『旨すぎる水』
石燕の筆(影絵草子)
第1話
主婦である横川は水が好きだった。
だが水ならなんでもいいという訳ではなく好みのミネラルウォーターがあるのだ。
ただ、その日はどこに行ってもそのミネラルウォーターがなかった。
コンビニ、スーパー、酒屋まで思い付く場所は行ったのだがいつもなら簡単に見つかるはずの水がどこに行ってもない。
病みつきという言葉があるが、麻薬のように依存してしまうと何がなんでもそれをほっしてしまう。彼女は水がその依存の対象なのだ。
仕方なく家に帰った彼女は水道水を飲もうと蛇口をひねる。
コップに水を注ぎ、ごくりと飲み干すととても旨い。
あのミネラルウォーター以上の味わいだ。
きめ細やかな喉ごしと今まで飲んだことのない新しさを感じる味に彼女はすぐに病みつきになった。
一杯、また一杯とコップに水を注ぎ飲み続けた。
狂ったように飲み続ける彼女。
翌日、マンションの部屋で女の遺体が見つかる。彼女の家族が訪れた際に見つかったのだ。
不思議なことに遺体には水分が一切なくまるでミイラのように痩せ細りカラカラに乾いていた。
傍らには空のコップが置かれていたという。
テーブルの上には、
『水道工事の為、終日断水いたします』の紙が一枚ある。
それは彼女が亡くなるほんの一日前の出来事だ。
『旨すぎる水』 石燕の筆(影絵草子) @masingan
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