第7話 幼なじみと『ラブホ』探検!(その1)
「さて、ルクスも無事マスターになれたわけだし、ダンジョン内を観て回ってきたら?」
母上がそう言って僕を促す。
「えー、でも今って、『お客さん』がなん組か利用中なんじゃないですか……?」
入り口横のパネルが部屋の使用状況を表したものなら、おそらくそのはずだ。もし部屋から出てきたカップルと鉢合わせなんかしたら、お互い気まずいじゃないか。
「大丈夫ですよ。今いらっしゃる『お客様』は、皆さん『ご宿泊』なので、明日の朝までお部屋から出てこられませんから。――それより」
アンナさんがイタズラっぽく微笑む。
「実際、観て回られたら楽しいと思いますよ。この建物、ダンジョンにしろ連れ込み宿にしろ、ちょっと変わってますから。普段目にしない物があちこちにあることに気がつかれました? 例えば、入り口の『ひとりでに左右に開く扉』とか。それもそのはず、この建物は先代様がその昔、『異世界』から召還なさったものだからです!」
い、異世界……? 話が急にファンタジーになってきたぞ?
異世界と言えば、僕ら若者世代にとってはお馴染みな言葉で、小説やなんかで最近大人気のテーマだ。
『ある日、ドラゴンに跳ね飛ばされて死んだ青年が、異世界に転生する。そこは剣も魔法もない世界で、自分だけが元の世界のスキルを使って無双する』というタイプの物語が多い。
まさか本当に、小説みたいな『剣も魔法もない世界』から、この建物を召還した、と?
確かに、異世界では魔法の代わりに『変わった技術』が発達してるっていうのは、その手の小説では定番の設定だけど……。
でも、それは飽くまでフィクションの中だけのお話ではないかしらん……。
「あ、疑っておられますね? でも本当なんですよ。ここは正真正銘、異世界の連れ込み宿で、向こうの世界では『ラブホ』と呼ぶそうです。どういう意味かはわかりませんが」
ふーん、『ラブホ』ねぇ……。初めて聞く言葉だけど、不思議とエッチな感じのする響きだなあ……。
「さあさあ、いってらっしゃい。ほら、ティアナちゃんも一緒に!」
「えっ! わ、私もですか?」
ティアナが裏返った声を出す。
「私とアンナちゃんは、十年ぶりで積もる話もあるからー。あとは、若いふたりでごゆっくり~♡」
僕らは大人ふたりにせっつかれて、渋々通路の奥へと向かうのだった。
◆
窓のない薄暗い通路が、右に折れ、左に折れ、二股に分かれて、どこまでも続いている。建物内部は、外から見た時よりも広く感じられる。なにか空間系の魔法がかけられているのかもしれない。
通路の左右は部屋になっているようで、ほとんどのドアは開いていたが、なかにいくつか、ドアの閉まっている部屋があった。『使用中』ということなんだろう。中から(エッチな)声や物音が聞こえてこないかドキドキしてしまう。自然、忍び足になって足早に通り過ぎた。
上の階はまだ見ていないが、1階と同じような構造になっているとしたら、ダンジョンコアの力で通路を迷路のように入り組ませ、無数の部屋の中に魔物やトラップを仕掛けて冒険者を翻弄していくのが、基本的な戦術になるのだろうか。同じくコアの力で魔物を生み出すこともできるはずだが、あとでアンナさんにやり方を教えてもらおう。
それより今は、空いている部屋の中が覗いてみたい……!
だって、連れ込み宿なんて初めて来たし、まして異世界の『ラブホ』(?)なんて、どんな風になっているのか正直興味津々だ。――だけど。
後ろを歩く少女のことが気になって、僕は
さっきから一言も話しかけてこないが、彼女は今、何を考えているのだろうか。
『なんで私が、コイツとふたりで連れ込み宿なんか歩かされてるのよ! 背後から一撃喰らわせて、倒れてる隙にさっさと帰っちゃおうかしら!』
と、こんな感じだろうか?
「ねえ――」
「へっ? な、なに?」
くだらないことを考えている最中に突然話しかけられたもんだから、うわずった声が出てしまう。ええい、動揺するな僕。
「――部屋の中、観てみなくていいの?」
「え、あの、だって……」
連れ込み宿の部屋って、つまりは男女が『そういうこと』をするための、専用の場所なのだ。いくらダンジョンの視察のためとはいえ、同い年の女の子と一緒に入っていいものだろか……。
「私のことなら気にしなくていいよ。それより、せっかく自分のダンジョンを持てたんだから、マスターらしくしっかり把握に努めなさいよね」
その言葉に、わずかな
★★★ 次回 ★★★
『第8話 回想』、お楽しみに!
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