第42話
高等部一年『
首長竜のギアルスが放射する粒子光線によって変わる地形に苦慮しながら、足を止めることなく『プレデター』の数を減らしていく、それでも対応しきれずに群れが第一防衛ラインを超えてしまう。真嘉は悔しくなる、到らないと嘆く、情けなくて仕方が無くなる。しかしそれらの渦巻く感情も含めて耐え続ける。
同級生である『
「──そこっ! 真嘉から百メートル東側! また上がってくるわよ!」
咲也の発見率は次第に精度が上がっており、足場が雑草に隠れながらも僅かに浮き出た黒い染みを見つけて、報告を挙げる。
≪──来タヨ≫
首長竜のギアルスが、咲也の示した地面から首を伸ばすと、脈絡がなく唐突で、だけど予定通りの人工音声による反撃の合図が発せられる。
──遠くのほうから発砲音が響いた。口から粒子光線を放とうとした首長竜のギアルスは攻撃を中断して口を閉じた。
「……当たった? …… ……当たったんだな!?」
──処理速度を超える圧倒的な質量攻撃、あるいは速度が乗った攻撃であれば擦り抜ける事はない、茉日瑠の提示した首長竜のギアルスの〈
目に見えるものではなかったが、首長竜のギアルスが初めて見せる攻撃を中断する挙動に、真嘉は音速で飛来したライフル弾が“当たった”のだと確信を得る。すると真嘉は今までの鬱憤を晴らすかのように、聞こえるかどうかわからずとも、遠くに居るであろう援軍に向けて高らかに叫んだ。
「頼むぜ!
+++
「──命中不明、効果不明、でも攻撃を中断して潜るあたり、当たってはいるのかしら?」
「この距離と風向き、そしてあれだけでかい的なら外れていることはないでしょう」
「効いてないだけってのも問題だと思うけどね、急所じゃなくていいから、分かりやすいところ狙って」
「なら、首C部位周辺を狙います」
真嘉たちがいる場所から数百メートル離れた地点にて、
「二発目、──命中確認、確かに当たってはいるみたいね」
ルビーは、
「対象は地中に潜伏……頭に当たっても溶ける様子はないわね? 擦り抜けるだけじゃなくて実体も頑丈ってこと?」
≪──命中ハシタ、ソノ後弾速ガ急減衰シ、透過ガ発生シタ≫
「はぁ? じゃあなに、脳に弾丸が届く前にすり抜けちゃってるってわけ?」
人工音声によって届けられた茉日瑠の考察に、ルビーは苦い顔をする。
事実、【
「シビア過ぎるわよ、めんどくさいわね……まあ銃が効くならやりようは幾らでもあるわ」
「はい、
「とりあえず最初は散弾で具合を見るわ。ぐるっと回って撃っていくから気を付けて」
「銃口は常に真上を向いていると思うので問題ないと思います」
首長竜のギアルスにダメージを与えるために、とにかく弾速が必要であるならば距離減衰を意識して近距離で戦うべきだと、
「まだあっちに留まると思う?」
「いや、攻撃を当てたんだ、こちらに来るだろう」
「あっそ、ならあんたも、そろそろ立ったら?」
「分かってる──こちら『アイアンホース』の
≪分かった! ありがとう、そっちも気を付けてくれ!!≫
「ほら、いまの内にスコープ返すわ、ありがとね」
「ああ……」
「…………」
「…………ルビー」
「なによ、戦闘中よ」
首長竜のギアルス待ちとなり、妙な間が生まれてしまった事で、
「その……さっきは銃を向けてすいません」
「謝るぐらいなら全部説明してほしいのよ」
「う……」
「別にいいわよ、ルビーも向けたしお相子、それ以外に言えないってなら、戦いに集中して」
「……了解」
秘密を話すわけにも行かず、ルビーの言葉が正しいと
──ルビーは自分とは違いアルテミス女学園高等部の仲間にはなっていない。そんな彼女が大規模侵攻を生き残れたとしても、その先に希望なんてない。それが、どうしても許容しきれなかった。だからこそ残された時間の中で、自分なりに足掻きたかった。彼女は長年戦ってきた戦友である。自分の選択が最初から彼女に対する裏切り行為であったとしても、彼女を助ける行為がアルテミス女学園ペガサスたちに対する裏切り行為に当たるものだったとしても、やっぱり何もせずに見捨てるのは出来なかった。
