第3話 黙っていた理由
アザレンカと一緒に部屋へと戻った俺は、自分がいつも寝ているベッドに座ると、思わず大きなため息を吐いてしまった。
「あはは……黙っていてゴメンね? プライスだって、ため息も出ちゃうよね?」
アザレンカも、自分自身が寝ているベッドに座りながら俺に謝る。
今俺が吐いているため息は、食堂で吐いていたため息とは、また違う。
主に、なんで俺が……という意味を含んだため息だ。
色々聞きたいことはあるが、まずは何から聞こうか。
そもそも、アザレンカの祖父……先代勇者が、何故俺を次の勇者に指名したのか気になるし、聖剣が俺を選んだ理由も気になる。
だが、一番気になる理由は。
「……アザレンカ、何故聖剣を使えないことを黙っていた? 貴族や俺にだけじゃない、女王様を始めとした王家にも」
基本的には、聖剣は勇者が使う。
だが、ごく稀に例外的ではあるが、聖剣を所有している国の王家の人間や、国で一番強い騎士や一番強い兵士などといった、適性もあるしある程度身分もある人間が、聖剣を使ったりもする。
だからこそ、不思議だった。
勇者……アザレンカが聖剣を使えないのなら、王家の人間やイーグリット王国の騎士や、一応魔法使いを集めて、適性がある奴がいれば、そいつに聖剣を使わせれば良いだけの話。
「別に俺は、聖剣が使えないのを黙っていたことは怒ってない。……ただ、勝手に俺を次の勇者だと決めて、俺に聖剣を使わせるなんてことをしたら、色々とマズいんじゃないのか?」
「うん、マズイね。旅に出る前にそれがバレていたら、僕は投獄されていたかもしれない」
「……それなら、何故……」
アザレンカは、自覚していた。
王家に、聖剣を使えないことを黙っていたのと、勝手に俺を次の勇者に決めていたことがバレていれば、自分がどうなっていたのかを。
……分からねえ。
アザレンカの考えも、先代勇者の考えも。
そんなリスクを背負ってまで、何故こんなことをしたのか。
だが、アザレンカが話し始める情報で、俺は全て理解してしまうことになる。
「……落ち着いて聞いて欲しい。……次の王を決める派閥争いがあるのは知ってるよね?」
「……ああ、知ってるけど。それがどうした?」
「……信じられないかもしれないけど、第一王子派が次の王を決める派閥争いで、最大勢力になったんだ」
「……は? え? い、いや……もう一回言ってくれないか?」
「だから、第一王子派が次の王を決める派閥争いで、最大勢力になったんだって」
「おいおい……冗談だろ? 第一王女が次の王ってのが、既定路線だったはずじゃ……な、何より第一王女の方が年上だし、人望も上だろ?」
アザレンカの話に、耳を疑う俺。
当然だ。
イーグリット王国の第一王子こと、ジョー・イーグリットは、お世辞にも次の王などと呼べる男ではない。
第一王女に比べて、魔法や剣術に優れてるわけでも無いし、何より傍若無人過ぎる。
一応年上の人間だが、尊敬する所が本当に一つもない。
あ、一国の王家というプレッシャーが掛かる家に産まれていながら、自分の無能っぷりをどれだけ晒しても、偉そうに出来るあのメンタルだけは尊敬出来るわ。
それに、第一王子という地位を悪用して、数々の女性を無理矢理自分の召し使いにして、自分の世話をさせているので、女性からの評判も最悪なんだけどな……。
というか最近、女王様の言うことを聞かなくなりだしたのは、そのせいか。
あの人の事だ。
次の王の派閥争いで、トップに立ったことで調子に乗っているのだろう。
まあ、その前に派閥争いで、何故第一王子派がトップに立ったのかが、分からないけど。
「……アザレンカがそんなリスクを負ってまで、聖剣を使えないことを王家に黙っていたわけが分かったよ」
「……うん、ゴメンね? ずっと、黙ってて? 実は、おじいちゃん……先代勇者が亡くなるちょっと前ぐらいからかな……結構多くの貴族が、僕のことを第一王子派に勧誘してきてさ。その時知ったんだ。第一王子派が派閥争いで最大勢力になったってことを」
「な、なるほど……」
……なるほどってとりあえず言ったけどさ。
先代勇者が亡くなったのって、数ヶ月前だろ?
数ヶ月前には、既に第一王子派が、次の王を決める派閥争いの最大派閥になっていたなんて……。
危ない危ない。
もしアザレンカが、正直に聖剣を使えませんと言っていたら、とんでもないことになっていたかもしれない。
アザレンカが、王家に聖剣を使えないことを黙っていた理由。
それは、第一王子派の人間から聖剣の適性者が出てしまえば、第一王子が次の王になることが確定してしまうからだ。
最大派閥に加えて、勇者も加わったなんてことになってしまえば、争いにすらならなくなる。
それで、次の王は第一王子で決まり! なんてことになったら、イーグリット王国は終わりだぞ。
いやあ……助かった。
助かったけど……さ?
「……ここまでは分かった。ここまでは……な? 何故俺を次の勇者に選んだんだよ……先代勇者は……」
あと、聖剣も何故俺を選んだんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます