第28話
鉄道アイアンホース教育校に属する『アイアンホース』たちの“在籍年数”は最大で四年、学年に言い換えれば高等部一年が“卒業”の年となる。
彼女たちの“卒業”ラインが活性化率【90%】であること、また全国各地を回っている事から平均的に戦闘を行なう機会が多いなど、他にも多数の理由が重なって、アルテミス女学園と比べて短命となっている。もっともアルテミス女学園の“卒業”率も平均化してしまえば、そこまでの大差はないのだが。
そのため、鉄道アイアンホース教育校では最年長であった
「……凄い、語彙力の無い言葉でしか表現できず申し訳ありませんが、まさに神業ですね」
「ありがとう!
「恐縮です。ですがあれぐらいの狙撃は『アイアンホース』であれば大半が行なえるものです。先輩の技術のほうが遙かに貴重で、とてつもないものかと」
だから、“名前すら聞き出せていない”茶髪ポニーテールの『ペガサス』は先輩呼びを否定せずに受け入れているあたり、自分よりも上級生なのだろうと
──事実、
そんな事はつゆ知らず、
そして次に愛奈が弓の腕を見せた。
──なお、どうすれば当てる事ができるかを感覚的に把握する愛奈の〈魔眼〉である〈
「これほどまでの腕になるまでの訓練数を考えるだけで、感服いたします」
「いえいえー。【ルピナス】を使ってようやくの腕前だよー」
「【ルピナス】……そういえば、見たことの無い『ALIS』ですね? アルテミス女学園は械刃重工社製の『ALIS』を使用していると聞きましたが、もしかして噂の第3世代ですか?」
鉄道アイアンホース教育校では、械刃重工製の『ALIS』は使用していないが、過去に何度か見たことがある弓型とは一致せず、
「そうだよ。それに【ルピナス】は私の専用ALISなんだ。高等部に進学した時からずっと一緒に戦ってきた相棒なの」
「専用? ……もしかして先輩のためだけに作られた『ALIS』なんですか!?」
たったひとりのために作られた専用ALISに、
「アイアンホース校では、専用ALISって無いの?」
「個人のためだけに作られたというのは流石に。『
『アイアンホース』が使用している『ALIS』は大阪地区に拠点を置き、『プレデターパーツ』を用いた乗用車や兵器をメインに開発、製造、販売を行なっている『
「へー。なら実質、専用ALISみたいなものになるのかな? 名前とかあるの?」
「はい、【
「じゃあ【ナインちゃん】だね!」
「ちゃん……先輩は自分の『ALIS』をちゃん付けで呼ぶんですか?」
「ううん。普通に【ルピナス】って呼んでるよ」
「え? ……あ、もしかして言わせようとしました!?」
図星を付かれた愛奈はそんなことないよーとわざとらしく否定する。単なる冗談だと分かるため、
「……【
「お、もしかして気に入ってくれたの?」
「あ、いや、自然と口に出ただけというか、……揶揄わないでください!」
妙に気恥ずかしくなり、帽子を深く被って誤魔化す
──愛奈のことを本当に不思議な人だと、
「お詫びに自分のできる範囲でなら、なんでもお願いきいちゃうよ〜」
「……そうですね。先輩が宜しければ、大規模侵攻に向けて、地上での動き方や、戦闘での立ち回りなどご教授をお願いしたいです」
「もちろんだよ! ……でも、なんでも自分だけで頑張ろうとはしないでね。私たちも一緒に戦うから」
「……善処させて頂きます」
──どうにも自分という人物を読み取られている気がするが、悪い気はせず、むしろ理解されていることに、どこか安心感すら覚えている自分がいて、なんだか懐かしくって、名前の知らない先輩とのやりとりに、いつの日からか忘れていた楽しさを思い出していた。
「そういえば弾はどうするの?」
「自身が在籍している間は、本体の部品に合わせて『K//G社』から変わらず補給されるとのことです。それに既にアルテミス女学園内のサーバーに機体情報を登録したので、整備室でのメンテナンスも可能であると聞きました」
「ちゃんと考えられているんだね」
「──でしたら、もう少しだけ付き合って頂けませんか?」
──そう言って会話に混ざってきたのは、長く艶やかな黒髪の『ペガサス』。