「……そんなに心配しなくても、後で根掘り葉掘り全部聞いてあげるわよ」
「ルビー……、こっちを見てくれ」
「ああもう、めんどくさいのよ!」
キレながらも、きちんとこちらを見てくれるルビーに、
「もしもの時は躊躇わずに使います。知っているとは思いますが“突然の視界変化”に気をつけてください」
「あんた……」
「……お土産のことは忘れてください……あとで話しましょう。大規模侵攻が終わりを迎える前に、納得のいくまで」
残された時間の中で、ルビーをなんとしてでも説得して、こちら側に引き込む。いつもどおりの計画らしいものもない感情的な決断であったが、考えて考えて綱を渡るよりかは、自分らしく、失敗ができないなら、こちらのほうがいいと腹を括った。
「……嫌と言っても聞かないんでしょ」
「そうですね。意地でも会話してもらいます」
「あっそう、なら、さっさと片付けるわよ……戦闘」
「開始!」
事前に聞いていたとおりに、地面に黒い染みが現れたことで、
「頭部を狙います!」
「食らいなさい!」
首長竜のギアルスの首が地中から伸び切るのを見計らって、できるだけ近い距離で発砲。ルビーの【
「──命中! 出血確認!」
「こっちも当たったわ!」
弾丸は音速へと到り、〈
「だが生きてる!」
「そんで逃げるわよ!」
最終的には弾切れになるまで撃ったものの、首長竜のギアルスは死んで液体化する様子はなく、なにもせずに再び首を地中に引っ込めた。
「嫌がっているところを見るに、効いてはいるみたいね」
「しかし、芯には届いてはいないのか?」
「透過能力に備えて、見た目通り固くて分厚いってわけ? とことんふざけた奴ね」
『アイアンホース』の耳を頼りに、
「考え込んでいるみたいだけど、どうしたの?」
「……銃撃効果に違和感があります。直感ですが単に頑丈というわけではないかと」
≪──地中カラ出テイル首ト頭ハ、粒子光線ヲ放ツタメダケノ砲塔デアル可能性高シ≫
首長竜のギアルスの次なる浮上を警戒していると、茉日瑠による新たな考察が語られる。
「……はぁ? じゃあなに? 頭には脳みそが詰まってないって?」
「それなら頭は砲門、首も単なる砲身か、違和感の正体はこれですか」
生物的な特徴と言われれば、それまでだが元々
「大事な部分は地中にひき籠もってチクチク攻撃。褒めたいぐらい根暗な奴ね」
「
「あんたの場合、正面突撃もするでしょうが
首長竜のギアルス再び浮上、急所では無いにしろ、まずは首を無力化したいと
「ルビー! 炸裂弾入り
「……っ! ちゃんと当てなさいよ!」
「ちょっと!? 中に入る!?」
弾丸は見事、
半分ほど消失した頭は形容しがたい凄惨な姿となっており、そこから、オイルのような血の雨が降り注ぐ、そんな中でルビーは大切な髪を庇いながら雨の外まで後退する。
「これだから大型種を相手するの嫌いなのよ……」
「……溶けないか。仮説は正しかったみたいですね」
地面下、首長竜のギアルスの首の根元部分があると思われるところからガコンと鈍い音が響いた。そして八メートルほどある首が不自然に傾きだして、そのまま柱のように土を掘り返しながら倒れて地響きを発生させる。
「完全に身軽になって襲いますって感じね」
「ここからは情報がない。警戒を怠らないでください」
「今日のあんたにだけは言われたくないのよ」
首は液体となるが、首長竜のギアルス本体は健在であり、地中内の浅瀬を移動しながら次々と首と同じく余分なパーツを切り離しているらしい、先ほどから鈍い音が何度も土の中から響いていた。
そんな時間が十秒ほど経過して、ルビーは己の足元が黒くなるのを視認する。しかし首長竜のギアルスが浮上したときのとは違う事に直ぐに気づいた。
──これは広大な“影”だ。よって下ではなく日光を遮る巨大な物体が“頭上”に居る!
