第37話 透子と合流

 自身の不安な心の声を察知したかのような芹田の声に、救われる颯天はやて


「新見君は、どこじゃ? 彼女も危険に晒されている!」


 芹田が大和隊に尋ねると、すぐさま何人かの大和隊の返答に混じり、透子自身のハイトーンボイスが響いて来た。


『私は、特殊フィールドの北東側です!』


 透子がいるのは、特殊フィールドと元の場所を繋ぐ出口地点だった。


 独力で退避を試みたが、透子の力では及ばず、他の隊員達の接近時に加勢してもらえるタイミングを待っていた。

 ちょうど、そこには透子を心配し接近中の青い龍が一体いた。


「良い位置だ! おっ、新見君のそばには目白君がいるようだな。彼に加勢してもらうが良い」


(あの青い龍体は、目白さんなのか……? 噂で聴いた事が有る。面倒見の良い人柄をして、他の隊員のカバーに回る事が多い分、荒田さんには劣っているようだけど、変身前の実力的には互角だと言われている、目白めじろまもる隊員。荒田さんと別れた後の透子さんにアプローチ中という余計な情報も、どこからか聞いた事が有った……)


 自分には敵わないと分かりつつも、つい、目白をライバル視している颯天。


「はい、無事に新見さんを移動させました!」


 予測出来ていた事を軽く片付けたように、落ち着いている声の目白。


(さすがは、有能な目白さん! こんな手っ取り早く、透子さんを移動させていたとは! 僕だったら、透子さんと二人で、解決策を見い出せずに、ずっと悩み続けていたところだったかも知れない。やっぱり、透子さんには、そういった包容力の有るしっかりした男性が似合うんだろうな……)


 目白の対応により、透子の無事が確認でき安心した反面、その事で余計諦めに似た感情にさせられた颯天。


「よーし、でかしたぞ! わしらは、今は南西から入り、すぐに新見君と移動する!」


 芹田の言わんとしている事が表面的には分からないでもないが、颯天の頭は追い付かない。


(南西から入るとは……? 大体、古典の教師である芹田先生が、どうして、こんな現場で、有能そうな隊員達を指揮しているんだ? 芹田先生に、そんな権限なんて無いはずなのに。なぜか、隊員達も違和感無く、芹田先生の指示に従っているし……)


 颯天の頭は困惑する一方だが、芹田の方は、言うが早いか、颯天と共に透明なバリアを仕掛け、新幹線並みのスピードで、透子のいる反対側へと向かった。


(あれっ、芹田先生、けっこうな年なのに、見かけによらずフットワークが軽い! しかも、そんな早業はやわざまで使えている……)


 芹田の機敏さを意外そうに感じながら、颯天の目に映ったのは、先刻見ていたビースト型エイリアンより、二回りほどの大きさを増したエイリアン三体。


(これは……? さっきのたった一体だけでも、レベル3の事態だったというのに、それよりずっと大きいエイリアンが三体も現われたとは……! 芹田先生は、僕がいる手前、レベル4なんて事も言っていたけど、明らかにそんなんじゃないのは、素人の僕にだって気付いている! これは、レベル4どころではなく、レベル5か、それ以上の過去に無い事態なのかも知れない!)


 前例の無さそうな状況に、いつになく動揺している芹田の様子が、透明バリアの中に一緒に収まっている状態からも感じられた。


「良くない状況だが……しかし、希望の光が見えて来ているぞ! どうやら、君の同期の研修生達が次々に変身しているようじゃ!」


 緊迫感が漂っていたはずの芹田に、明るさが戻った。


「変身……?」


(変身っていうと、この場合は、龍体に変身したって事なのか……? 僕の同期達が……?)


 芹田の視線の方を向くと、確かにさっきまで見かけなかった位置に青い小柄な龍が増えているのが、颯天の目からも確認出来た。


(あの青い龍達……あれが、僕の同期達なのか……? 僕と違って彼らは、安全な訓練室に避難していたわけではなく、必要な時に、こうも容易く変身をげたというのか……?  なんて事だ! ただでさえ置いてきぼりだった僕は、また、彼らと差を付けられてしまった……!)


 先刻、芹田に励まされた事も忘れ、再び、劣等感に陥りそうになった颯天。

 ところが、芹田と共に一定の高速で避難用のシェルター部へと移動していくうちに、先に到着していた透子の姿を認めるなり、ネガティブな意識も吹っ飛んだ。


(あっ、透子さん!! 無事でよかった!! 僕には何も出来なかったけど、彼女が無事に避難出来て、こうして一緒にいられるなら、それだけで今は十分だ!)


「芹田先生、宇佐田君……」


 目の前に現れた芹田と同行している颯天の姿を見るなり、透子に戸惑いの表情が浮かぶと同時に、少し頬を赤らめていた。


 その透子の反応に気付き、ハッとなった颯天。

 前回、透子と会った時に、彼女に告白済みだった事を思い出し、カーッと一気に顔が紅潮した。


「おやっ、二人は知り合い同士だったのかね?」


 二人の不自然な様子を目の当たりにし、芹田が意外そうな顔を見せた。


「あっ、はい。僕がグラウンドで自主練をしている時に、新見さんも同じ場所を使っていたので……」


 颯天が弁解するような口調で言うと、怪訝そうな眼差しを向けた芹田。


「ふーむ、そうだったのかね。まあ、これまでも新見君に憧れる大和隊の志望者達は多かったから、無理は無いのう!」


 ニヤニヤしながら、颯天の腕を突いて来た芹田。


(はあ~っ、芹田先生に僕の気持ちを勘付かれてしまっている……)


「でも、私はもう……大和撫子隊にいられなくなりますが……」


 自嘲気味に言った透子。


「何を弱気な事を言うておるのじゃ! 新見君には、まだまだ無限の可能性を秘めているのだから、早々に諦めるでない!」


 先刻、自分を励ましたように、芹田は透子の事も激励して来たのだと、颯天は二人の会話を聴きながら感じた。


「覚醒するまで待って下さるようなシステムなら、私だって、これほど悩みません……」


 芹田の励ましでは動かせない透子の言葉が、自分の気持ちを代弁しているかのように颯天の心に響いた。


(透子さん、また哀しそうな表情をしている。僕は、今まで、何度も彼女の哀しそうな表情を見慣れていたけど、今までに無いくらいに、彼女の心の痛みが伝わって来る感じがする。無理も無いか……僕と同じで、いや、僕以上に長い間、超sup遺伝子の覚醒を待ち侘びて来ているのだから……)

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