偶然が重なって、奇跡は起こる
「明日、紗也に駄目していたことを打ち明けよう」
「そうだな……やっぱり魔法は存在しなかったのか……」
この一週間、俺達は紗也を騙し続けた。おそらく、紗也は「私たちの家系は特別!」と思い込んだだろう。それにも関わらず、彼女は魔法の発動に成功しなかった。やはり魔法は存在しないのか……涙
いつまでも騙し続ける訳にはいかないので、明日、姉さんと俺は紗也に謝罪することにした。謝って許してもらえるだろうか……?でも、検証のためには騙す必要があったのだ。そこのところを説明して、その上で心から謝罪すれば許してくれるだろう。
◆
そして、いざ土曜日になった。姉さんと俺は、隣の家からフラフラと出てきた紗也と合流し、祖父ちゃんの家へと向かう。
「どうしたんだ? 寝不足か?」
「あはは……私も徹夜で魔法の練習したら成功するかなって思ったんだけど、結局上手くいかなかったよ……。私には魔法の才能が無いみたい……ふわぁあ」
「「……」」
姉さんは、物凄く申し訳なさそうな顔をしている。きっと、俺もそんな顔をしている事だろう。「かず兄の馬鹿! もう信用しない!」なんて言われる事を覚悟しておいた方が良いだろう。はあ。そんな事を言われたとして、俺は立ち直れるだろうか……。
てか、本当に大丈夫か?紗也、かなりふらついてるぞ?姉さんは研究で、俺は古文漢文の勉強で徹夜する機会があるけれど、紗也にはそんな経験がないだろう。そんな彼女が徹夜したのだ。ふらふらになって当然か……。
そんな感じで祖父ちゃんの家に向かっていた時、事件が起きた。
「お祖父ちゃんの家って、こんなに遠かったっけ?」
「眠たい時って歩幅が小さくなるからなあ。その分、遠く感じるのかな」
なお、科学的根拠がある訳ではない。姉さんに聞いてもそういう研究があるのかどうか知らないとのことだった。
「はあ。徹夜なんてするんじゃなかったわ……ってきゃあ!」
「「紗也?!」」
紗也が、道路に出来た窪みに躓いた。これだけでも不幸な事故だったのだが、不幸とは重なるものであるらしい。夜に降った雨で出来た水たまりが、躓いた先にあった……。
「きゃあぁああ!」バッチャーン!
紗也が泥にまみれてしまった……
「うわーー。最悪……」
「だ、大丈夫か? 紗也?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ! はあ、自業自得とはこの事ね……」
「「……」」
俺達姉弟の申し訳ないゲージが限界突破した瞬間であった。
◆
「いらっしゃーい! ってどうしたんだ、紗也? 泥まみれじゃないか!」
「あ、お祖父ちゃん! おはよーー。あぜ道で転んじゃってさぁ……。お風呂使わせてくれる?」
「勿論、勿論。風呂沸かしながら入りなさい。ゆっくり温まってきなさい」
「はーい」
紗也はトテトテとお風呂へと去って行った。
俺はと言えば、縁側に向かうことにした。梅雨の真っただ中の癖に今日は晴れていて、暑い。そんな日は縁側で過ごすに限る。
◆Side 紗也
「いたたた! 擦りむいたところが痛いよう」
紗也は、泥だらけになった体を水で洗う。その時、彼女の膝に激痛が走ったのだ。膝に目を向け、そこから出血している事を理解する。「はあ、なんだかついてないな、今日は。これだけ、不運が重なったなら、そろそろ魔法が発動しないかしら?」と紗也は思う。
紗也は、目の前に揺らぐ湯煙をじっと眺めた。すると……
「あれ、動いた?」
紗也の視線につられて煙が動いた気がした。彼女は、試しに反対側に視線を動かす。すると……
「やっぱり動いた!!」
湯煙とは、空気中の水滴である。紗也は、水滴の操作が出来るようになったようだ!
なお、紗也は気が付いていないが、これはあくまで偶然風が吹いてそう動いて見えただけである。しかし、紗也は、とうとう自分も魔法を使えるようになったと思い込んだ。
「でも、煙を動かすって地味だなあ……。うーん。あ! もし、自由に水滴を操れるのなら、水滴を集めて液体の水に出来るのでは?」
そう思った紗也は、早速実験を行う。
「すぅーー! はあ!」
これまた偶然、風が吹いて、紗也の手の平の上で、小さな渦巻く風が発生した。そんなことを知らない紗也は、魔法が発動したと信じて疑わない。
「うまくいきそう! ……今度はもっと本気でやってみましょう! 『アクアクリエイト』!!」
彼女は、好きなアニメの呪文を唱えながら水滴が自分の掌に集まってくる様子をイメージする。先ほどのように、紗也の手の平の上で煙が渦巻く。
ただの風が原因なら、ここで終わり。渦巻く湯煙はすぐに霧散するだろう。しかし、今回彼女の手の平の上で起こった現象は風の
水滴同士がぶつかり、より大きな水滴へと成長する。それらが集まって、より大きな水滴へと成長する。
そうして、十分大きくなった水滴は、重力に従って落下し、彼女の手の平の中に納まった。
こうして、紗也は魔法を使えるようになった。
紗也が魔法の成功させたのは奇跡であったと言えよう。そもそも、彼女が転んでいなかったら、紗也はお風呂に入らなかっただろう。そして、紗也の視線に合わせて偶然湯煙が動かなければ、紗也は自分が魔法使いであると信じ切れなかっただろう。
偶然が重なって、奇跡が起こったのだ。
◆Side 和也
縁側で過ごしていると、ばあちゃんがやってきた。
「あら、かずや~? いらっしゃーい。あ、今朝畑で獲れたパプリカ食べる?」
「あ、ばあちゃん! おはよー。ありがと、食べる食べるーー」
ばあちゃんがポイッとパプリカを投げてくる。俺はそれを片手でキャッチ!パシッと片手でキャッチできた時って、なんか嬉しいな。
「かず
そうして、パプリカをバリボリと食べていると、家の中から紗也の声が聞こえてきた。
虫でも出たのだろうか?急いで風呂場に向かう。
「どうした! 何があった?」
脱衣所の扉を開け、中を除く。
すると風呂場の扉が開き、湯気の中から紗也が現れた。
「見て見て! 魔法が発動したの! 見てて! 『アクアクリエイト』!」
器状にした手の平に向かってそう唱えた紗也。すると、さっきまでは空だった手の平の中に、どこからともなく水が現れた。だが、俺の視線は手の平ではなく別の場所に固定されていた。
「ちょっと、かず兄? ちゃんと見てた?!」
「あ、ああ。もちろんじっくりと見させてもらったぞ……」
「本当に?」
「ああ……」
目の前に、紗也の一糸まとわぬ姿があるのだ。どうしても、女性特有の場所を見てしまう。
俺の中の悪魔がささやく
『ふへへ。舐め回すように観察しようではないか!』
対抗するように、俺の中の天使が叫ぶ
『こんな機会はもう二度と訪れないかもしれないのですよ! 今のうちにじっくりと観察しておきなさい!!』
悪魔、そして天使。ありがとう。二人(?)の合意を得た俺は、目の前の光景を脳に焼き付けることにした。
「かず兄? どうかした?」
そんな俺を見た紗也は、首をかしげる。そんなに俺、変な顔をしていたのだろうか?
「ごちそうさまです!」
あ、しまった。ついつい本音が出てしまった。
「……? ……!! いやあぁーー! 変態! スケベ! かず兄のバカァーー!」
次の瞬間、頬に激痛が走った。紗也の本気のビンタが炸裂したのだった。
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