「ルビーっ! 上だ!!」
──言われなくてもわかってると見上げれば、開かれた大きな口に視線を食われた。
かなり間近に迫っていた10メートルはあろう巨体、今から走って外に出ようとも間に合わないと理性が判断する。
「──
「〈
避けられないならとルビーは即座に、
自分が“瞬間移動”したのだと把握したルビーは、周囲を確認して、ちょうど自分が居たであろう真横、数メートル先にて、巨大な生物、首長竜のギアルス本体は地面に潜りきった瞬間であった。
「……助かったわ」
ルビーの命を救ったのは、
「さっきの、首長竜のギアルス本体でいいのよね?」
「ああ、地中に潜ったところを見るに同じものと言っていいだろう……ルビー、音は聞こえたか?」
「まったく、なにも、姿はどう?」
「見えたが……どう言っていいか……」
ルビーの背後から迫った首長竜のギアルスはドルフィンジャンプの如く、地中から飛び出して襲い掛かったところを、
「──こちら『アイアンホース』、
≪こちら夜稀、ふたりが見たのは形態を変えた首長竜のギアルスであると断定。おそらく攻撃能力を持った敵対存在向けに余分な部位を切り離して、機動力を上げた姿だと思う≫
自分の考えであり、長文を話さないといけなかったため夜稀は人工音声ではなく、自身の肉声にて話しはじめる。
≪以降、首長竜のギアルスを『ギアルス・クビナガ』と呼称、そして長い首がある姿を“モードプレシオ”、そして現在の姿を“モードプリオ”と命名する≫
「命名了解。これより首長竜のギアルスを、『ギアルス・クビナガ』、現在の姿を“モードプリオ”と呼称する」
夜稀は、『ギアルス・クビナガ』は2種類の形態があるとし、それぞれの身体的形状から、本体は安全な地中へと居ながら、頭部のみを外に出して、主に地下や分厚い外壁などで守られているシェルター内の人間を掃討するギアルス・クビナガ本来の姿を“モードプレシオ”。そして機動力を向上させるために体の一部を切り離して戦闘向けとなった現在の姿を“モードプリオ”と名付けた。
名付けによる明確な区別は、報告と連絡を行うために重要な行為であることだと教えられている『アイアンホース』の
「厄介ね」
「ああ……」
ギアルス・クビナガ“モードプリオ”は地中を素早く泳ぎ、音も発生させず、対象を襲撃する。図体がでかい分、攻撃動作の範囲が広大となり回避も難しい。あげくには音速以上の攻撃以外は擦り抜けてしまう。銃型ALISを使用する『アイアンホース』からすれば、まだ首を出して粒子光線を放射するだけの“モードプレシオ”のほうがやりやすかった。
「だが、厄介なだけだ」
「──悪い、待たせたな」
──遠くで『プレデター』の群れと戦い、そして全てを撃破した高等部二年ペガサス。『
「随分とタイミング良いみたいだけど、もしかして狙ってた?」
「なっ!? そんなわけないじゃない! こっちはこっちで大変だったのよ!?」
「落ち着け」
「すいません。アイアンホース流の冗談みたいなものなので、あまり真に受けないでくれると助かります」
ルビーの物言いに、カチンと来た咲也は精神的に疲労していた事もあって、反射的に怒鳴り返す。真嘉が止めに入り、
「
「はい、問題ありません、先輩方はどうですか?」
「少し疲れたが、むしろ終わりが見えたぶん、やる気は十分以上だぜ」
