第123話 勉強しようと思えば思うほど、他の誘惑に足を引っ張られる
勉強会に参加してから30分ほど経過した頃、早速
まあ、彼女にしては持った方だろう。これも周りのみんなが集中しているおかげだろうか。
そんなことを思いながら隣に座る
「
「なんと、見つかってしまいましたか。瑞斗さん、黙っていてくれたらアメちゃんをひとつあげます」
「……取引上手だ」
「ふふふ、受け取りましたね。これで共犯です」
「馬鹿野郎。勉強サボって絵を描いてることくらいずっと気づいてるぞ」
「泳がされてたんですか?!」
「満足すれば勉強すると思ってたんだがな」
そしてその周りに足ツボを刺激する出っ張りが無数に付いたマットを敷くと、「しばらく反省だ」とノートの代わりに教科書を手渡した。
「こんなの残酷です!」
「出たければ勉強するしかないな」
「うぅ、私が何をしたって言うんですか……」
「何もしなかったから怒られてるんだが?」
「むぅ、奈月ちゃんなんて大嫌いです!」
歩けば簡単に出られそうなものだが、夢結にとっては針地獄に落とされたようなものなのだろう。
絶望の縁に立たされて発したその一言は、地獄の番人こと奈月の心の深いところに刺さった。
そりゃそうだ。彼女は夢結のことを思っているからこそ勉強をするように言っているだけで、憎くて虐めたがっているわけではない。
それなのに嫌いだなんて言われてしまえば、悲しい気持ちになるに決まっている。
「なっ?! 私のことが嫌いで勉強しなかったのか?」
「そ、そうです! 奈月ちゃんの思い通りになんてなりません!」
「そうだったのか、気付かなくてごめんな」
しかし、ここで折れる奈月ではない。
彼女はしゅんとした表情で針地獄から救出した夢結を抱えると、部屋の外へと連れて行って扉の外で下ろす。
そして「嫌いな奴の家にいなくていいぞ、もうお前は自由だ」と目の前で扉をガチャリと閉めた。
夜の母親が使う『もううちの子じゃないよ!』戦法と同じやり方は、反抗的だった彼女の心に一点の穴を開けたらしい。
『勉強じまずがらぁぁぁ……!』
あっさりと負けた夢結はドンドンとノックをしながら反省の言葉を述べると、開けてもらったドアの隙間から割り込むように入ってきて奈月に飛び付いた。
「奈月ちゃんのこと好きです! 嫌いなんて嘘ですからぁ……!」
「はは、そんなの初めから分かりきってるだろ?」
「ぐすっ……」
「泣くな、勉強なら分かるまで付き合ってやるから」
「全部わからないです」
「全部教えてやる」
「それは骨が折れますね」
「こっちのセリフだ」
ハッピーエンドなのか、ニコニコしながら並んで座り勉強を再開する二人。
瑞斗はその光景を『なんて茶番を見せられたんだろう』という気持ちで眺めつつ、平然としている残りの二人を交互に見た。
どうやらこの空気がこのメンバーにとっての普通らしい。さすがはキラキラしたグループ、ぼっち陰キャな彼の思考を遥かに超えた次元にいる。
「ねえ、みーくん。教えて欲しいことがあるの」
「やる気出してくれたんだね、だったら何でも教えてあげるよ」
「みーくんは付き合う相手を顔で選ぶタイプ? それとも性格で選ぶタイプ?」
「それは勉強には関係ないね」
「何でもって言ったのに……。あ、でも
「ナチュラルに失礼なこと言ってる自覚ある?」
確かに性格が悪いなと思う瞬間がないと言えば嘘になるが、悪びれる様子もなくそれを言えてしまう幼馴染も同じくらい恐ろしい。
本人の前では絶対に言わないように注意しておくとして、「幼馴染は対象外?」と首を傾げる彼女にはっきりとした答えを返せずに困ってしまう瑞斗であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます