第7話 一歩先を歩く雅人
見るからに颯天と話したそうな様子で、雅人は部屋に誘って来た。
「雅人、今日から、地球防衛隊に参加しているんだって? お疲れ~」
「参加というより、まだ、俺はそこを見学させてもらっているような身分だけどね」
雅人は、その
もっとも、立場的にはまだ訓練生のままだったが、地球防衛隊の実践時に、不可視化する特殊スーツを身にまとった状態で、結界内に入る事も許された雅人。
目にした事の無い颯天にとって、結界とは想像するのも難しいが、主に空中戦で発動され、周囲一帯に被害が及ばないようにする為の特殊な異空間だったらしい。
「スゴイな~! さすがは、同期一番の有望株の雅人!」
そんな雅人が友人という立場にいて、鼻が高い颯天。
「そうやってヨイショされても、もうワインとか何も出て来ないぞ! それより、今日は、一段と顔をやられたな~」
雅人がいる時には、雅人の手前、他の同期の男性達もそれほど颯天に手出しをしてなかったが、雅人が訓練から抜けた今は、もう無礼講な状態だった。
「これな~、ヒドイもんだろう? 洗う時、ボディソープが滲みまくって痛かったよ! まあ、これも、僕の肥やしになると思って、これからも耐えるしかないかな」
「早く颯天もsup遺伝子が開花して、一緒に地球防衛隊の棟へ行けるといいのにな~!」
雅人はそう願ってくれているが、自分の今の実力からすると、夢また夢のようにしか思えない颯天。
「難しいよ、今のままでは。何か奇跡でも起きない限り……」
トレーニングしても、同期に追い付けない実力差に、溜め息混じりの颯天。
「きっと、奇跡じゃなくても、今に何とかなるって! そんな事より、聞けよ、颯天! 今日、隊食に行ったら、誰を見たと思う?」
昼食時の隊員専用食堂で、よほどの人物と遭遇したようで、いつになく興奮気味な雅人。
「お前がそんなに
雅人をはじめ、同期の何人もの男性達が憧れている、魅惑のボディの持ち主である淡島花蓮の名前を挙げた颯天。
「確かに花蓮ちゃんはサイコーだが、俺は、仕事中、そこまで色恋沙汰に
ずっと憧れている透子の名前が出て、心臓が高鳴った颯天。
「僕の憧れの2人とも、生で見られるなんて、羨まし過ぎるよ~、雅人!」
話を聞いただけで既に、雅人以上にテンションが上がり、いつかは自分も遭遇する事を夢見て赤面する颯天。
「いや~、2人とも、本当に地球防衛隊として実在していたんだな~! マジで、感激した!」
荒田と透子は一緒のチームに所属し、共に行動していても不思議は無いのだが、食事も同行しているという情報を初めて知った颯天。
自分がもしも、地球防衛隊として認められ、同じチームに配属されたとすると、透子と向かい合って食事をするのも夢ではない気持ちにさせられた。
(僕が、荒田さんのチームに所属されるなんて事が起こり得るわけが無いから、期待するだけ無駄かも知れないけど……でも、地球防衛隊の棟で訓練する事になったら、雅人みたいに隊食で、いくらでも出会えるチャンスが有るんだ!)
その事を知っただけで、颯天のモチベーションが格段にアップした。
「僕は2人のいるAグループに配属されそうだから、その時にしっかり情報収集するつもりだけど……たまたま今日、周りの噂を聞いただけだから、まだ、真偽は分からないけどさ、こんな事、言っていいのかな? どうやら、あの2人、ステディみたいだって」
言い難そうにしている雅人の口から出た言葉に、首を傾げた颯天。
「ステディ……とは?」
外国語が得意な雅人がサラッと言ったが、颯天には耳馴染みがなかった。
「つまり、荒田キャプテンと新見さんは付き合っているって! しかも、結婚も秒読み段階って聞いている」
「えっ……!」
無敵の強さだけでなく眉目秀麗な荒田と、アイドル級のルックスと人気の透子が交際している。
それも、結婚を前提としている。
噂とはいえ、そんな事を聞かされ、愕然となった颯天。
となると、2人の間に、颯天の割り込めるような隙などは有るわけが無かった。
「颯天が地球防衛隊に加わる前に、2人が結婚しないように、早く、お前も頑張って、こっちに来いよ!」
「そんな簡単に言われても、僕みたいにまだsup遺伝子も目覚めてないような人間が、地球防衛隊の棟に行くなんて、現実的にどうなんだろう……?」
自分の憧れている人間同士が、結婚に向かっているという噂が衝撃過ぎて、少し前に出来たモチベーションさえも、玉砕しそうな勢いだった。
「だって、悔しいじゃん! お前が新見さんと出会う前に、もうチャンスすら無くなってしまうんだぞ! おい、颯天、しっかりしろよ!」
「僕だって出来る事なら、今すぐにでも、お前と一緒に地球防衛隊の棟に行きたい! けど、この開花前の遺伝子が、いつまで経っても、僕の味方になってくれないんだ!」
自分がどれだけ人より努力しても、sup遺伝子が開花しない限り、雅人に追い付くどころか、同期達と肩を並べる事すら出来ず、情けなくなった颯天。
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