──既に茉日瑠の指示は下されている。彼女が発案した作戦において真嘉たち高等部二年、そして『アイアンホース』たちの共闘によって、ギアルス・クビナガとの最終決戦へと移行する。
「咲也、香火! 次の群れが来る前に終わらせるぞ!」
「ええ、うんざりしたやつとはっ! これでおさらばよっ!」
「ふぁ……うん、帰ろう、そしてまた……みんなで楽しいどこかに……」
「──アルテミス女学園アイアンホース2名は、コレより決戦へと移行します」
「
各々が一定の距離にちらばり、自身の相棒である『ALIS』を構えた。すると直ぐにギアルス・クビナガの動きを、視野の広い咲也が感知する。
「そこから出るわ!」
咲也の
「ドンピシャね、凄いじゃない」
“モードプレシオ”の時と比べて遙かに速く染みは広がっていき、ギアルス・クビナガが浮上するのを、全員が見ていた。ただ、今回は体半分ほどで止まり、ワニの様な長い口を開いた。
「発砲します! 射線注意!」
当たってはいるものの“プレシオモード”の時のように怯むことなく、ギアルス・クビナガは口内が光ったと思えば、先ほどのことを根に持っているのか標的は再びルビー、彼女目掛けて光る粒子の弾を引き出した。
「まったく、いい感じに釣られてくれるわ」
「〈
「──いい加減、くたばりなさい!」
先ほどと同じく
「ほんと根暗なやつ!」
「深追いするな!」
銃撃は確かに命中するものの、ギアルス・クビナガに対しては火力不足が否めず、分厚い肉体や外殻によって急所に届く前に〈
──ガラガラガラガラガラガラガラ。
歯車が回るような粒子兵器の元となるエネルギーをチャージする『ギアルス』特有の音を響かせながら、ギアルス・クビナガは一定の深さを保ち、泳いでいた。
──ガラガラガラガラガラガラガラ──。
チャージ音が止むが、すぐには浮上して来ずギアルス・クビナガは潜伏する。草の揺れる音も、夏虫の音も無い
彼女らは、無音の襲撃者に備えながら同じことを願う。次は自分たちが求める挙動をしてくれと、そしてその願いは叶えられる事となる。
「……そこ! 飛ぶわ!!」
ギアルス・クビナガは、巨体に似つかわしくない跳躍力を見せて空高らかに舞い上がった。
「それを待っていたんだよ!!」
真嘉はどうしてギアルス・クビナガが全身を曝け出して飛ぶのかと不思議に思っていた。だけど、自分の理解に及ばないだけで何か理由はあるのだろう、優秀な後輩達は、またどこかのタイミングで必ず飛ぶと確信していたのだから。
「〈
“モードプレシオ”の時は体の半分以上が地中に隠れていたため対象にすることが出来なかったが、今なら全身をハッキリと捉えられてると、真嘉は己の〈魔眼〉を発動、二秒間ギアルス・クビナガを空中に停止すると予定通り、合図を送った。
「──やっちまえ! 香火!!」
「ふぅ……永遠に、眠って──【
朦朧とする意識の中で、香火は槍型専用ALIS【サギソウ】を頭上横に掲げて水平に持ち、狙いを定め、数歩勢いづけて──『ペガサス』の全力を持って投擲した。
──『穂紫香火』に与えられた【サギソウ】は、もしもの場合“使い捨て”を前提で作られた一撃必殺用ALISでもあった。
「──〈
香火は直線上に飛んでいく【サギソウ】の石突に向かって、視線を集中させた箇所を熱する〈
──キュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!
