第21話 暴走気味の千加子

 颯天はやてと透子が自説をやっと解している様子を見て、満足気な千加子。


「そうなる事を予言していたのか、あの文章は……」


 千加子の解釈を聞き、やっと疑問だった古文の意味を把握出来た2人は、更に解き進めようとした。


「だとしたら、緑のオーラの持ち主は……」


 透子が、千加子の話の流れから当てはまる人物を考えると、思い当たるのは1人だけ。


「荒田さんなのか?」


 颯天もまた、自分の知っている活躍者の中で、他に思い浮かぶ者はいなかった。


「おそらく、そういう事になるわね! そこは、あなた達でも2人ともよく理解していたようね。でも、預言書によると、今の荒田さんの統べる時代も、そろそろ終わりを告げられる事になりそうね!」


 荒田の元恋人である透子を前にして、あたかも自分が、彼の偉業を引き継ぐ人物である事を自負しているような千加子。


「本当にそうだとしたら、赤のオーラの持ち主って、一体誰なんだ? 白とか黒のオーラも、浅谷さんは誰なのか、もう見当が付いているのか?」


 颯天が尋ねると、愚問であるかのようにあしらう千加子。


「赤はまだ、具体的には誰か分からないけど、きっと私達の同期にいるはずよ!」


「な~んだ、じゃあ、白と黒も誰かは分からないけど、僕らの同期にいるって事だな?」


 それまでは颯天の質問にさも自信有り気でいながら、期待外れだった千加子の発言に、その後の事項についても同様の扱いになるか確認した颯天。


「まさか、あなた達は、白と黒のオーラの持ち主も、誰か分からないの? それは、誰からも一目瞭然じゃないのかしら?」


「えっ、だって、浅谷さんすら判別出来ないのに、白と黒のオーラをどうしたら僕が見分ける事が出来る?」


 颯天の疑問に、千加子はまた懸命に自己アピールを始めた。


「考えてもみたら? 私達の同期の中で、秀でている人といえば、もう限られているはずでしょう?」


「あっ、そうか……雅人は、多分その1人に違いないだろうな。だけど、もう1人はどの男子訓練生なんだ?」


 先入観から男子と決め付けて、もう1人、訓練生の中から候補を思い浮かべようとした颯天。


「宇佐田君って、呆れるほど観察眼が無いのね! もっと、頭使ったらどう? 大体、黒と白っていうと、普通に考えて、陰陽って分かるでしょう?」


「陰陽……っていうと、あの〇の中にある、白と黒の勾玉みたいなマークの事か?」


 いきなり、太極図の事を言い出した千加子の意図が掴めない颯天。


「本当にニブイわね! 陰陽の図面の事を私は言っているわけではないわよ! 陰陽っていうのは、ついの事よ! 敢えて他の言い方をするなら、ツインレイね! ああそうね、対とかツインレイっていっても、あなた達のような凡人には、全くピンと来ないでしょうね! つまり、白と黒のオーラの持ち主達は、男女のペアだって事よ! どうして、こうしていちいち説明してあげないと、分からないのかしら? 本当に情けないったら!」


 苛立ちながらの千加子の説明で、やっと納得顔の颯天と透子。


「白と黒のオーラの人物は、男女のペアって事だったんだ……」


「当然でしょう? 他に何を連想出来ると言うの? 私は、古典の授業後、直感ですぐに分かったわよ!」


「そうか、さすがは浅谷さん! 読解力が僕とは違うな~! だとしたら、雅人とペアの女性って誰なんだろう?」


 颯天の言葉で、呆れ顔になる千加子。


「矢野川君と実力的に釣り合うような女性といえば、私を置いて他にいると思っているの?」


 自信たっぷりの千加子の言葉に、思わず吹き出しそうになった颯天。


「何よ~? 何か文句でも有るの?」


 その颯天の様子がかんに障った千加子。


「あっ、ごめん。浅谷さんには悪いけど、雅人が好きなのは、大和撫子隊の淡島さんだよ」


「なんですって? 矢野川君が好きなのは、あの無能なのに色気だけで居座っているという大和撫子隊の淡島花蓮かれん?」


 自分とは対極の容姿をしている花蓮の名前が出た事に、目の色を変えた千加子。


「ずっと学生時代から憧れていて、今、やっと話が出来るようになって喜んでいるよ」


「それは、つまり、学生時代、私とまだ出会ってなかったからよ! 自分の本当の相手と出会って無かったから分からずに、ただ思春期特有の異性への憧れの対象として、淡島さんが映っただけに決まっている!」


 雅人に憧れの存在がいようが、あくまでも、自分が雅人のペアの相手だという事を譲らない千加子。


「訓練生として、浅谷さんと知り合っても、雅人の淡島さんへの想いは続いているけど……」


 千加子の鼻持ちならない態度が我慢できず、ついボソッと呟いた颯天。


「そんなはずないわ! それは、ただのフェイクよ! だって、淡島さんの実力知ってる? sup遺伝子未覚醒の新見さん以下なのよ。そんな感じのただのお色気だけが取り柄の女なんかと、あの有能過ぎる矢野川君が釣り合うわけないから!」


「あっ、そうか! 能力的に釣り合わないといけないとしたら、陰陽っていうのは、お役目上だけの陰陽なのかも知れない! 感情的なものは抜きにして、ただの仕事仲間というか、能力を発揮出来る為の男女ペアだとしたら、雅人の相手に、浅谷さんが該当してもおかしくない!」


 咄嗟とっさに思い付いた事が、颯天にとっては名案に感じ、千加子を納得させようとした。


「宇佐田君、私の事をバカにしているの? そんなふうに感情的なものを軽んじて、任務だけのペアなんて有り得ないわ! そうそう、思い出したわ! ここに、思いがけず新見さんがいたから、目的を忘れそうになっていたけど、私がここに来たのは、宇佐田君にお願いが有ったからよ!」


 今までの態度を改め、急に下手に出た千加子。 

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