第2話 ガンガー(ガンジス河)

 ガンガー。ガンジス河。

 ヒンドゥー教の聖地ベナレス(バラナシ)のガンガー沿いには多くのガート(沐浴所?)がある。ガンガーはヒンドゥー教徒にとって、母なる河であり、罪が浄められると信じられている。多くの巡礼者がベナレスを目指し、ここで火葬されることを願っている。

 改めて言うまでもないが、ガンガー沿いのマニカルニカー・ガートでは死者を火葬している。その灰はガンガーに流す。僧や子供は荼毘に付さず、ガンガーに流す。

 私は目撃しなかったが、魚に肉を食われた子供の死体がガンガーをよく流れているという。

 その水は汚い。黄土色。だが、このガンガーでは、蒸留水で24時間生きるコレラ菌が3時間しか生きられないという。旅行者の間では、もっとヤバイやつがいるというのがもっぱらの噂。

 インド人はこのガンガーで沐浴し、体を洗い、歯を洗い、洗濯し、遊んでいる。

 水牛もその身を浸しに来る。

 私はこのガンガーで手を洗った、いや、手を汚しただけだが、ガンガーで沐浴した旅行者に話を聞くと、頭が痒くなった、尻にぶつぶつができたなど、愉快な話を聞くことができた。

 ある旅行者は私に言った。

「せっかくの夏休み。しょうもない国(インドのこと)に来て、しょうもない人(インド人のこと)の相手して、疲れた。もっと楽な国に行けば良かった」

 むろん、彼はインドは面白かったと言った。私も同感である。楽しいが、この国は面倒の方が多すぎる。


 インド人は、日本人を歩くATMとでも思っているように寄ってくる。店に案内して、物を通常より高額で購入させて、バックマージン稼ごうと狙っている。頼みもしないのに勝手に案内して、あとでチップを要求する。

 相手の腹のうちが見える旅行者なら、声をかけられるだけでうんざりする。ただでも暑い。そのなかを観光する。疲れている。金をもうけようとするインド人の話など聞きたくもない。

 ブッダ・ガヤーでもそうだ。ホテルを探していると、私と友達になりたいというインド人。ふーん、どうせいいことはないだろう。言質を与えずにホテルへ入った。翌日、その彼と再会した。なにしているかと聞くと、おみやげ物の店。ほらきた。友達とか言いながら物を売りつけるつもりだったのだ

 インドに行けば万事、このような感じ。

 ベナレスでは怪しげなインド人に何度も声をかけられた。NHKの通訳をしているなどと大嘘をこく男もいた。信じられるか、アホ。日本で兄が働いている。嘘つけ! 日本には何人も友達がいる。それはあなたが勝手に思っているだけです。

 ガンガーから話がそれた。

 ガンガーの有名な火葬場。マニカルニカー・ガート。

 ここでは死体が焼かれる。長方体に薪を組み、魂が抜けたものを頭から膝までこの上に横たえる。足はだらりと前方へ投げ出すかたち。その上にさらに薪を列べ、火をつける。

 それはまず、焦げる。黒くなる。腕が黒くなる。体も。いつのまにか豊かだった白髪が、火によって無くなっている。

 一人が完全に燃えるまで3時間かかるという。そこまで待っていられないのでその場所を離れた。

 マニカルニカー・ガートでは、しきりに「ここは家族の場所だからこっちへこい」とガートに面した建物へ連れて行こうとするインド人が多い。ここに登って、ジイサンの案内を聞いたが最後、寄付を求められる。薪代だという。1キロ150ルピー(1ルピー2.5円ほど)。そんな馬鹿な。そんな高いわけあるか。

 寄付だろ寄付。気持ちだ。私は2ルピーを渡そうとした。が、ジイサンは受け取らない。少ないという。私は頭に来た。寄付が少ないとはどういう了見か。ケチりすぎた観はあるが、寄付に最低額があるなんて聞いたことがない。営利目的としか思えない。

 私が彼を振り払うように進むと、彼は私をつかんですごむ。金を払え。私も怒って、声を張り上げ、再び振り払う。

 私は追い出される形でその建物を後にした。左肩にひっかき傷ができていた。ジイサンは私に「カルマに悪いぞ」と言ったが、ジイサンの爪は呪いがかかっていた。その傷はやたらと治癒が遅かった。傷跡が残るかもしれない。呪い、それはバイキン一杯という意味である。

 ドラクエ風に記述するなら、

”インド人の攻撃!”

 ガス!

”旅人は3のダメージを受けた。旅人は毒におかされた”

 という次第。

 このガートを再訪したときも、ここはファミリースペースだと言われた。何人もグルになって、例の建物へつれてゆき、金を落とさせ、儲けようとするインド人の作戦だと思われる。 

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