弾丸とは違い【サギソウ】は内部の固体型燃料のくり抜かれて作られた角が燃え尽きるまで加速し続ける。それゆえに肉に触れて速度が落ち、すり抜けが発生すれば【サギソウ】は再び加速、処理能力を超えてギアルス・クビナガに再干渉、ギアルス・クビナガが長距離ジャンプを行なうさいの同じ原理である、同一空間における物質の二重存在においての反発現象が発生、これによって進んでいる方向へと、さらなる推進力を得る。
音超えした時の中で、もはや止められないほど加速した【サギソウ】は、ギアルス・クビナガの頭蓋、脳、脊髄だけでは飽き足らず、あらゆるものを強引に貫いていき、そして巨体を貫通しきった矛は、どこぞへと飛んで行ってしまった。もし見つかったとしても、それはもう純白の槍型専用ALISであった残骸となっているだろう。
生物全域の急所である脳に大きな穴が空くという、絶対的な致命傷を受けたギアルス・クビナガは、その巨体を“大地へと叩き付け”てドシンと重々しい落下音を鳴らした。それが音無しの襲撃者であるギアルス・クビナガ最期の音となり、一部を残して液体となり溶けて消え去った。
「香火、平気か?」
「……平気……みんなで海の果てまで泳いで……それから帰ろう……ふわぁ~」
「ああ、みんなで帰ろうぜ」
まだ大規模侵攻は終わっていない、【サギソウ】の機能を使用して消費したさいの予備として【械刃製第三世代ALIS・槍】を拠点に持ち込んでおり、香火は『プレデター』を倒しきってから皆で学園に戻ろうと、最後まで戦う意思を見せる。
「真嘉……」
戦況がようやく落ち着いた事で咲也は、真嘉に声を掛けようとするが言葉が詰まってしまう、翼竜のギアルスから自分たちを庇った事に関して改めて話したいのを察する真嘉であるが、なにも反応することができない。お互いがいま、その事について会話をしてしまうと、どうなるのか分かってしまうために話そうとは思えなかった。
そんな、“卒業”するものを出さずに、未知のギアルスを倒したのにもかかわらず雰囲気が微妙になる先輩たちに、事情を知らない
「ルビー? ……っ!?」
さっきまで傍に居たはずのルビーの姿が見えない。
「──ルビー! いまどこだ!!?」
≪……うるさいわね。耳元で騒がないで≫
嫌な予想に反して言葉を返してくれたルビーに、
「……ルビー、話をしよう。一度会わないか? みんなの前じゃなくてもいい……わかった。ここで話そう」
──彼女の事だ、アスクヒドラの存在までは行かないにしろ、アルテミス女学園高等部の秘密を察したのだろう、そしてそれを好意を抱く【504号教室列車】の車掌教室に伝えようとしている。
「その……隠し事をしていて本当にすいませんでした……そんなつもりはなかったなんて言い訳はしない……伝えるにはルビー、君は先生の事が好きすぎる」
アルテミス女学園高等部の秘密。活性化率を下げられる物が存在している可能性がある。そんな不確定な情報だけでも、真実であるため『アイアンホース』にとって余りある功績になる可能性が高い。ならばルビーは先生に振り向いてもらうために伝えようとすると考えるのは至極当然な話だろう。
様子が変だと思い、どうしたのと声を掛けてくる咲也に、
「……いま、こうやって話を聞いてくれるのは、まだ交渉の余地があると判断します。ならルビー、お願いだ。今から話す提案を呑んでくれ」
──どれだけ迷おうとも、自分たちの事を愁おうとも、最後には好きな先生の役にたつほうを選ぶのは、長い付き合いだからこそ、よく分かっている。だけど、どんなに難しくても、ルビーには生きていてほしいと、
「こちらに来れば生きられる時間が延びる……そう長生きできるんだ。そうすれば先生と会う機会も、チャンスだって必ず出てくる。その恋だって叶えられるかもしれ──≪待って≫──!」
「どうしたの!?」
ルビーが呟いた“待って”というひと言によって、
『待って待って病』、一定の『アイアンホース』が患う精神病。特に
≪……
それは、昨日まで誰にも言っていなかった。ルビーの本当の願い。彼女の望んだ幸福は、幸せは生きることでも恋を成就させることでも無かった。
≪ルビーは、たった一瞬でもいい。世界一幸せな『アイアンホース』になって、こんなクソッタレな人生を終わらせたいのよ──≫
「────ルビー!!!」
失敗した。どうして気づかなかった。そんな後悔と共に
≪言っておくけど、そっちが先だから……悪いわね。どうしてもルビーは……さようなら≫
そう言って通信が切れる。もはや繋がる様子はない。どうすればいいと焦る最中で、新たな通信が開かれる。
≪──お疲れ様でした──後は任せてください≫
+++
「──逝きましょう──【
──『ALIS』にしてはあまりにも短い刀身が、まるで返事をするかのようにキラリと光った。
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