第46話 偽彼女さんの友人は疑心暗鬼?

 本気で偽恋人を演じると決めてから数日が経過して、瑞斗みずとも段々玲奈れいなと過ごすことに慣れ始めていた。

 当初は反発的だった花楓かえでも同じ気持ちなのか、最近はそれほど噛み付いていない。

 もちろん、彼にベタベタしようとはしてくるし、その度に玲奈に止められてしまってはいるけれど。

 そんなある日の放課後、何日かぶりに部室に顔を出そうかと思いながら荷物をまとめていると、近付いてきた愛しの偽彼女さんに肩を叩かれた。


「ん? ああ、鈴木すずきさん。ごめん、今日は部活に行くから一緒に帰れないんだ」

「聞くつもりの無かった報告に感謝するわ」

「あれ、タイミング的に誘われるかと思ったんだけど違った?」

「今日は彩月さつきと帰るの。でも、あの子がその前に瑞斗君と話がしたいって」

「彩月ってかしわさんのことだよね?」

「そうよ」


 柏 彩月、あの玲奈が自分の口から親友だと言う唯一の相手だ。瑞斗はあまり得意なタイプではないが、お呼び出しされたなら逃げるわけにも行かない。

 彼女の友達ということは、同じくぼっちに鋭い視線を向けるのだろうか。

 玲奈だけならまだ良かったが、その友人も追加されるとさすがの彼も胸がチクッとするかもしれない。

 嫌な話だったら手短に済ませてもらおう。心の中でそう呟いて、彩月が待ってくれているらしい一番近くの空き教室へと向かった。


「失礼します」


 一応声をかけてから中へ入ると、教室後方ヘ固められた無主の机のうちのひとつに腰掛けていた彩月がこちらを見る。

 そしてぴょんと飛び降りると、「よく来てくれた、こっちこっち♪」とニコニコしながら手招きしてくれた。

 テンションが高いギャルは警戒レベル4、ぼっちに無理難題を押し付ける可能性があるからだ。ちなみに最大はレベル6である。


「何か用ですか?」

「そんなお堅いのはやめにしようよ。親友の彼氏は私の友達、もっとフランクな方が良くない?」

「そう? だったら普通に話そうかな」

「おー、話が分かる男の子は好きだよ〜」

「それは光栄だね」


 よく知りもしない相手を友達と言ってしまう距離感には同意できないが、堅苦しいのが嫌いなのは瑞斗も同じだ。

 お互いに気を遣ったところで何も得しないから。ただし、陽葵ひまり先輩は例外だ。あの人は気を遣わなくても敬語が出てくる。

 敬う気持ちなんて少しもないと言うのに。学校の七不思議の8番目に入れてもいいくらいの謎だろう。


「本題に入ってくれる?」

「せっかちだねぇ、まあいいけど。そんなに言うならいきなり踏み込んじゃうよ?」

「スリーサイズは勘弁してね」

「知りたかないわ! あ、今のツッコミ良くない?」

「4点かな」

「ええ……」

「5点満点中の」

「おおっ、高得点! みっちーノリいいじゃん♪」

「それはどうも」


 なかなか用件を教えてくれないのは困りものだが、瑞斗もついつい彼女のペースに乗せられてしまう。

 変にボケるなんてキャラに似合わないと言うのに、ギャルには不思議な力があるという迷信は本当なのかもしれない。

 そう密かに恐れ始めた頃、彩月はようやく本題に入ってくれた。ただし、いつの間にか壁際に追いやられ、顔の横スレスレに手のひらを叩きつけられていたけれど。


「ハッキリ聞くけど、玲奈のことどう思ってるの?」

「いきなりどうしたの」

「答えてくれる? どう思ってるのってば」

「もちろん好きだよ、彼女だもん」

「……なんか怪しいんだよね、玲奈もさぁ」


 瑞斗の返答に納得がいかなかったのか、そう言いながら首を傾げる彼女。

 好きで足りないなら何を言えばいいのか分からないが、怪しまれているのならかなり危険だ。

 ここには玲奈は居ないし、自分でなんとかするしかない。だったら、思い切ってしまった方がいいのではないか。

 彼はそう判断すると、相変わらず疑り深い瞳を向けてくる彼女へ、決した覚悟をぶつけることにしたのだった。


「恥ずかしくて言えなかったけど、僕はもう鈴木さんナシじゃ生きていけないんだ」

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