第8話 寧子の思惑
自分は、このまま本当に居続けてもいいのだろうか?
超sup遺伝子所持者と判定されても、まだsup遺伝子すら覚醒が出来てない。
こんなにもトレーニングしているにも関わらず、他の訓練生達に歩み寄れるどころか、差は開くばかり。
(こんな見せかけだけの蒙古斑で誤魔化せるのは、検査機器だけなのかも知れない。実際には、僕はこの通り、皆の足を引っ張るしか能が無い状態のまま……)
「お風呂上りなのに、ビールが進まないな、颯天?」
初めて飲んだワインでは、2人で
地球防衛隊の棟に早々に配属され、緊張から解き放たれたばかりの雅人は、ゴクゴクとビールが進んでいた。
雅人は、長湯後で喉が渇ききっているはずだった颯天のビールの進み具合が悪い事に気付き、先刻、自分が伝えた荒田と透子の噂を気にしているのだと察した。
「うん……何だか、疲れたのかもな」
いつになく、声にも張りがなくなっている颯天。
「悪かったな、俺が無神経な事を言ったせいで。お前が、こんなに気にするとは思わなかったからさ……」
「いや、別に……僕だけが、そういう事を知らないままでいるよりは、まだ知っていた方が良かったから、雅人が知らせてくれて有難かったよ」
ずっと憧れ続けていた透子が、地球防衛隊一の猛者である荒田と、結婚も秒読み状態な事を知らされたのは、当然、颯天にとって衝撃が強過ぎた。
が、その事も知らず、透子に対し盲目的に想い続けているよりは、親友である雅人から噂を聞き、覚悟が出来ている状態の方が、ましなのだと自分に言い聞かせた。
「そう思ってくれるなら良かったけど……颯天だって、まだチャンスがゼロになったってわけじゃないから、そんなガクッと落ち込むなよ!」
そんな慰めは、雅人だからこそ言える言葉だと、痛感した颯天。
(雅人のように、トップで地球防衛隊の棟に入れてもらえるような能力が有ったら、僕だって、まだ可能性が有ると自負出来るかも知れない。けど、今の劣等感の塊でしかない僕のままだったら、そんな僅かながらの可能性だって、自滅してしまいそうだ……)
「雅人はさ、ホントに、僕なんかに、そんな可能性が有ると信じてるのか?」
雅人が勝手に颯天を買い被り、実力以上のものを要求しているように感じられ、怒りを込めた眼差しを雅人に向けた颯天。
「当然じゃん、俺は信じているよ、颯天の可能性を! 颯天は、誰よりも努力家なんだから、自分を信じる事を諦めるなよ! ただひたすら信じるっていうだけでも、脳の中ではポジティブに動き出す細胞だって有るんだ! そんな自暴自棄になったら、開花するものも、開花しないまま終わっちまうぞ! そんなのもったいないじゃん!」
颯天の秘めたる能力を奮い立たせようと、厳しく言い放った雅人。
「だから、お前だって、知ってるはずだろう! 僕は、本物の超sup遺伝子所持者じゃないって事くらい! そんな
「颯天……」
「雅人、教えてくれよ! 僕は、この先どれだけ惨めな思いを味わえばいい? 惨めなままでも、努力し続けたら、いつかは報われるようになれるのか?」
颯天のモチベーションの殆どを占めていた透子までが、もう自分には手の届かない所へ去って行く幻想が、何度も脳内で再生された。
「颯天にはずっと、地球防衛隊員になる夢と、新見さんに近付くという夢が有っただろう! その2つとも勝手に一気に無くすなよ! そんな事したら、今まで頑張って来た努力だって、水の泡じゃん」
「だって、実力の差を毎回、イヤというほど見せつけられて、その上、僕が足引っ張っているからって、こんなボコボコにされてるし。お前は、意気揚々と地球防衛隊の事を語って来るし。透子さんは、もう荒田さんのものだっていうし。そんなんだったら、ヤケになってもしゃーないじゃん! なんかさ、今なら、
颯天の口から
「幕居さん? ああ、寧子ちゃんか。彼女がどうしたんだ?」
親し気に、寧子の名前に、ちゃん付け呼びしているのが気になったが、憧れている花蓮の事も、名前にちゃん付けしているから、雅人のお気に入りに対する呼び方なのだと解した颯天。
「信じられない事に、今日、幕居さんからプロポーズされたんだよ」
半信半疑な状態のまま、ボソッと呟いた颯天。
「えっ、寧子ちゃんが? ついに颯天にまで、プロポーズし出したのか!」
その雅人の言葉に、今度は、颯天が驚かされた。
「ついに僕にまでって……? もしかして、雅人も、幕居さんからプロポーズされていたのか?」
「ああ、確か2週間くらい前だったかな?」
自分より2週間も早く、雅人まで寧子にプロポーズをされていた!
寧子にプロポーズされていたのは、自分だけでは無かったのだと知り、唖然となった颯天。
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