第221話 自殺したら…人はどうなる?

 学校に帰りの駅で自殺未遂をした若い男性を止めた中年の男性と俺、止めたのなら、人生に関わる責任が発生すると伝えた彼は、


「おい、若いあんた…。飛び込みは止めておけ。事後の処理が大変だからな。もし、遺体がバラバラになったら、それを見た駅にいた奴の精神的なダメージを残すし、はね飛ばされて、巻き添えをくらう奴も出るかもしれない。残った家族はたくさんの人に賠償金を払う事も考えるとデメリットだけだ…。」

 彼は電車の飛び込み自殺に関しての金額の話をし出した。


「やるなら…、家で首吊りの方がお金が掛からない。練炭で死ぬ手もあるが、なかなか面倒だし、自宅でひっそり死ぬことにしろよ。」

 彼は人の面前で命を絶つことを止めただけだった。


(なんだろ…、この人。)


彼を助けたのに、ケアをしない中年男性に呆れた俺は、


「う~ん。私は何が原因で死のうとしたのかは分かりませんが、スーツを着ているって事は、仕事に嫌気が差したとか…?」

 取りあえず原因を聞いてみる事にしたら、


私の発言を聞いた中年男性が、

「その程度で死ぬんなら、仕事を辞めろよ。辞めてから死ぬ事を考えろ。衝動で死んで取り返しのつかない事を早めに決断するなよ。」


 かなり厳しい言葉を掛けているが、徐々に攻撃的なスタンスを変えてきた。


そこまで言うと、若い男性は声を出してくれた、

「僕はもう生きたくないんです。毎日が辛いんです。」

 男性がそう言って叫んだため、中年の彼は、


「四苦八苦って言葉を知ってるか?普通に生きるだけでも、人間は苦しいんだ。お前、駅にいた奴が楽しそうに見えたか?違うだろ?体を痛そうに歩いている奴も入れば、クソつまんなさそうにスマホを弄っている奴もいただろ?みんなほぼ、お前と変わんないんだよ。辛いからスマホの動画を見て笑ったり、苦しいから、SNSで誰かに攻撃したりして憂さ晴らししてたりするんだよ!」


 彼は死ぬほど辛くなる前にもっとやることがあると諭したあと、


「死んだら…、楽になれるんじゃねぇんだよ。お嬢ちゃんなら分かるよな。」

 中年の彼は俺に人が死んだらどうなるかを聞いてきた。


(なんで、私に振るのよ。見た目はただの女子高校生だよ?)


 仕方ないから、ウチの仕事の範囲の話をすることにした。


「まず…死んだら、あなたは生前で犯した罪の分、苦しみを与えられます。例えば、さっきの自殺行為で死んだ事になった場合、私はあなたが死んでも死ななくても、精神的に影響はありませんが、ウチの娘はあなたの飛び込み自殺を見て深く傷付いて、泣いてしまいます。あと、多くの女性は見たくない物を見せられて、精神的に傷付く人が出るでしょうね…。


 そうして、多くの罪を背負ったあなたは霊体になって、近いうちに私と会うでしょう。私はあなたの願いを聞いたあと、あの世に送ります。向こう側へ行ったあと、転生するのですが、自ら命を絶って多くの人を悲しませたり、迷惑を掛けた分、悶え苦しんでから心を持たない生物に生まれ変わるんじゃないでしょうか?」


 自殺した人の行き着く先は…、生きている時よりも苦しい道だと話すと、


「死んだら終わりじゃ無いのか?」彼に聞かれたので、


「残念ながら…、今、死んでもさらに苦しむだけです。」と彼に告げた。


それを聞いていた中年の男性は、

「精神的なカウンセリングを受けろよ。原因を取り除いてから、人生を考え直しても…、遅くないはずだよ。」


 そう告げて、彼は駆けつけた駅員に警察を呼ぶように指示した。



 自殺未遂騒動は取りあえず、警察預かりとなったが、自殺を阻止した俺と中年男性は事情を聞かれる事になったので、霊や死に関わるウチの会社の名刺を見せると「あっ、これは…、おっ、お世話になっております!」警察官がペコペコし出した。


(制服姿のJKにペコペコと下げたら、警察官も威厳ゼロだよ?)



 ようやく解放された俺は、一人遊びに飽きて寝ちゃった恵麻を抱えながら、帰ろうとすると…、


「お嬢ちゃんは専門家だったんだな。説得の仕方がプロだったし、面白い物を見れたし、帰るわ。」

 彼は帰ろうとしたので、


「あの~、私、橘 紫音って言います。失礼ですが、あなたは何をされている方なんですか?」

 私服だし、昼すぎで会社勤めをしてなさそうな彼に聞くと、


「うん?仕事はしてないよ。人間関係がめんどくさいから。」

 男性は堂々と無職宣言をしてきた。


(ニート、おじさんニートなのに、スゴく若者に説教してたよ?)


ヤバい人だと確信したため、

「分かりました~、質問に答えてくださりありがとうございました。」

 そう言って、早々に立ち去ろうとすると、


「ああ、絢美によろしくな。」そう言って、彼が普通に帰ろうとしたので、


「えっ?絢美さんのお知り合いですか?」思わず聞き返すと、


「付き合ってたんだよ、俺が仕事を辞めて別れたけどな。」


 絢美さんの元彼に出くわした。彼は再就職せず、ニートにしているから別れたと言っていたので、


「なら、ウチで働きませんか?私の部下として…。」

 新社長の元彼でニートの男性を誘うと、


「言ったろ、人間関係がめんどくさいって…、お断りするよ。」

 彼はそう言って、手を振って立ち去って行った。


(う~ん。悪い人では無いんだけど…。何が彼を働く事から遠ざけてしまったんだろう?でも、もう会うことも無いし、よろしくと言われたから、絢美さんに知らせてあげよう。)



 絢美さんの元彼に会ったことを知らせに白河家へ行くと、リビングに未央がいたので、元彼中年ニートおじさんの事を知っているのか、先に聞いてみた。


「紫音、遅刻してかつ、学校の制服のまま仕事に来るなんて、ウチの仕事を舐めているの?それとも、お母さんにその若さを見せつけて…ケンカを売ってるのかしら?」


(未央お母さん、もしかして…、ご機嫌ナナメなの?)


 自殺騒動の影響で出勤時間を過ぎてしまい、約束を守れない娘を見て、今にもキレそうな未央に叱られたため、自殺未遂を止めた事で巻き込まれた事を話したあと、


「未央お母さん、今日ね~、絢美さんの元彼のおじさんに会ったよ?駅のホームで自殺しようとしてる人を一緒に助けたんだ~。偉いでしょ?」


 いつものように幼い感じで、良いことした娘っぽく彼女に甘えると、


「彼はどこに行ったの!紫音!」

 未央が急に真面目な表情となり、激しく問い詰められた。


(あれ?この反応は訳アリ人間だぞ。ウチの重要人物と私は出会ったんだ。)

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