第18話 第二王女がやってくる
「それで? 被害は大したことなかったって聞いたけど、どのくらいの被害だったの?」
ノバはお茶を飲みながら、農園の園長にホワイトウルフ出現による農園の被害状況を確認する。
俺達がさっき畑を少し見た限りでは、大した被害は無さそうだったが……。
「いやはや……畑は大丈夫だったのですが……夜勤の人間が数人ほど大きな怪我をしてしまって……私どもも、魔法を使える人間を揃えていたつもりでしたが、所詮は一般市民の中では使えるというレベルだったのだと痛感しています。出現したホワイトウルフはたったの三匹ですから」
園長は肩を落としながら、農園の被害状況を説明する。
ホワイトウルフ三匹相手で数人が大怪我か。
……これで大したことがない被害とか、報告した奴出て来いよ。
十分過ぎる被害だろ。
やっぱ、それなりの場数を踏んだ冒険者や王国騎士団や王国魔導士団所属の騎士や魔法使いじゃないとホワイトウルフ討伐とかはダメだな。
一人で簡単にホワイトウルフ数十匹討伐するアザレンカのせいで感覚が麻痺していたけど、普通の人間がホワイトウルフ討伐なんてしたら、こんなもんなんだよな。
「あれ? いつもだったら、ラウンドフォレストにいる冒険者が協力してくれてたじゃない? この農園の報酬は割が良いから、結構みんな喜んでやってるイメージだけど?」
「それが……冒険者達も、ホワイトウルフと知った途端、逃げ出してしまったようで……そのため夜勤の従業員だけで対応、ということになったんです」
「やれやれ、冒険者が聞いて呆れるね。モンスターから逃げるぐらいなら、冒険者なんて辞めれば良いんだよ」
俺もノバと同意見だ。
とはいえ、街にホワイトウルフが大量出没した時、屋敷にいただけの人間にそこまで言う権利は無いと思うけど、口に出したらまたつねられかねないので、黙っておく。
「うーん……農園にまたホワイトウルフが出る可能性はまだあるよね?」
「それはもちろんです」
「そっか、じゃあこの二人しばらく置いてくね。街でホワイトウルフが大量発生した時、二人だけで五十匹以上討伐したって言われてるから、ホワイトウルフ討伐なんて余裕余裕」
「……え?」
「……は?」
ノバの突然の提案に、俺達二人は当然驚く。
というかコイツ……最初からそのつもりで、俺達を護衛という名目で農園に連れてきたんじゃねえのか?
「待て待て、話の流れからして、これ絶対夜勤やらせる流れだよな? 朝まで起きてるとか嫌なんだけど……」
「この間みたいな、大量発生って緊急事態だから、対応してって話なら良いですけど……長い間夜型生活は……」
「……クラウンホワイト」
「うっ」
「ぎくっ」
なんて奴だ。
ノバ・ラウンドフォレストという女は。
ホワイトウルフ出没の原因は、クラウンホワイト出現によるもの。
その原因をさっさと討伐してくれれば、こんなことを頼まずに済むんだが? と言いたげじゃないか。
いや、本当にその通りだから言い返せなくて困るよ、まったく。
◇
「ああ眠い……ノバのやつめ……」
「僕だって眠いよ……でも、真面目にやらないと夜勤の人達に怒られるよ?」
「そもそも農園の夜勤の従業員だけで対応出来ていれば、俺達がここにいる必要なんて無いんだが?」
「はいはい、眠くてイライラしてるのは僕も一緒だから。そんなこと言わないの」
アザレンカは眠そうにあくびをしながら、俺をなだめる。
もうとっくに夜中だというのに、俺達は宿に帰って寝るということもなく、ノバの提案という名の半ば脅しのせいで、農園の見回りをしていた。
だが、俺達がここに居なければならなくなった原因はそれだけではない。
園長曰く、近い内に第二王女がこの農園に視察に来るらしい。
王女が視察に来るのに、荒廃した畑を見せるのだけは……と園長がすがるように懇願するので、仕方なくというのもある。
「うげぇ……夜勤も嫌だけど、頼まれたこともちゃんと出来ないの!? ってダリアに嫌味言われるのも嫌だなぁ……」
「そう思うんなら、ちゃんとやりなよ……それと、他の人がいる所で第二王女を呼び捨てで呼ぶの辞めよう?」
確かにアザレンカの言う通りかもしれない。
昔からの知り合いとはいえ、王女を呼び捨てで呼ぶなど失礼極まりないだろう。
だが、俺から言わせれば陰で呼び捨てにされないよう、尊敬される関係性を作れない第二王女ダリア・イーグリットのただの力不足だ。
エリーナ姉さんやお袋だってダリアのことは、ダリアちゃんって呼んで、少し子供扱いしているところがあるからな。
ベッツ家が第一王女派という派閥の可能性が高いので、第二王女派のアザレンカみたいに尊敬しろと言われても無理な話なんだけど。
後、そもそも。
「アザレンカ。知らないかもしれないけど、ダリアは俺が第二王女って呼んだり、陰でそう呼んでいるのを聞いたりすると不機嫌になるんだよ。怒らせると面倒臭い奴なのは、お前だってよく分かっているだろ? そういうのも考慮してくれ」
「……相変わらず、今も仲良いね」
「冗談言うな。振り回されているだけだ」
夜が明けるまで軽口を叩き合いながら、広大な畑の見回りをするのだった。
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