「……付き合って……というのは訓練のことですか?」
「ええ、と言っても、わたくしの得物は大太刀なので、行うのはちょっとした異種格闘技戦ですが」
愛奈に対する気持ちが好意的な一方で黒髪の『ペガサス』──月世のことを
──ニコニコと笑う野花に、アイアンホースの主と呼ばれる大人たちの影がチラつくならば、月世は“そのまんま”なのだ。同じ黒髪だからではない、雰囲気以上に、存在そのものが、あの理解できない上位存在たちにしか見えなかった。しかし、そんな事はあり得ない。かの一族は徴兵される事は決してあり得ない存在だ。
万が一があったとしても、それに彼らが住まうのは大阪地区であり、東のアルテミス学園に居る理由がこれっぽっちも浮かばないと、
「ふふっ、どうかしましたか?」
「い、いえ……。異種格闘技戦とはいいますが、実際なにをするつもりですか?」
「難しい事をするつもりはありません。ただお互い正面に立ち会って合図と共に戦い始めるといったものですよ」
「……申し訳ありませんが訓練用の模擬弾を持ち合わせておりません。銃を用いた敵対訓練がお望みであるのでしたら、違う方法を考えるべきだと愚考します」
「わたくしたちは『ペガサス』ですよ。急所以外であれば多少怪我したって平気です」
ここを狙いなさいとばかりに、自らの腹を撫でる月世に、
「ごめんね」
小さく謝られてもと、
「……わかりました。ただし条件があります」
「聞きましょう」
「自分が使用する弾丸は一発、肉体や装備に当たったら自分の勝利です」
「では、わたくしはその弾を避けるか、わたくしの『ALIS』、【待雪草】の間合いまで近づけたら勝利といたしましょうか」
「それで構いません」
──変な事になってしまったと内心で深いため息を吐きながら、
お互いの距離は10メートルほど、『ペガサス』の俊敏性や移動速度、【
月世はもっと後ろへと下がろうとしたのだが、移動範囲が広くなり、下手に動かれては困ると、その位置でいいと停止させたのは
「構えてもらっても結構ですよ」
「ですが……」
「問題ありません。せめて引き金は絞りたいでしょう?」
「……わかりました」
自信があるというよりも、何かを狙っている様子に、
──得物が見えない?
月世は膝を落とし、【待雪草】を前に突き出した肘と刀身が水平状になるように後ろへと流す、変わった構えを取った。これによって
月世がとった構えは、とある流派で“車の構え”と呼ばれるものを彼女なりに改良したもので、元は同じ刀を持った人間を殺すために開発されたものだ。それを知るよしもない
──黒髪の先輩の構えは側面を前に出している姿勢であるため、速く移動するには不向きだ。しかし、体の面積が減って中々に狙いにくく刀身も隠れてしまっているため装備部分に当てて勝つというのも難しい。さらにはルール上、当てやすい“急所”は狙っては駄目。ならばと足を狙えば、この先輩の事だ簡単に避けるだろう、あるいは『ペガサス』の身体能力をフルに活用して、放たれた弾丸を真っ二つにする算段なのかもしれない。当てられる場所が限定されている以上、自分が何処を狙うのか読みやすいに違いない、そういえば先輩は最初、自分からできるかぎり距離を取ろうとしたように見えた。
これはやられてしまったかと、当然であるが急所を狙えないようにルールを取り付けた行為が先輩に誘導されたような気がして、
「じゃあ、行くよー」
気がつけば真剣になっていた
「模擬戦はじめ!」
──だから、突如として月世の姿が視界から消えた時、
「…………は?」
「はい、わたくしの勝ち~」
思考が動き始めたのを見計らった頃、茶目っ気全開の声が真横から聞こえてきて、咄嗟に右を向いた。すると目の前に楽しそうに微笑む月世が居て、
「……え?」
「駄目ですよ、わたくしたちは『ペガサス』なんですから、ちゃんと
揶揄い気味に放たれた月世の助言に、
「…………〈魔眼〉を……使った?」
「ふふっ、驚きましたか?」
「──な、なにを考えているんだッ!?」
──自分でも信じられないほどの怒声が訓練所に響き渡る。〈魔眼〉とは『ペガサス』が必ず保有する瞳であり、何らかの特殊な能力が備わっている。しかし、力を使用すればするほど、その分、『ペガサス』の目に見える寿命とも言われる活性化率が上昇する。
