第43話 鬼の目にも涙とはまさにこのこと
「今日、少し寄り道して帰らない?」
「二人で帰るのは恋人らしい行動だと思うけど、寄り道する必要あるの?」
「私ってこう見えて本格派なのよ」
「唐揚げのために鶏から育てるタイプってこと?」
「本格過ぎるわよ。恋人を演じる上で、不仲では長続きしないでしょう?」
「一理あるね」
「だから、この機会に擬似デートを重ねて仲良くなるのもありだと思うの」
「なるほど」
確かに、嘘をつき通したい彼女にとって、お互いの関係値がマイナスに振り切れることは避けるべきことではある。
ただ、納得しかけたところでふと我に返った瑞斗は、イヤイヤと右手を顔の前で横に振った。
「僕はまだ恋人になるなんて了承してないんだけど」
「まさか、ここでリタイアするつもり? 私が嘘つきになって、みんなから生卵を投げつけられてもいいって言うのね」
「いや、アメリカのバラエティじゃないんだから」
「あなたは教室で平穏に寝たいはずよ。だったら、私に協力すべきだと思うけれど」
「どういうこと?」
「私たちが恋人関係を確立すれば、小林さんも無理に割り込むことを諦めるわ。そうすれば、あなたはゆっくりと眠れる」
「そう上手くいくかな」
「ええ。男さえ寄り付かなければ、私はあなたを構う理由もないわけだし。ウィン・ウィンの関係と言っていいはずなのよ」
「……そう言うならそうなのかな、よく分からないけど」
玲奈は「あなたは私の言う通りにしていればいいの。ちゃんと報酬のりんごジュースは払うんだから」と首を傾げる瑞斗を強引に押し流す。
しかし、本心では自らの言動を後悔していた。だって、『あなたを構う理由もない』なんてセリフは本来の目的とは相反するものだったから。
(ああ、どうしていつもカッコつけるのよ! 素直に目的を果たしても仲良くして欲しいって言えばいいだけなのに……)
以前も述べたが、彼女の目的は言い寄ってくる男を遠ざけるついで……ではなく、瑞斗と仲良くなるついでに男を遠ざけること。
いつの間にか高嶺の花だなんて言われ、その気もないのに孤立していた玲奈にとって、素直になれる友人はなるだけ多い方が良かった。
連絡先をゲットする、話しかける理由を作るという2つのステップは既にクリアしているため、ここからはより距離を縮める必要がある。
そう、これは恋人(偽)になってから友人になるという、瑞斗とは別の意味でほぼぼっちになってしまった玲奈なりの友達作り作戦なのだ。
「それで、行きたい場所ってどこなの?」
「もう少し歩いたところね」
「早く帰って寝たいんだけど」
「一々うるさい。黙って着いてきてくれれば、今度私の腕枕で寝させてあげてもいいわよ」
「枕なら間に合ってます」
「それはつまり、私の他に腕枕してくれるような女がいるという意味かしら?」
「い、家の枕で事足りるという意味でございます」
「……まあ、いいわ。負けた感はムカつくけど」
短くため息をこぼす彼女に、ホッと胸を撫で下ろす。あの目は確かに本気だった。
花楓以外にも敵がいると分かれば、『これが一番簡単な方法よね』と二人まとめて斬り捨ててしまいそうなほどに。
「ちなみに、もしそういう存在が居たとしたら?」
「男子だから知らないでしょうけど、女子には秘密の連絡網があるのよ。そこにソイツの弱みを流して消えてもらうわ」
「……恐ろしい」
「冗談よ。そんなことしたら、私がその子に劣ってると自白してるようなものじゃない」
「えっと、つまり?」
「こう見えて私って平和主義なの。話し合いで解決出来る場合はそう努めるわ」
回し蹴りを複数回見ているせいで、これまで冗談に聞こえなくもないが、言われてみれば確かに不用意な攻撃はしていない。
何より、今一番鬱陶しいと思っているはずの花楓とは口喧嘩で収めているのだから、少なくとも『むしゃくしゃするから殴らせろ』的な感じでは無いはずだ。
そのことに気がついた瑞斗がウンウンと感心していると、玲奈が突然零すように呟いた。
「私、小林さんには申し訳ないと思っているのよ」
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