第19話 透子の提案
会話が進むにつれて、自分と透子に共感し合えるものを強く感じ取れた
「雑務とか、僕は元々、見下されるのには慣れて来ているので、そんなのは取るに足らないような事なんです。ですが、やっぱり、記憶が無くなってしまうのは、僕も抵抗が有ります!」
「私も、どんなに風に蔑まれても耐えられるけど、記憶を失うのだけは逃れたいわ! 今は、その事だけが、何より怖いの……」
いつも冷静だった透子の表情に、今まで見た事も無いほど危惧の色が現れていた。
「僕も、ここでの色んな記憶は、もちろん、中にはさっさと忘れたいような記憶も有りますが、ずっと覚えていたいものも多いんです! その全てを一緒くたに消されるのはイヤなんです!」
(特に、憧れの透子さんとのこの語らいの時間は、絶対に忘れたくない! 僕の他の全ての記憶と引き換えにしても、この記憶だけは忘れずに取っておきたい!)
その時、何か
「あっ、でも、大丈夫よ! 私、いい事を思い付いたから! これで、私達2人とも安心出来るはず!」
「本当ですか? 記憶を失わずに済むんですね!」
期待が出来そうな透子の声の調子で、颯天の心も軽くさせられた。
「宇佐田君が協力してくれるなら、多分、それは可能だわ!」
「どんな事ですか? 僕に出来る事なら何だって協力します!」
2人とも、記憶を留めておく事が出来るなら、どんな協力も惜しまない颯天。
「簡単な事よ。もしも、私の記憶が消されるような事態になったら、宇佐田君が、記憶を失った私に今までの事を教えて、私の記憶を呼び戻して欲しいの。もちろん、宇佐田君の方が先に記憶を消された時には、私が教えてあげるわ! それなら、2人とも同時に記憶を消されない限り、記憶を失わずに済むの。どう、名案でしょう?」
容易そうに透子が言ったが、配属が変わって記憶を失った場合、透子とこの運動場で逢えるのか疑問だった。
「地球防衛隊G~Jグループの下で働く場合、もう新見さんは、運動場にトレーニングに訪れる事が無くなる気がしますが……」
「多分、そうなるわね。ここで、こうして会うなんて記憶も無くなっているし、もうトレーニングに励むなんて事もなくなるでしょうね」
颯天の懸念をそのまま受け止めた透子。
「そうなった場合、どうやって、新見さんに接触したらいいのですか?」
「確実なタイミングを待って欲しいの。焦って、仕損じたら、もうそのタイミングは巡って来なくなるかも知れないから」
(確かに、一度でも失敗したら、周囲は僕と接触させまいと徹底的に対策を取って来る可能性が有る……)
「失くした記憶は、自然に蘇って来たりはしないんですか?」
「私もそのあたりの事は詳しくないけど、そんな簡単に蘇るような記憶だったら、ここから退く人達に不意に戻って困るでしょうから、そこは抜かりが無いと思うわ」
透子の身近でここを去ったという該当者は見られず、憶測する事しか出来なかった。
「分かりました! 新見さんがもしもの場合は、僕が慎重に計画して、そのタイミングを待ってから決行します!」
「ありがとう、宇佐田君、頼りにしているわ!」
憧れの透子から頼られて、満面の笑みで返した颯天。
(透子さん、もしかしたら、僕が透子さんの恋人だったと偽りの記憶をわざと伝える可能性だって有るかも知れないのに……こんなに僕の事を信頼して頼ってくれている! そんな透子さんを裏切るような真似なんて、僕には出来るわけがないんだけど)
「こんな所で、何をしているのですか?」
その時、2人に非難めいた声音を向けて来た女性。
2人が同時に声の聴こえて来た方を振り向くと、そこには、怪訝そうな顔付きをした颯天の同期訓練生、浅谷
「浅谷さん……」
(どうして、浅谷さんがここに……?)
「宇佐田君と、それから、新見さんですよね?」
千加子は、自分より目上である透子を前にしていながら、他の訓練生達に向ける見下したような視線を投げ付けていた。
「ええ、あなたは?」
自分は透子を知っているにも関わらず、透子の方は、こんなに有能な自分を知らない事に不満を覚え、苛立ちを隠せない千加子。
「その宇佐美君と同期訓練生の浅谷です!」
わざわざ嫌味の如く、颯天の名前を出してから名乗った千加子。
(浅谷さんは、透子さんに対して、どうしてそんなに大きく出られるんだ?)
「そう、浅谷さん、よろしくね」
その透子の目下に対して言うような口ぶりが、かなり癇に障った千加子。
「そんな言い方を止めて頂けませんか? いかにも、自分の方が目上の立場の人間だって主張したいのかも知れないですが、無駄ですよ! 私は、あなたの業績のデータとか存じ上げてますから! 外見だけで周りからチヤホヤされるような女性は、私と同期でもいますけどね。そんな外見だけで、実力が伴わないようなsup遺伝子未覚醒の大和撫子隊員を私には到底、上司とは思えないですから!」
唐突に千加子から暴言を吐かれ、動揺する透子。
「浅谷さん、新見さんに何て事を言うんだ!」
大人しく聞いていられず、まだ言い足りなそうな千加子を止めようとした颯天。
「宇佐田君は、その見掛け倒しの人を庇うの? 同期なんだから、私の実力を十分に分かってくれているはずでしょう? それなのに、その人の方を庇うなんて、納得いかないわ! 大体、こんなに暗くなってから、運動場で2人だけで逢引きしているなんて、
勝手に2人を恋仲と疑い、ヒステリックな声をあげた千加子。
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