京都霊能社~霊の依頼引き受けます~

サトリ

プロローグ 採用条件は見える事

はぁ~。思わずため息が出る。

光は途方に暮れながら、京都駅まえの広場にいた。


一ヶ月前に会社の上司と意見の相違でトラブルになり、辞表を出した。


もちろん、次の仕事も決まっておらず、今年35歳になる男は秀でてる分野もなく、転職も難航しそうだ。


とりあえず、繋ぎの仕事を探すか。


ある寺院の前の掲示板に「これが見える社員を募集!」の張り紙を見つけた。

「給料がやたら高いな。もしかして危ない仕事なのかな?」


 見えてる彼は、自分の力を活かせるのでは?と思い。書いてある電話番号に電話した。


 電話の応対者の人から地図はメールに添付すると言われ、その地図をたどり、面接する場所に到着した。

(電話の女性の応対を見ると…、ヤバい仕事では無さそうだ。)


 てっきり危ない現場系の仕事かと思っていたのだが、場所は京町屋の一軒家みたいだった。


 チャイムらしき物を探していたら、戸が開いて同じ年くらいの美人の女性が対してくれた。

「あの~先程、お電話させていただいた神里です。」と言うと、


「ああ、あなたが~。社長の所に案内しますね。」

 さっき電話で応対してくれた方だろう。物腰も柔らかく、とてもキレイな女性だ。


キレイな事務員っぽい女性について行くと、

庶務室みたいな場所に初老の細身の男性がいて、挨拶をしてくれた。


「初めまして、私は白河 正剛(しらかわ せいごう)と言います~。」

 微笑みながら軽く、挨拶をしてくれた。


(社長さんか。)


「そしてそっちのが娘の未央みおや。」

 案内してくれたキレイな女性を指してそう言った。


「よろしくお願いします。」と未央さんが会釈してくれた。


「あっ、神里 光と言います。よろしくお願いいたします。」

 未央さんの物静かな雰囲気に呑まれそうになったが、名を名乗り挨拶をした。


「あの面接は?」ここで面接をするのか?尋ねたが、


「あれが見えたのなら合格やわ。」と白河さんが言った。


「それはどういう?」訳も分からず合格と言われたので聞き返すと、


「あれは能力が無いと見えへんから、合格っちゅうことや。」

 俺は見える、見えないの話をされてますます分からなくなってしまった。


「はぁ~。ありがとうございます。」取りあえずホッとしてお礼を言うと、

(能力?普通は見えない?トリックアートみたいなやつかな。)


「仕事の件やけど、京都は霊の多い町ってわかるかな?その霊に関しての仕事を扱っておるんやけど、神里君は幽霊、信じとる?」

 社長は堂々と霊的な話をし始めたので、


(もしかして来るところ間違えた?)と感じたため、


「いや、信じませんね。」と即答する。

(見たことないからな。)


「そうか、それでもかまへん。」(いいのかよ!)


俺が付いていけて無いのに社長は話を続けていた。

「それでも、この京都には心霊現象を信じとるやつが多いさかい。依頼が減らへんのやわ。」

 依頼と言うフレーズが出てきた。


(えっ?そうなの?)


「だからな、神里君にはその手伝いをしてほしいんや。」


「心霊現象は未知のもんを可視化したり、体感するもんや。したがって依頼の内容は依頼人次第や。」

 社長は付いて来れない俺を無視して話を止める気配が無い。


「とりあえず、一件こなしてくれ。それが採用試験や。」

(あっという間に話が進んでいるぞ。)


「助手付けたるさかい。」そう言って、社長は奥から誰かを呼ぶつもりだ。


紫音しおんこっちにおいで。」女性の名前を呼ぶと、


 社長が紫音と呼ぶと返事もせずに、奥の方から未成年だと思われるかなりの美少女がやって来た。


(綺麗な子、未央さんの娘さんかな?)


「橘 紫音(たちばな しおん)って言うねん。よろしく頼むわ。」


 その美少女は少し、俺を見るだけで何も言葉を喋らず、こちらに目も合わさない。

(彼女からすると、俺はただのおじさんだからな。喋らないのは普通か…。)


「この子は訳ありやけど、優秀やから。未成年やし神里君の娘という役で頼むわ。」

 社長はそう言うとその少女を娘として扱えと言ってきた。


「話まとめるで、採用試験は依頼を一件こなす事、それにこの紫音とコミュニケーションを取れるようになること。その二点や。」

 社長は早速、採用試験を始めるつもりだ。


「行けるか?神里君。」と社長に聞かれたので、


「やってみますが、霊に一度も会った事がないし、試験合格の期待はしないでください。」

 喋らない女の子も霊も未体験の事のため、不合格だろうと思った。


そんな後ろ向きな俺に社長は、

「最終的にダメやっても未央を神里君の妻役で送り込むから安心してええよ。」

(はい?妻役って?)


「夫の役、よろしくお願いいたしますね。」と未央さんが言う。


「美人過ぎるので緊張します。」と俺が言うと、


「まあ、こんなおばさん相手に美人なんておおきに。」と彼女は言った。

(お世辞では無いのだが。)


「紫音ちゃんもよろしくね。」と娘役の少女に俺は話しかけるけど、


彼女は俺の声に反応すらしなかった。

(コミュニケーションは無理そうだ。反応がまったくない。)


 一言も話さない美少女とのコンビで、俺の新たな仕事が始まった…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る