生が……黒龍だったのですか?』
実際に本人からその話を聴いても、まだ疑わずにいられないまま、畏敬の念を示した透子。
『そんな事は、かつての栄光じゃ! これから迎えるのは、君らの時代だからな!』
『いくら
『そんな弱気な事を言うでない! 言ったじゃろう? わしもまた、誰よりも遅咲きだったと! 他よりも強い力を宿す者こそが、覚醒するまでに誰よりもより大きな試練を課せられるのじゃ! 新見君は、まさに今その試練の渦中なのじゃよ!』
透子の両肩に両手をあて、力強く言った芹田。
『私が……他よりも、強い力を宿す者……?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます