新星での海鮮開拓

水涸 木犀

始海アジのイカダ焼き・上

 クレインたちOLIVE号の面々と新星で合流して、約2週間が経過した。

 その間、俺たちNOAH号のクルーは先発隊の彼ら――殆どが宇宙航行に特化した能力をもつだ――が近隣で採取してきた動植物の鑑定に追われた。


「まさに、宇宙移行士の面目躍如だな、オウル」


 げっそりとした顔でNOAH号から出てきた俺と鉢合わせて、クレインは軽快に笑う。


「今の俺の顔を見て言うなよ。しかも、俺は指示しているだけで、実際に種族鑑定をしているのは別のメンバーだからな」


「だからこそ、さ。君たちNOAH号のクルーは、ほとんど全員がだろう? 未知なる星に来た時、どの動植物が食べられて、どれに毒があって、どれが育てやすくて……そういった知識を提供してくれる君たちがいて初めて、僕たちも安全に新星での生活を送ることができる」


 クレインの言う通り、俺たちはついさっきまで魚類の鑑定を行っていた。地表がほぼ全て水で覆われているこの星では、ほとんどの生物が水中で生活している。中には危険生物もいるのだろうが、少なくともOLIVE号のクルーたちが釣れるレベルの魚たちに、食べられない種族はいなかった。もっとも、トゲに毒がある類のものはいたのだが。


「せっかく生物同定も終わったことだから、今日の昼食は魚類を調理してみようと思う。オウル、おすすめの魚はいるか? あとできれば海藻類で、焼いても美味しそうなものを1~2種類」


「クレイン、お前が料理するのか」


「なんでも、一番最初にやってみたいじゃないか。新星の魚の味も知りたいしね」


 自分でなんでもやるのが宇宙飛行士の基本だ。とはいえ、互いの船のクルーが大勢いる中で、船長が自ら料理をするというのはあまり例がないだろう。しかし、好奇心の塊であるクレインらしいといえばらしい。


「なら、簡単に調理できそうで味も外れなさそうなのがいいな。……ジェイ、何がいいと思う」


 俺の後ろに続いて出てきた、動植物鑑定・兼食糧庫係である小柄な女性に向かって振り返ると、彼女は手に持っていたタブレット端末をスクロールさせた。


「でしたら……こちらの“始海しかいアジ”はどうでしょう。見た目もDNA鑑定の結果も、地球にいるアジとほぼ同種類と推定されています。あとはこの、“始海ノリ”ですかね。地球の海苔と同様に食べられるかは、現在天日干しで実験していますが、生でも加熱でも食べられるはずです」


「どちらも“始海”が付くのだな」


「はい。私たちNOAH号と、キャプテン・クレインのOLIVE号が最初に降り立った地点を便宜上“始海”と呼んでいますよね。ですので、この場所で採れた動植物にはすべて“始海”と冠するようにしています」


 クレインのコメントにも、ジェイは丁寧に答えを返す。


「なるほどな。ではそれでいこうか。今言った2種類ならちょうど、娯楽で釣りをしているクルーが入手しているだろうからね。僕は食材をそろえてくるから、イカダ・ベースで集合しよう。オウル、あともし生物同定の際に大きい貝殻が見つかっていたら、いくつか持ってきてくれないか?」


「貝殻?」


「何でも無駄なく使う、のが宇宙飛行士の基本だからね」


「それは宇宙移行士でも一緒だ。……とはいえ、貝殻なんて何に使うんだ?」


 俺が首を傾げながら差し出すと、クレインは軽くウインクをしてみせる。


「皿の代わりさ。食糧庫にある皿もどきを使ってもいいが、貝殻なら食後そのまま水の中に投げ入れても問題ないだろう。もともとそこにあったものなのだから。その気になれば、再利用もできそうだしね」


「なるほどな。だが、そんなに大きい貝は何枚も無いぞ」


「構わないよ。どのみち今回は試作だからね。今手が空いている何人かが試食できるくらいの量しか作らないから。実験に使ったくらいの枚数で十分さ」


「了解」


 やることが決まると、俺たちの行動は早い。俺とジェイは手のひらサイズの貝殻を3~4枚見繕ってから、再び宇宙船の外へ出る。



 

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