異世界でダンジョンマスターになったので、のんびり福祉の仕事をしたいと思う

後藤詩門

第1話 異世界でダンジョンマスターになった

 突然ですが、異世界に転生したみたいです。

 何を言ってるか分からないでしょうが、俺も全然分かってません。


 あ、自己紹介しときます。

 俺の名前は石井飛鳥(イシイアスカ)、二十八歳、独身、市役所勤務。

 ぶっちゃけ、普通の人間です。

 学生の頃ハマってたゲームとかも卒業したし、今の趣味は釣りと読書くらい。

 いたって普通の人間ですよ。

 それなのに、寝て起きたら異世界。


 ええっ?

 俺、死んだの?

 仕事は?

 家族は?

 何なのこの展開?

 重いわあ。

 重すぎるわあ。


「あらあ、アスカちゃんったら、まだ信じられないのう? ダメよう、異世界転生の主人公がクヨクヨしちゃあ。もっと、しっかりしなきゃあ!」

「え、ええ……」


 突然ですが、俺の目の前にいる人はペトラさん。

 俺がさっき起きたら薄暗い洞窟みたいな場所にいて、側にこの人が立っていたわけだ。

 もう、お気付きだと思いますが……


 この人オカマです。


 いや、俺は性差別とかしねえし、オカマだろうがオナベだろうがゲイだろうがレズだろうが自分で選んだ人生を歩めば良いじゃんって思ってる。周りがとやかく言うのは嫌い。


 ただ、この人……


 ダークエルフなんすよ。しかも、オッサン。いや、こういう場合はオバサンって呼ぶの? とにかく、中性の人。

 いや、俺はヘイトは嫌いですよ。でも、ついつい思っちゃうんですよねえ。異世界のダークエルフってそうじゃないだろって。

 いつまでも若々しくて精霊魔法とか使ってちょっと悪のイメージでさ、美男美女ってのが定番でしょ?


 それなのに、オッサン。そして、オカマです。

 ていうか、俺が起きたとき、このダークエルフは俺のチンコいじってやがったんですよ!

 最悪だよ、このセクハラダークエルフ。


「もう、アスカちゃんったらバカねえ。せっかく異世界に来たんだからもっと楽しまなきゃあ。あとであたしがサービスしてあげるからね」

「いえ、結構です」


 下らないやり取りのあとペトラさんがしてくれた説明によると、俺はダンジョンマスターとして転生したらしい。

 ダンジョンとは地下迷宮。

 暗黒神が創った人間の感情や魂を喰らう場所なんだって。


 誰だよ、暗黒神って。


 そんで、ダンジョンマスターってのは、その地下迷宮の管理者。

 人間を誘き寄せ、苦しみもがいて転げ回らせた後、殺すのが主な仕事なんだってさ。

 こ、怖いよ、そんなの。

 ブラック企業過ぎんだろ!


 なんで超安定職の公務員から人殺しに転職しなきゃなんないわけ?

 まあ、本当はもっと複雑な事情があるそうだ。

 ペトラさんは、魔力枯渇現象がどうたらこうたら言ってたけど……

 寝起きで頭に入って来ません。


「とまあ、ここまでアスカちゃんにはダンジョンマスターのお仕事について説明したんだけどさあ、特に覚えておく必要はないかもねえ」


 あれ、オカマがちょっと投げやりだな。

 せっかくなんで、ペトラさんについて解説しておこうか。

 彼、いや、彼女? は自分の事を補佐官。もしくは秘書だと言っていた。やはり、暗黒神に創られた亜人らしい。

 種族はダークエルフ。これは分かる。耳長いし、髪は銀色の長髪でツヤツヤサラサラだし、小麦色の肌だし……


 ただし、オッサン。ダークエルフのオッサン。イケメンでもなく若作りしたオッサン。

 顔のパッと見はラーメンつけ麺僕イケメンの人。もう、色々とたまりませんわ。


 しかも、オカマ。服装は黒と銀色でできたビキニアーマーってやつ?

 それなのに、チ○コがでかいでかい。もう、あそこがパンパンではち切れそう。あっ、体はレーザーラ〇ンさんに似てるかも。あるあるじゃない方。

 これが美人ダークエルフなら異世界サイコー! ってなるんだろうけどね。人生甘くねえ。

 あと、オッサンの腰には細くて格好いい意匠付きの剣をはいている。たしか、こういうのレイピアって言ったよな。うん、これだけはカッコいい。


「もう、アスカちゃん、あたしの話聞いてるう?」

「は、はい。聞いてますよ」


 ごめん、嘘です。あんまりキモいんで現実逃避してました。


「とにかく、今は一分一秒を争うのよう。例えて言えばあ、射精したいのに急にオシッコ行きたくなった感じ? だから、早急に戦いの準備をしてねえ?」


 例えが全然わかんねえよ!

