生まれ変わっても

龍冶

第1話 プロローグ

 翔は自ら強たちと過ごしていたお花畑に戻ってみると、少し様子が違っていた。誰もいないし、花は咲いてはいるが、以前とは違いどこか鄙びた感じがする。

 翔は思った。

 そう言えば、此処と現世は時間の進み具合が違っているのではなかっただろうか。黄泉ではどの位の時間だったのだろうか。現世では霊魂になった方が時間の進み方は速かったが、黄泉ではあまり違って居ないような気もする。あの時気を失っていたのは二日ほどだったけれど、この黄泉ではずっと、チャンバラごっこは休みなくやっていた。相当な時間やっていた気がするが、2,3日程だったような気もする。何せ飲まず食わず、眠る事も無かったのだから。兎に角、皆は自分に合わせてくれていた気がする。

 誰もいないお花畑をあても無く歩きながら、そう言えば、死ねば皆、お迎えってやつについて行くんじゃ無かったかな。迎えが来るまで待たずにやって来て速すぎたのかな、やって来るのが。

 そう思い至って、困ったなと当惑して来る翔。アホは死んでも直りはしない。

 困り果てていると、前方から着物を着た女性がこっちに来るのが見えた。誰かな、お迎えだろうか。そうであってほしい所である。近づいてくる人は見た事も無い人であって、何処か懐かしい気もする。誰だろうとポカンと見ていると、近くまで来たその人は、

「とうとう、本懐を遂げてくださいましたね。真太郎さん。私のこの喜びを御存じでは無いご様子ですね。現世で過ごされている間に、何もかもお忘れの様ですね。そういうものなのでしょう。よろしいのですよ。母は満足しております。これ以上を望むのは欲でしかありません」

「はあ」

「真太郎と言う名は、少し覚えがあるようですね。現世で聞き覚えられましたか。そうです。私は夕霧。あなたは、私と、龍神紅の新しきせせらぎの尊様の間に生まれた、奇跡の御子です。この度、我らが仇、焔の童子を討ち果たす機会が巡って来て、あなたは現世に向われました。きっと、もう私を忘れてしまうであろうことも、覚悟の上でした。生まれ変われば前世の出来事は忘れる定めですから」

「へえー」

 母と名乗った夕霧という人の事は、リラからチラッと聞いた覚えがあった翔。どうやら自分は、真太郎の生まれ変わりだったらしい。そうなると自分に能力が無さそで有った事も、納得がいくというものである。

 それにしてもどうやら、強たちのチャンバラごっこは終っている様で、こうなると勇んでこっちに来た甲斐も無い。考えてみるとせっかく伝授してもらった、紅軍団の奥義、もう使う機会が無くなったとは、あっけない事である。そんな事をふと思っていると、

「まだ、現世の事が気がかりでしょうか」

 夕霧さんに言われて。翔は、気がかりというより、慌てて来た意味がないんだけど、と思っていると、彼女はどうやら翔の思っている事が分かるらしく、

「現世でまだ活躍をご所望なら、もう一度お生まれになったらどうでしょう」

 と言い出した。

「まだ、川も渡っていないんですけど」

 疑問の点を聞くと、

「そう言う事は迷信です。川は別にございませんが、あればご自分が死んだことを理解するでしょう、それで皆さんご自分で納得するために見ている幻覚ですよ。あなたはもう死んでいます。それで、こちらにいらしてもつまらないとお思いなら、もう一度お戻りになって、ご活躍なさってはいかがでしょう。あなたにぴったりの一生が有りましてよ」

「へえ、どんな?」

「あなたと御関係のある方の息子としてお生まれなさいな。ほら、下の姉君香奈様と南国の龍神アボ様の間に御子が生まれる事になって居ります。その子に生まれ変わりなさいな。龍神の子の一生は慣れておいででしょう」

「慣れているも何も、覚えていないんですけど」

「過ごしてみれば思い出しますよ。ほれほれ、取って返さねば間に合いませんことよ」

「はあっ」

 おろおろしている間に、夕霧ママに蹴り落されたと確信した翔である。

 落ちながら、気を失ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る