第289話 恵まれている環境

 能力を低く偽れる事があるのか?そんな事を考えた事は無かった。しかし、目の前の彼はとても綺麗な魂の色をしていた。それはまるで…、


「あなたは本当に秀哉さんなのですか?」


 私は彼の存在を疑うような発言をした。そんな事を言われた彼は、


「突然、何をおっしゃるのですか?おかしな人ですね…。」


 惚けて、認めようとしないため、


「いえ、あなたは私に似ているんですよ。別の誰かの魂が入り込んでいて、動かしている。その魂はまるで…。」


 そこまで話そうとすると、


「それ以上は彼を問い詰めないで貰えませんか?」


 20代後半ぐらいの女性が現れて、私に向かってそう言い放った。


「あなたは?彼の…。」


 彼を守ろうする女性にそう尋ねると、


「妻の美雪です。神里 紫音さん、夫への侮辱発言は許せません。」


 彼女はスゴく怒っていたので、知られたくない何かがあるのは明白だったが、ここで揉めて、調査を暗礁に乗り上げさせるのも良くないと感じた私は、


「分かりました。今日の所は引き上げますが、もし…今回の依頼に関わる犯罪行動を取っていた場合は分かっていますね。」


 私は隠し事をする二人へ脅すように忠告したあと、挨拶をして岡崎家を出た。


(あの次男夫婦は怪しさ全開だよ…。母親からは証言を取れないし、あの家にも複雑な家族関係があるんだね。)


 それぞれの家にはパワーバランスがある。もちろん、神里家ウチにもある。ウチは従順な嫁の玲奈と私が姉妹のように仲が良いから円満だが、実際はそうじゃない。ドロドロの嫁と姑関係、義理の姉妹関係があって当然なのだ。


(杏奈ちゃんはパンチの効いた姑と年上の義妹がいて、絶対に大変だよね…。特に次男は影の立場を生き続けないとダメだし。いっそ、ウチのように外様の嫁が当主を務めたら良いのに…。)


 ウチは他と違う。代々、力のある嫁が家のトップになる。


(お義母さまは、猪突猛進の玲奈じゃなくて、頭が切れる私の方を選んだ。)


 家を守るのは子を産める女の方が重要。しかも、才能あってたくさんの子を産めて、精神が強い女が…。そう言う点では、私も玲奈もすべてが条件に当てはまる。


 玲奈は姉への劣等感をバネに努力を積み重ねた事によって幸せを手に入れた女。私は…、紫音と言う若い体で生きている運の良いだけの人間。でも、恵麻や瑠奈、そして…小春。才能が溢れている子供がいる。


(もっと秀哉さんを調べる必要がある。確か、嫁に出た妹がいたよね…。その妹さんに聞いてみよう。この家で何があったのかを…。)


 私が岡崎の家を離れると、頭の中から恵麻の声が聞こえてきた。


「お母さんが引き付けている間に潜入用の忍ロボを設置したよ。あの家族がもし、不振な行動を取ったら、連絡する…。引き続き、他の家族への聞き込みをお願い。」


(忍ロボって何?そんな物をいつの間に作ったのかな…。)


 変な物を作った恵麻むすめへの突っ込みは入れずに「分かってる、次は妹でしょ?」と彼女に答えた。


 工学にも精通する天才少女、恵麻には母親の私は驚いている。まあ、あの子に限って、技術を悪用することは無いだろうし、妹の手前もあるから…変な事はしないだろう。


 予定通り、私は岡崎さんの妹さんに会いに行くことにした。彼女は母親と同様で二十歳の時、他家へ嫁に行ったため、今や関係はほぼ無い。


「神里さんね、こんにちは。兄から、父が死んだって聞きました。その事を隠すなんて…、相変わらず、狂った家です。」


 彼女はこう言う事態は想定内のように答えていた。


「やはり、あなたも兄の一哉さんと一緒で家のやり方に疑問を持っていて、家を出て行ったんですね。」


 私がそう尋ねると、彼女は頷いていた。


「女は楽ですよ。結婚すれば、家を出られるんですから…。でも、秀哉兄さんには、選択肢は無かった。自由が無くて、とても苦しんだと思います。」


 兄と妹が早々に家を出たため、残らざる得なかった秀哉さんの事を話し始めた。


「そんな秀哉兄さんを変えたのは、間違いなく美雪さんです。彼女は秀哉兄さんが次男と言う立場だから将来はトップに立てないし、メリットの無い結婚のはずなのに、献身的に支えて、兄をあのような立派な人間に変えたんです。」


(やっぱり…、結婚する前の秀哉さんとは別人のようだった?)


 妹の彼女も兄が変わったのが魂だと気付いていない?魂の色が見えるはずの兄の一哉さんも気付いていないみたいだし…。秀哉さんか、奥さんの美雪さんが何かしらの催眠に似た事を行っている?


「具体的に秀哉さんが前向きになったのはいつ頃ですか?」


 そう尋ねると、しばらく彼女は考え込んで、


「美雪さんと付き合い始めてだから…、数年は経っていると思いますが、正確には覚えていないです。その前の兄さんはどうせ、次男だからって、ふて腐れて積極性の無い別人でした。確かに指摘されるとそこまで人が変わるのは変ですよね…。」


 兄の変貌に対して、そこまでは考えていなかった事を話していた。


「もう、全員が大人だし、あなたは他家の人間だし、兄弟が互いを干渉しないのも当然ですよ。だから、気になさらないでください。」


 彼女にそう伝えて、覚えていない事が増えるのは当然ですと言って、気にしないでくださいと告げて話を終える事にした。


(三兄弟の仲が悪いイメージは無い。末っ子の彼女は父親と母親が悪いみたいな言い方をしているし、一哉さんとも連絡が取れる状態だ。ただ、互いに距離を取っているから、今はいがみ合ったりをしないのかもしれない。)


 分かったのは、母親は長男の一哉以外には興味が無い事。次男の秀哉さんは昔はあんな人では無かった事、家族全員の家族意識は低く、互いを干渉しないから、別人のようになった秀哉さんに気付いていない事。


(そもそも、問題は高齢の能力者狩りから始まったんだよね。この世界は輪廻転生だから、死んだ人の能力はこれから生まれてくる素養ある者に引き継がれる。)


 特殊な能力は遺伝では伝わらない。素養ある血筋ならその可能性が高まるだけで、生まれる子に特殊な能力があるかは分からない。神里家のトップを外から来た嫁が務めるのは、きちんとした理由があった。


「例え、基礎能力が高くても、特殊な能力を保持している人間を優先する。」


 なら、能力者狩りの犯人は自分の子供や孫に特殊な能力を身に付けさせる可能性を高めるために行っているこっち側の人間…。


(秀哉さんに同居する魂の違いと高齢の能力者狩り…。まずはこの二つの共通点を探そう。)

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