そのため〈魔眼〉というものは、ここぞというとき以外は使うものではない、たかが模擬戦如きで決して使うものではないのだ。
「どうしてこんな事のためにっ!? 転移系であるならば上昇率は低くないでしょう!?」
──それなのに、この先輩はたかが模擬戦に勝つためだけに〈魔眼〉を使用した。
「──ふふっ、別にいいじゃないですか、『ペガサス』となれ果てた以上、伊達や酔狂を楽しんでこそですよ」
「っ! ……っ!? ふざけたことを語るな!」
命を軽んじる月世の発言は決して認められないと、
──先輩のなげやりな発言は決して許容できない。確かに自分達は人と数えられず一匹、二匹と呼ばれる家畜なのかもしれない、でもだからといって命を蔑ろにしてしまう理由にはならない。
「貴女の行為は、もっと長生きしたかったのに“卒業”してしまった……。懸命に生きた『アイアンホース』の、『ペガサス』の全てを侮辱する行為だっ!」
──既に“卒業”してしまい、この世に存在しない『アイアンホース』たちの最期を思い出す。はじめての友達も、自分よりも前の“
「あなただって“卒業”してきた者たちを見てきたはずだ! なのにどうしてっ! そんな事ができる!?」
「別に大層な理由なんてありませんよ」
「っ!」
言葉を聞けば聞くほど、月世に対して怒りが込み上げてくる。だからこそ一周回って、冷静になってきた
「……貴女の考えも、行いも……なにひとつ理解できません!」
それでも、顔も見たくないほどの嫌悪感を打ち消せなかった
「──本当にこれでよかったの?」
「お叱りは甘んじて受けます」
──
──いくらアスクが居て、『活性化率』を下げられるようになったとはいえ、活性化率に関わるトラウマは幾らでも存在する。悲しみも嘆きもやるせなさも壊れるほど経験してきた。だからどんな事情でも、活性化率を利用して欲しくなかったのは愛奈の心からの本音だった。
「……叱らないよ。でも後で一緒に謝ろうね」
「……分かりました」
だけど愛奈は受け入れる。親友のやることは所業と呼ばれるものだろうけど、それにいつも助けられてきたのは自分なのだから。
「質問の答えですが、あとは
「でも、凄く怒っていたよ?」
「感情的ではありますが、常に冷静であろうとするタイプに見えました。今はもう落ち着いて自分の軽はずみな行動に反省している頃合いかと」
月世は、訓練所での
「真面目で確固たる意志がある。されど決して頑固ではなく柔軟性が高い……そしてなにより、自分よりも他人を大切にする人物であることは確かです。まあ自分自身の事をとうに諦めているだけかもしれませんが、それはそれでと言ったところですね」
「……うまく行くと良いな」
「大丈夫ですよ愛奈。崖に進む道から外れるレールは引きました。後は彼女が切り替えるのを待てばいんです」
既に未来を確信していると言わんばかりに、心底楽しそうに笑みを浮かべる月世に、愛奈は別の意味で不安になった。
「……あれ? そういえばアスクってどこに隠れたの?」
「おっと、忘れていました。そろそろ掘り返してあげましょうか」
「……堀り返してってもしかして埋め……月世~!?」
+++
──なんてバカな事をしただろうか、落ち着いた
「……先は無いと諦めていた自分が、他人に説教なんて……」
──そんな自分を棚に上げて、先輩に向かって懸命に生きろと言うのは、あまりにも馬鹿げている。確かに許せない事ではあったが、自分よりも長く生きている先輩なんだ。それに何かしらの理由があって、あのような行動をとったのかもしれない。
ぐだぐだと
「……にしたって転移系の〈魔眼〉を、たかが模擬戦で……なぜ使える?」
──精神の話ではなく現実問題、自分よりも年上と思われる黒髪の先輩。アルテミス女学園の平均活性化率がどれほどか分からないが、転移系の〈魔眼〉を使用するほどの余裕がある年齢ではない筈だ。
それに活性化率というものは個人差はあるものの、なにもしなくても生きているだけで日に日に上がるもので、アルテミス女学園には年に二回の大規模侵攻がある。それを考えれば、狂気の沙汰としても〈魔眼〉を使う余裕があるとは思えない。