 だけど……


「戦いの準備?」


 ちょっと待って、ダンジョンマスターって偉い人だよね。

 俺が自分で戦うの?


「違うわよう。さっき説明した通り、アスカちゃんはダンジョンポイント(DP)を使ってモンスターやアイテム、水や食料等を召喚できるのう。それがダンジョンマスター、略してダンマスのチ・カ・ラ・よん。ウフッ」


 やべ、キモい。そして、大事なとこ聞き漏らしてた。


「だからあ、可及的速やかにモンスターを召喚してえ、ダンジョンの防衛体制を整えるべきなのう」


 ええ、モンスター? まだ心の準備が……


「それって、そんなに急がなきゃなんないのですか? 俺、ちょっと休みたいんだけど」


 ちなみに、今の俺は何故かパジャマ姿です。まあ、寝て起きたらここに居たんで違和感はなかったけどね。

 でも、ペトラさんが言うには肉体も若返ってるみたい。多分、中高生くらいか? じゃあ、服も若者向けのカッコいいのにしてほしかったよ。

 鏡がないから本当かどうかはよく分からんけど。


「まあ、それでも良いけどねえ。地球時間で、あと、一時間ってとこかなあ? このダンジョンに地上との通路ができるのよう。そうなればすぐにも兵士に攻めこまれてえ、あたしらは皆殺しかもう? まあ、アスカちゃんの自由にして良いのよん」

「ち、ちょっと待って、何その展開。始まってすぐにバッドエンド?」


 いくらなんでもゲームバランスがおかしいだろ。

 いや、ゲームじゃないけど。


「暗黒神様はねえ、創られたダンジョンにマスターを置くの。大抵は御自分の腹心を据えるんだけどう、何故かここには転生者のアスカちゃんを選んだんだよねえ。あたしも不思議だったんだけど……すぐに理解したわあ」

「理解って何を?」


 どんどん目が怪しくなるペトラさんが不安だ。


「このダンジョンは王都ローエングリンの地下にあるのう」

「へえ、王都ってことは国の首都でしょ。日本で言えば東京都。それが何か問題でも?」

「位置的に地上への通路が出来るとしたら王宮前の大広場になるでしょうねえ」

「んんっ、王宮前? 日本で言えば皇居前……それってヤバくね?」


 オッサンダークエルフのペトラさんが真面目な顔で頷いた。


「王家の威信をかけて、王宮前に出来たダンジョンに攻めこむでしょうねえ。なんの準備もできてないのに……」

「それ、詰んでますね?」

「だから、暗黒神様はあたしにご褒美をくれたんだわあ。すぐ制覇されるダンジョン。残された時間はあと少し。ここにいるのは健康な男女のカップル。そうなると、やることは1つじゃなあい!」


 おい、色々おかしい。まず、男女じゃねえ。そして、やることはねえ。絶対にだ!

 ていうか、その暗黒神ってやつ連れて来い。文句言ってやる。

 何なんだよ、この異世界転生? 無理ゲー過ぎんだろ!


「しかし、何で俺なの? どうせ潰れるダンジョンなら無人で良くねえか?」

「だから、ご褒美なのよう。あたし、お仕事頑張ってたから。ホント、暗黒神様って崇高なお方よねえ」


 いや、知らんわ。ていうか、会ったことねえけど、ぜんぜん崇高じゃねえよ。単なる嫌がらせだろ。


「それで、どうするう? あたしはいつでもOKよん!」


 これが、美人ダークエルフなら気持ちがグラつくんだろうなあ。でも、オカマのダークエルフには一ミリも気持ちは揺らがねえ。しかも、オッサンだし。


「よし、戦いに備えます!」


 ドラクエでも命大事にが一番好きだったからね。当然ですよ。

 あれ、でも……

 そう答えた時、俺に良いアイデアが閃いた。


「ちょっと待って。俺さ、人間なんだから無理に戦わなくてもよくね?」


 ダンジョンに通路が出来たら真っ先に地上に上がって逃げりゃいい。

 着ている服がパジャマだから目立つかもだけど。

 ま、まあ、運悪く誰かに見つかってもすぐに殺されることはねえだろ。


「あら、アスカちゃんったらダメよう。そんなことしても無駄よ無駄~」

「な、何が無駄なの?」

「ダンジョンマスターはねえ、自分の管理するダンジョンから一定距離離れると死んじゃうのよう。暗黒神様による肉体改造はとっくに済んでるわあ。逃げても無駄なのよう」


 うん、終わったな。


「それに、あたしが逃がさないわあ。アスカちゃんとシッポリ仲良くなる前に別れるなんて絶対にいやあ。補佐官とダンジョンマスターはねえ、一心同体なのよう。うふっ、死なば諸共」

「キモいわ!」

「お褒めいただき光栄だわあ」

「いや、褒めてはねえし」


 うん、やっぱ終わったわ。

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