第3話 騎士が攻めてきた

 オッサンダークエルフのペトラさんの予想通り、王都の王宮前広場にダンジョンはつながったようだ。


「おわっ、何だこれは」

「地割れか?」

「いや、階段があるぞ」

「これはあれじゃねえか……ダンジョン!」

「おいおい、王都に新しいダンジョンかよ?」

「あそこに騎士様がいる。呼んでこよう」


 薄暗かった地下室に光が差し込んできた。

 そして、大勢の人声が聞こえる。

 突然現れたダンジョンに戸惑っているようだ。

 最後のセリフに俺はドキッとしたよ。


 そう、騎士!


 うーん、異世界らしい素敵ワードだけど、ダンジョンマスターになった今の俺には危険きわまりない存在なんだよね。

 そうか、もうすぐ騎士が来るのか……

 ペトラさんは腰の剣を抜きヤル気満々。意外と様になってるな。いや、ただのヤケクソかな?


「うふふ、戦闘なんて久しぶりだわあ。じゃあ、あたしの愛するアスカちゃん。イゾルデにダンジョンを命懸けで守るよう命令をしてくれるう?」

「うん、イゾルデはそのまま待機してて。ペトラさんも物騒な物はしまって」

「イエス、マスター」


 俺の命令にナース服のマリオネットゴーレムは従順だ。

 どうやら、ダンジョンコアを飲み込んだ事で権限が俺に移ったらしい。

 一方、ダークエルフのオッサンは不思議そうな顔。


「あらあ、アスカちゃんったら自殺願望アリの人? でも、ダメよう。お姉さんはねえ、暗黒神様にアスカちゃんを絶対に守るよう命令されてるのう。だからあ、アスカちゃんはダンジョンの隅に隠れていて良いからあ、イゾルデには戦いの指示を出してくれるう?」


 そして、オカマダークエルフが真剣な顔で俺にお願いしてきてる。こんな表情もできるんだ。

 黒と銀のエロいビキニアーマーと相反して、オッサンがスゲーかっこよく見えるぜ。やべえ、異世界に眼医者さんっているのかね? 一度、みてもらいたい。

 でも、今は迫り来る危険に対処しなきゃな。俺はオッサンダークエルフに答えた。


「ごめん、戦いの指示は出せないよペトラさん。俺は話し合いたいんだ。これから来る人の性格次第だとは思うけど……何とか平和的に解決できるよう説得してみたい」

「まあ、アスカちゃん本気なのねん? うーん、凛々しいわねえその顔。素敵だわあ。アスカちゃんがそれを望むなら仕方ないわねえ。まあ、この戦力だと勝てっこないもんねえ。分かったわ。じゃあ、最後だから敵が来るまであたしとイヤらしいことをしましょう」


 剣を元の鞘に戻しながらペトラさんがニヤリと呟く。


「しねえよ、こんな時に! ていうか、どんな時もあんたとはしねえし!」


 まったく、この人は絶対にブレねえ。

 とにかく俺は戦う気がない。どうせ勝てないしな。それよりも話し合いたいんだ。日本人なら当然でしょ。


「まず、アスカちゃんがあ、あたしのビキニアーマーを剥ぎ取るでしょ? それからあ、なめ回すようにあたしの顔中にキスするの。そしてえ、アスカちゃんの右手があたしのスレンダーなオッパイに伸びてえ……ああん、そこはダメ。乳首は感じちゃうのう。そして、言葉攻めが始まってえ……」

「おーい、帰ってこい糞オカマ!」


 まだ妄想が続いていたとは。

 エロは俺じゃなくてこのダークエルフじゃね?

 そんなことを考えていた時だった。


「誰かいるのか?」


 階段の方から声がした。

 緊張した男の声。

 これが多分、騎士さんなんだろう。

 それにしても、今の会話を聞かれたのか……

 まあ、狭いダンジョンだからねえ。


 できたてホヤホヤのこのダンジョンは四部屋あるんだけど、広さは一部屋六畳間位。

 しかも、ドアがない。だから声も聞こえますよ。

 ペトラさんのエロい妄想はデカイ声でやってたしね。

 うーん、同類と思われないか……ちと恥ずかしい。

 でも、今はきちんと返事をしよう。


「あ、はい、ここにいます!」


 俺の答えに相手は驚いたようだ。


「に、人間か?」


 まあ、普通のダンジョンはモンスターの巣窟。しかも、できたばかりのダンジョンだ。人間なんて想定外なんでしょうね。


「はい、ここにいるのは人間とダークエルフ、そしてゴーレムが一体です」

「な、なんと」


 まあ、できたてホヤホヤダンジョンでも、普通はゴブリンとかスライムがいるみたいなことペトラさんが言ってたもんな。

 たったの三人じゃ驚くか。


「本当にモンスターはいないんだな?」


 騎士が少しホッとした声で聞いてくる。

 一人で来たのかな?

 他に声は聞こえない。

 ならばモンスターの多い少ないは気になるだろうね。


「はい、俺と秘書のダークエルフ、そしてゴーレムが一体です」

「あらん、アスカちゃんはダンジョン的にはモンスターよう? あたしもだけどねえ。あたしたちは人間とダークエルフの限界を超えたエロいモンスターなのよん」

「おいっ!」


 何を言ってんだ、この人は。頭、大丈夫か?

 いや、頭おかしいのは知ってたけど!


「騙したのか! そのモンスターの名前は何だ?」


 騎士さんの鋭い誰何。


「石井飛鳥イシイアスカ、エロくて危険なダンジョンマスターよう。ただし童貞なの。うふっ、これからあたしと初夜を迎えるのよう。ちなみにあたしはペトラ。処女なのよん」

「うおいっ!」


 大嘘を答えちゃったよ。何、余計なことを言ってんだこのオカマダークエルフは。

 それに童貞ってなぜ知ってる?

 そして、お前の処女はどこにある!?


「とにかく、今からそちらに向かう。抵抗すれば容赦はせんぞ!」

「ええ、もちろん」


 痺れを切らした騎士さんが来るようだ。

 緊張する。

 そういや、この世界に来て初めての人間か。

 まあ、俺が異世界に来て二時間くらいしか経ってねえみたいだけど。

 俺の耳に金属音が聞こえてきた。


 現れたのは重そうな白い金属鎧を着た三十代くらいの男。

 金髪で青い目をしてる。けっこうイケメン。背も高い。

 当然かもしれないが剣を構えている。

 どうやら、一人のようだ。


「本当に人間か?」

「ええ、俺の名前は石井飛鳥イシイアスカ。なんかダンジョンマスターってのにされたみたいですが、間違いなく人間ですよ」


 さっき、ステータス見た時に種族人間ってあったから大丈夫。


「そうか、それでは……死んでもらおう!」


 騎士さんがそう言い放つと剣を振り上げた。

 ええっと……俺、詰んだ?

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