──なにせ自分がそうなのだ。ゼロ先生が命令しなかったと言うこともあるが、【80%】を超えてから〈魔眼〉を使用したのは一度っきりだ。
──そもそも、あの先輩はなんだ? 本当に先輩なのか? 野花たちと比べて、明らかに年上にしか見えないが、にしたって奇妙な点が多すぎる。茶髪の先輩もそうだが、名前を教えることを避けていた気がする。
「……あの人たちは何だったんだ?」
「──どうかしましたか?」
突然、声を掛けられた
「……野花……どうしてここに?」
声の正体は、先ほど別れたはずの野花だった。変わらぬ笑顔を浮かべながら、こちらを見ており、それが何だか、妙な不気味さを醸し出していた。
「職務の休憩がてらに校舎を散歩していたのですが、立ち止まってなにやら考え事をしている
「あ、ああ……いや、そういうわけではなくて……」
──どう考えたって現われるタイミングが良すぎる野花に、あの謎の二人について聞いても良いのか判断が付かず、
「──もし、気になることを見つけて、その真実を聞きたいと言うのならば──是非とも生徒会室に来てください」
「野花……? いったいなにを?」
「──夕食の時間となったら呼びますので、それでは!」
野花はそれだけ言うと、背中を見せて歩いて行った。呼び止めようとも思ったが、纏わり付くような恐怖に心が竦み、見えなくなるまで動く事ができなかった。
「……なにかあるのか? この学園には」
+++
夕暮れ頃、まだまだ七月の太陽が暑さを振りまく中、
「──うまく行った? ──うまく行ったのこれ? ──ああもう駄目なら駄目でなんかアクションが欲しいんですけど!?」
「野花、小声で話すところに配慮が感じられるけど、バレるかもしれないから叫ばないで」
──そんな
鉄道アイアンホース教育校からの転校生を迎え入れるにあたって、“卒業”扱いとなっている三年先輩たちには隠れているようにお願いしたのだが、どこかで覗き見していたらしい月世が、
「月世先輩に、突然めちゃくちゃなこと言われた時はどうなるかと思ったけど──上手く行きそうだね」
食堂で感激しながら食べている
「そうですね──ほんと勘弁してほしかったんですが──いや正直時間が幾らあっても足りない中で提案してくれるのは助かりますよ? ──だからってほぼアドリブでどうにかしろは酷くない? ──絶対ひどい──ほんと酷いと思いません!?」
「野花うるさい」
それから隙を見て
──ちなみに野花が早々に
「それで、いまどんな感じなの?」
「──できるだけ事務的に今日の出来事を話していますね。愛奈先輩たちについては言うつもりは無いみたいです──不確定な情報は極力省くタイプ、月世先輩の言った通りですね──あ、昼食に関して凄く饒舌に喋り出しました」
野花たちのいる位置では
「あれほど感情的に話すのは久しぶりだったみたいですね。先生が指摘したことで両方とも感傷的になりました──正直、月世先輩から話を聞いたときは、もっと人間味が無い方たちが来ると思っていましたが──ボクたちとそう変わらない──」
月世の言う通り大人たちがアルテミス学園に入ってこなかった以上、もっとも懸念するべきなのは『アイアンホース』たちの性格である。
「──ボクは月世先輩のように内情を読み取ることはできませんが、あの様子では十分に成功率は高いでしょう──きっと彼女は大切な物のためなら何でもする人です」
──初めて食べるチキンステーキに我を忘れていたと思いきや、同じ教室列車に乗ってきた仲間の事を思い出して、一瞬にして現実へと引き戻されていた。それが思いやりなのか、執着なのか、はたまた依存なのか野花には判断が付かないが、自分よりも他人の方を強く想うところを確かに見た。
「──夜稀、ついでで今聞きますが首輪はどうでしたか?」
『アイアンホース』に対して、夜稀の主な役割は毒針内蔵型の首輪を外す事だった。毒もそうであるが、中にはGPS機能などを始めとした『アイアンホース』を監視するための装置が取り付けられており、彼女たちをこちら側に引き込むことを考えれば、あの首輪の存在は邪魔でしかない。
