第115話 スポーツは楽しんだもん勝ち
騎馬戦が無事に終わり、続く綱引きはA組は二位。一位はアメフト部とラグビー部の集うD組だった。さすがはパワー軍団である。
その次の種目は生徒が出場するのではなく、生徒たちの家族が戦う玉入れ。入場門には子供のTシャツと同じ色のハチマキを巻いた大人や子供が並んでいた。
「あ、
ふと妹を見つけて呟くと、まるでそれが聞こえたかのように彼女がこちらに手を振ってくれる。
これには兄も黙っていられるはずがなく、スタンディングオベーションならぬスタンディング手振りをお返しした。
「ちょっと、
「早苗がいるんだから仕方ない」
「まったく、シスコンにも程があるわ」
「みーくんは早苗ちゃんのこと大好きだもんね。
「ちょっと、そんなところでマウント撮ろうとしないでもらえるかしら」
「みーくんが好きなものを認められない彼女なんて変だもん。私も早苗ちゃんのこと大好きだしぃ!」
「わ、私だって……」
「
「うっ……」
痛いところを突かれたと言わんばかりに表情を歪めた
その姿を胸を張りながらドヤ顔で見つめていた花楓だったが、あまりにも俯かせた顔を上げないのを心配して焦り始めた。
「こ、これから知れば問題ないと思う! きっと早苗ちゃんも会いたがってるよ!」
「……」
「鈴木さん、そんなに落ち込まないで。傷つけること言ってごめんなさい……」
「……ぷっ」
神妙な面持ちになって謝ったところで、だんまりを決め込んでいた玲奈が吹き出すように笑う。
そして混乱している花楓のほっぺをツンツンと突きながら、「そんなことで傷付く私じゃないわよ」と言い放った。
「早苗ちゃんとはこれから仲良くなるわよ。私、こう見えて子供と遊ぶの得意なんだから」
「子供で遊ぶのが得意なんじゃ……」
「
「ご、ごめんらひゃい」
余計なことを言って頬をつねられる花楓。そんな二人を仲良しだなと横目で見つつ、瑞斗はハハーンに連れられて位置に着く妹を探し出す。
早苗は開始の合図と同時に近くの赤玉へ駆け寄ると、小さな手で抱えられるだけ抱え、ポイポイと一個ずつ放り投げていく。
ただ、背が低いのと力がまだ弱いこともあって、弧を描いて飛ぶそれらはカゴまで届かずに落ちてしまっていた。
それでもいつか入ると信じて疑わず、真っ直ぐにゴールを見つめて投げ続ける姿に胸を打たれたものも少なくはないらしい。
徐々に頑張れという応援の声が増していき、近くにいた大人たちの中には拾い集めたボールを早苗に渡してくれる人もいた。
グラウンドを包み込む熱気が高まり、一瞬頭がクラっとする。瑞斗がその暑さに任せて、「頑張れ!」と大声でエールを飛ばした直後のこと。
ピッピッピ〜!
終了を告げる笛の音と同時に、赤玉がカゴの中のネットを揺らす。その玉はもちろん、早苗の手から放たれたものだ。
「やった! 入ったよ、お兄ちゃん!」
「さすが早苗、すごいよ!」
人目を気にせずに遠距離でワイワイする兄妹に、温かい視線が集まっていることを本人たちは知らない。
これには玲奈もクスリと笑いつつ、「ここまで仲良しだと止める気も起きないわね」と呟いた。
早苗はひとりの人間の考えを、その行動によって変えたのだ。まあ、感動や注目と引き換えに、A組は玉入れに敗北してしまったけれど。
まあ、そんなことをとやかく言う人はいないので気にする必要は無いだろう。楽しんだ者勝ちとはまさにこの瞬間のためにある言葉だ。
瑞斗はそう思いながら、退場門へと向かっていく早苗に手を振りながら、その誇らしげな背中を見送るのであった。
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