胃とか色んなものに優しすぎる異世界食第一弾

 諸事情込んだ結果、本日の朝食はこの部屋に持ってきてくれるらしい。わくわくどきどきしながら、お料理を取りに行ったらしいマイアさんを待つ。


 さて、私は意識の低いアラサーである。現代日本にいた頃の朝食は、まあ大体ゼリーとかバナナとかパンとか……お察しください、そんな感じです。


 いや、だって、ほら。朝からがっつり行く元気がないってわけじゃないけどさ。一分一秒でも多く寝ていたい時間帯に、準備と片付けの手間暇を考えたらね。自然と、パッと剥いてパッと残骸をゴミ箱に放り投げて、後顧の憂いなく行ってきまーす! ってできるようなメニューにさ、最適化されていくのだと思うのだな。一人暮らしだと特に、自分でなんとかするっきゃないわけだし。


 まあ何が言いたいかと言えば、食に対する意識がこんななので、朝食も何が出てこようが大体喜べる自信があるということなのだ。どんとこい異世界料理。


 ……あ、でもさすがに、いきなり「歓迎の高タンパクだよ!」とかいって、グロッキーな見た目のものとか持ってこられたら、ちょっとそれは厳しいかな……。


 どうなる異世界料理。今までの雰囲気的に、この流れなら絶対どうあがいてもおいしいの出てくるでしょ、とかめっちゃ油断してたけど、ここで特大の落ちが来ない保証なんてない。


「サヤ様、お待たせしました」


 さっきとは別の意味でドキドキし始めた私は、マイアさんの持ってきたお皿を前にごくりと喉を鳴らす。

 おお、なんかあの……なんて言ったっけ、丸い形のちっちゃいドームみたいな蓋……あれがある。


 マイアさんが音もなく私の前にお皿を置き、そしてご開帳……!


「……………………」

「えっと……昨日がお辛そうでしたから、台所と相談して、なるべくお体に合いそうなものをお持ちしたのですけれど……お気に召しませんでした?」

「め、滅相もない! 大丈夫です、とっても大丈夫です! ただちょっとこう、パンみたいなものが出てくるかなって予想していたので――」

「まあ、わたしとしたことが……パンの方がよろしかったでしょうか? 今からお持ちしましょうか?」

「い、いえいえ、これで! このまま食べますので、ダイジョブ!!」


 いやね。マイアさんを慌てさせてしまって申し訳ないけど、がっかりしてるわけじゃないんんだよ、本当に!


 なんで思わずフリーズしてしまったって、あのね。異世界初料理がまさかのね。


「えっとマイアさん……これっておかゆ、ですかね……?」

「はい、オカユです! やっぱり訪問者様はご存じなのですか? 以前の方にも好評のメニューだったとお聞きしたのですが、間違いではなかったのですね」

「お、おおう……」


 オカユ。なるほど。先人転移者がいる旨は既に察していましたが、その方、食文化の開拓などもなされたのでしょうか。なるほどね?


 まあ、バリバリ和風というわけではなくて、温野菜と鶏肉入りかな? お米の感じとしては、リゾットに近いかもしれない。


 とは言え、てっきり小麦粉由来系の何かが出てくると思っていたところに早速米が出てきたので、またも脳が一瞬処理落ちしてしまったというわけだ。

 もふもふドラゴンといい、ちょいちょい「お客様が本当にご希望の商品はこちらですよね!」って右ストレートをぶっ込んでくる所ありますよね、この異世界。


 さて、お味のほどはいかに……。


「いただきます……」


 手を合わせて、いざ!


 む。ふむふむ。おお……慣れ親しんだお米よりはちょっと固い感じで、やっぱり扱い的にはリゾットに近いのかな。でも、リゾットよりはもうちょっと水分多目な気もする。全体的に薄味仕上がりの優しい味付けだけど、これが喉に腹に染みて、ゆっくり体の内側に浸透していく感がよき……。たぶん鶏ベースなのだろうスープもいい感じ!


「マイアさん、とてもおいしいです!」

「まあ……! 良かったです、喜んでいただけて!」


 待機しているマイアさんが心配そうにじーっと見つめてきていたので、思わず力強く親指を立てて感想を伝えた。


 ちょっと予想していたのとは別ベクトルだったけど、やっぱり私の担当神はできる子のようだ。食にも抜かりなかった。


 昨日からずっと至れり尽くせりが継続中なので、そろそろほんのり掌返しが怖くなってくるレベル。なんかね。この後転移者が複数名密室に集められて、「君達には今から殺し合いをしてもらう」とか言われたりしてね。


 まあいいか。ここまで贅沢させてもらったのだから。でもやっぱりデスゲームはちょっと嫌だな。せっかくもふもふドラゴンとも出会えたのに……。



 さて、ちょっぴり余計な妄想を挟みつつも、朝食も無事に完食した。

 おいしかった! なんだか更に生き返った気持ちだ。


 食後の片付けをてきぱき済ませたマイアさんは、私の格好を改めて点検し、軽く髪や襟元など直してくれる。


「それではサヤ様。今から殿下のもとにご案内いたします」


 へー、でんかねー。把握しました、オッケーです!


 …………。うん?

 殿下?

 私にそんな知り合い、いましたっけ??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る