しかし、首輪自体『ペガサス』の腕力でも壊すのには苦労するほど頑強で、何かしらの方法で溶かしたり壊したりしようとすると、脱走と判断されて毒針が起動するであろうことは予想でき、またそうなった場合、『車掌教師』側に詳細な情報が行く可能性も高く、何かしらの違和感を察知されれば、全てが台無しになる可能性だってある。
「……なんて言えばいいんだろう、中を〈
自らの〈魔眼〉で中身を透視した夜稀はロマン思考の技術者として、強い嫌悪を抱いたが無駄なものを全て削ぎ落とした機能美に惚れかけたのも事実。
「──それで夜稀」
またなんか語り出したと思いながら、話の意図が読めなかった野花は聞き返す。
「彼女たち他の『アイアンホース』も、
野花は首輪を安全に解除できるか聞いていなかった──何故なら“すでに結果は出ていた”から、彼女が問うたのは、次からも上手くできるかというものだ。
──夜稀とは反対側、野花の左隣にて、理由も分からず身を隠す
「遊びがなさ過ぎるパズルというのは、コツさえ分かれば簡単だよ」
「──絶対嘘ですね!」
野花の視点では、
「本当にボクからは、夜稀が何をしたか全然分かりませんでしたからね」
「いつもやっている事と変わらないよ」
「そもそも夜稀が何時もなにやってるか大体理解できてません」
野花はだからと言って、こんな僅かな時間で成果を出すのは普通ではないと思う。これは夜稀が飽きずに調べて、分解して、組み上げて、時には新しいものを作って、そうやってずっと機械と付き合い続けたからこその結果だと、野花は理解しており、だから結構簡単だよと言う夜稀を嘘と断言する。
夜稀は
大企業の産物らしい冷たい機械。高度であるがコスパを重視して徹底的に無駄を省かれている。そのため高性能ながら構造自体はとてもシンプルで、だからこそ理解できない箇所は現れず、気がつけばネタバレを先に見た知恵の輪に挑むかのように、夜稀は慣れ親しんだ工具で首輪に触り、片手間に作業を終わらせてしまった。
「──しつこいのは承知で聞きたいのですが──首輪が外れた信号はあちらに届いていないんですよね?」
「もちろん、それに無力化もしていないから、こっちから自由なタイミングで信号を送ることができるよ」
「──“卒業”も思いのまま。ついさっきまでの緊張が嘘みたいですね」
「自分でもびっくり……本当にびっくり……やれる、やれるよ野花」
外した首輪はたった一個だけで、むしろこれからが本番であるが、自分の腕に自信を持てた夜稀にはもう緊張も不安もなかった。
「──よかったですね、夜稀」
「……うん」
言葉に含まれた意味をちゃんと理解した夜稀は、噛みしめるように頷いた。
「……
「彼女に関してはボクというかは、月世先輩が預かりになっている状態ですね──とはいえ、殆ど確定ではないでしょうか?」
「…………ルビーは?」
「──不明です──彼女は帰りたい──って言っていました──」
「野花……」
ひどく辛そうにする野花に、夜稀はどんな言葉を掛けてやればいいか分からなかった。特にこの時は、自分がまた一つ救われてしまっただけに余計に。
「──どうやら、終わったようですね! “見ていた”感じ特に問題がある会話は成されていませんでした! ──干渉せず済んで良かったです──」
そうこう夜稀が悩んでいるうちに
「──正直今日はこのまま寮へと帰って頂けるといいんですが──ん?」
──真似て立ち上がった
「……すっかり懐かれたね」
「特別なことをした覚えはないんですけどね──あ、そういえば
「何食わぬ顔ができるかどうか分からないけど、分かったよ」
まあ、野花に頼まれて寮に案内するように探していたってそのまま伝えても問題ないかと考えながら
「それでは、ボクたちはお風呂に入りましょうか──あ、もしかしてボクが全部やらないと行けないパターン?」
「……?」
「──まあいいですか──お風呂上がったら一緒にフルーツジュース飲みましょう! ──同級生に──仲間に──……友達に教えてもらったんですが、美味すぎるので楽しみにしていてください」
「わか、りました」
途中でいちど振り返り、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます