第37話 美味しい弁当は素材や見た目で測れない
あの後、
花楓の方はさすがに我に返ったのか、なんでもないと言ったものの、玲奈の方はあっさりと「初めまして、
もちろん、そんな情報は初耳のハハーンは困惑……するかと思いきや、「あらやだ、べっぴんさんね!」なんてテンションが急上昇。
瑞斗も少し前から思っていたが、彼女は『好意を断ることに疲れた』と言っていた割には平気で嘘をついているように見える。
そこがどうにも納得いかないのだ。まるで、自分のことをいくら巻き込んでもいいと思われているような気がしてしまうから。
「僕は準備してくるから。
「いえ、ここで結構よ。それより
「わ、私もみーくんと――――――――」
「恋人同士の時間を邪魔するような真似、したら許されないことくらいわかってるわよね?」
「ふぁ、ふぁい……」
花楓はギュッと鼻をつままれると、情けない返事をしてから慌てて家を飛び出していく。
ドアが閉まる直前、何も無いところでつまづいたように見えたけれど大丈夫だろうか。
そんなことを思いつつも、「早くしないと遅れるわよ」と急かされるとハハーンの手前で何も言えず、ただただ言うことを聞くしか無かった。
そして十数分後、彼は通学路を歩いていた。隣にはもちろん玲奈……あと、偶然にも同じタイミングで準備を済ませて出発した花楓も一緒だ。
ただ、今歩いている道は二人並んで歩いてギリギリの道幅で、頑張っても3人並ぶことは出来ない。
その状況下では花楓も成す術がなく、場所を奪おうにも引っ込み思案な部分が出てしまって、一度も前に出られずにいた。
「瑞斗君、私お弁当作ってきたの」
「それは助かる。今日は購買で買う日だったから」
「えっ、追いかけて2人きりになる作戦がぁ……」
「お昼は一緒に食べましょうね。恋人なんだもの、仲がいいところをみんなに見せておかないと」
「それも一理ある」
「わ、私も混ぜて―――――――――」
「どこぞの幼馴染に奪われるわけにはいかないもの。地盤はしっかり固めておかないと、ね?」
時折話に入ってこようとするも、声も体も玲奈に締め出されるようにして
瑞斗もフォローしようと思考を巡らせるが、すぐに言葉を投げかけられてそれどころではなかった。
きっと、その反動なのだろう。学校に到着してからの花楓の様子が、控えめに言ってすごくおかしくなったのだ。
執拗に絡んでくることはいつも通りだが、らしくもない話をしようとしたり、勉強なんてしないくせにノートを見せてと頼んできたり。
極めつけは昼食に乗り込んできて、玲奈の作った卵焼きを食べてしまったことだろう。あれはさすがに怒られて当然だった。
「いつもより上手く出来たのよ?! 吐き出しなさい!」
「
「……いい度胸ね。お望み通り好きなだけ食べさせてあげるわよ、この食いしん坊!」
「んぐっ?!」
頬を引っ張られながら説教されても言うことを聞かず、反省の色すら見せない様子にブチギレた彼女は、ありったけの卵焼きをその口の中へと押し込んでいく。
3個目が入ったところで苦しそうに悶えた花楓を見て、さすがの瑞斗もストップをかけたけれど、もし止めなかったら6個まではいっていただろう。
幼馴染が卵焼きで窒息なんて洒落にならないし、そもそも一日中騒がしいこの環境は、昼寝を挟みたい彼にとって毒でしか無かった。だから。
「みーくん、一緒に帰ろ!」
「いいえ、瑞斗君は私と帰るのよ」
「幼馴染の方が付き合い長いし、楽しく話しながら家まで歩けるもん!」
「彼女優先に決まってるわよね? 路地裏でキスくらいなら、してあげてもいいのよ?」
「幼馴染っ!」
「彼女よ!」
放課後になってまで両サイドから引き裂かん勢いで取り合われた瑞斗が、部活があるからと言い訳して逃げ出したことは言うまでもない。
その時の彼は駆け込んだその部室を安寧の地だと信じて疑っておらず、まさか全てを見た者が待ち受けているだなんて知る由もなかった。
「姉川くん、ようやく部活に来てくれたんですね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます