第74話 びっくりド〇キーでガチ驚きした人は多分居ない

 陽葵ひまりソファーくっつき事件の翌日。瑞斗みずとは放課後、とある場所へ呼び出されていた。

 呼び出されたと言っても机の上に手紙が置いてあっただけで、誰が待っているのかも分からない。

 ただひとつ言えるのは、相手は彼の存在だけでなく、怜奈れいな花楓かえでのことも知っている人物だということ。

 何せ、手紙には2人も一緒に連れて来ないと大変なことになると書かれていたから。


「今日、中間テスト一週間前よ。勉強しようと思ってたのに、誰が呼び出しなんてするのかしら」

「花楓はみーくんと一緒に居られるなら何でもいいよ? 怖いことは嫌だけど……」

「瑞斗君と一緒にいるのは私。あなたはただのおまけだから、出しゃばるんじゃないわよ」

「むっ、鈴木すずきさんこそ引っ込んでて下さい! お胸は引っ込んでるくせに(小声)」

「……今、なんて言ったのかしら。よく聞こえなかったから、お口をよーく開けて聞かせて欲しいわ」

「い、いふぁいれふぅ痛いですぅ……」


 両頬を抓られてリスみたいになっている花楓を横目に、瑞斗は手紙に書かれていた情報と目の前にあるソレとを見比べる。

 手紙には旧理科室へ来いと書いてあるけれど、それはおそらく旧校舎にある今は使われていない理科室のことだと思う。

 そして目の前にあるのがそれで、時を経て黒ずんだ看板には『理』の文字が微かに見えるから間違いない。

 まあ、そんなものがなくても、ドアの横に『ようこそ、姉川あねかわ様御一行』と書かれた紙が貼ってあるから間違いようがないけれど。


「理科室ってことは、人体模型なんかがあるのかしら。骨の標本なんかも、古い理科室にはありがちよね」

「じ、人体模型?」

「ええ、小林こばやしさんも聞いたことがあるでしょう? この学校の七不思議のひとつ」

「聞いたことない、かもしれない……」

「人体模型を新校舎に移動させた翌朝、模型は旧校舎の元あった場所に戻って――――――――――」


 怜奈はそこまで言いかけて、ふと目の前にいたはずの花楓が消えていることに気が付いた。

 当たりを見回してみれば、彼女は瑞斗の背中に隠れるようにして制服を掴んでおり、体は小刻みに震えている。

 そんな姿を見てしまえば、どう足掻いても理解せずにはいられないだろう。彼女はホラーが超苦手であると。


「あら、小林さんはお子ちゃまね。七不思議なんて誰かが作ったおべんちゃらだと言うのに」

「だって、戻ってるってことは今もここにあるんですよね?!」

「あるかもしれないわね。何せ、『動かしたら呪われる人体模型』だもの」

「ひぃぃぃぃ! も、もう帰る!」

「それじゃあ、瑞斗君は私が独り占めするわ」

「うっ……ねえ、みーくんも帰ろ? 誰かも分からない呼び出しに顔出す必要ないよ」


 花楓は潤む眼でそう訴えてくるけれど、反対に怜奈は早く入ろうと腕を引っ張ってきた。

 もちろん泣いている幼馴染に厳しい言葉をかけたくはないし、彼女がどれだけ怖いものが苦手かをよく知っているからこそ助けてあげたいとは思う。

 けれど、誰かも分からないからこそ相手の目的が何なのかを確かめないといけないし、何より手紙には2人の名前も書いてあった。

 無視して帰ったことで彼女たちに危害を加えられたりすれば、今日のことを一生後悔することになる。それが容易に想像できたから、指令には大人しく従うことにしたのだ。


「大丈夫、何かあっても花楓は僕が守るよ」

「みーくん……」

「仕方ないから私も守ってあげるわ。怖がらせたのは私だもの」

「鈴木さん…………はともかく、みーくんに守れるの? 私と力変わらないんじゃない?」

「花楓、さすがにそれは傷つくよ」


 安心させるためとは言え、幼馴染相手にカッコつけるのはそこそこ精神力を使った。

 それなのにこの反応とは……。瑞斗はやっぱり守らないと言いたくなってしまう気持ちをグッと堪えると、せめてもの仕返しにドアを開けて欲しいと頼んだ。

 ただの古い理科室のドアを開けるだけで何かが怒るはずもないが、それでも怖がっている彼女からすれば十分に怖い行為だろう。

 その予想通り、花楓は震える手でドアの窪みに手をかけると、何度かの深呼吸を挟んでから一気に開けた。そして。


「……」

「……」

「……」


 無言の時間が10秒ほど続いた後、フラッと後ろに倒れてきた体を慌てて支える。

 倒れた彼女……怜奈が見たのは、ドアの向こうに佇んでいた人体模型。こんなものがあれば、驚いて腰を抜かしてしまっても仕方はない。

 あれだけ余裕そうだった怜奈がというところには、瑞斗もかなり驚いたけれど。


「花楓は意外と平気だったんだね」

「……」

「花楓?」


 その後、立ったまま気絶していた彼女を誰もいない理科室の中で寝かせ、目覚めるまでそばで見守ったことはまた別のお話。

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