あげあげ☆ドラゴン

猫野 伽羅

第1話 あげあげ☆ドラゴン

 私は今、山の中の一軒家にいる。ここには祖母から受け継いだこの家の遺品整理の為に、1週間仕事を休んで来ている。多分、手紙を残してくれていると思うんだよね。祖母の遺言状で、まさか私にこの家を譲るって書いてあると思わなかったもの。

 小学生の頃は夏休みにここに来て、のんびりするのが好きだったなぁ……なんて考えていたら。



ドォーン!!!!!



 突然、物凄い地響きと共に大きく揺れた。外に出てみると、大きなドラゴンがいた。


 いやいや、何言ってるの、私。ドラゴン……ドラゴン?

 もう一度良く見てみる……赤い鱗のある大きな身体、背中の翼、そして牙の生えているトカゲみたいな顔。どう考えてもお話の中で見たようなドラゴンだよね。


 やばい、私、死ぬかも?

 でもドラゴンは、一向に動く気配がない。も、もしかして死んでる?


 ふと、近くに人が倒れているのに気がついた。恐る恐る近付いてみると、意識は少し有りそうだ。

 とてもがっしりした体格の良い男の人だ。髪の色は透き通るような青、服装も日本とは違い、お話に出てくる冒険者みたいだ。


「あの、大丈夫ですか?」


「うぅ、腹減った……ドラゴン……食べ……」


 そう言うと、意識を失ってしまった。


(えっ? 今この人、ドラゴン食べるって言ったよね……食べられるんだ。それは、とても興味がある。食べたい、食べてみたい、というか料理したい!)


 パッと見、大きな怪我はしていないみたいだし、呼吸も落ち着いているからこのまま寝かしておこうかな。気になる所はいろいろあるけれど、全部ぜーんぶ横に置いといて!


「料理しちゃおー!」


 それに、この人も食べたいって言ってたし、作ろう! 作っちゃうぞー! しかし、ドラゴンの肉ってどんなのだろう? とかげ? そんなの食べたことないから分からない。


 さて……どうやって捌く? 牛とかの解体図の部位を思い浮かべてみる。まぁ、身体の構造なんてそこまで大きく違わないよね!


 と、とりあえず包丁を持ってきてみる。


「か、硬っ! 全然刃が通らない」


 うーん、どうすれば? 辺りを見回してみると、倒れている人の近くに剣が落ちている。ちょっと借りてみようかな。


(おぉ、切れる! さすが多分、異世界の剣!)


 表面の硬い皮が切れたら、後は包丁が通ったので、いくつかの部位を剣と包丁を使って切り出していった。


(ドラゴンって赤身肉なのね。ということは赤身の牛肉っ!?)


 筋っぽい所もあったので、それも切り出していく。


(牛スジならぬドラゴン筋、煮込んじゃうぞ。味噌? 醤油? どっちがいいかな)


 お肉と筋を取り出したので、一旦焼いて味見してみよう。焼肉屋さんのカルビくらいの厚さに切って、シンプルに塩で焼いた。


「うわっ、なにこれっ!」


 牛肉よりも少しだけ噛み応えはあるけれど、硬いわけでもなくさくっと噛み切れる。噛むと肉汁がじゅわ~っと溢れてきて、味は牛肉よりも全然美味しい。


「これは凄い! ふふ、何作ろう」


 普通に焼き肉でも良いけれど、せっかくのドラゴンのお肉だ、色々作ってみたい。


 赤身……やっぱりローストビーフ、じゃなくてローストドラゴン?

 あっ、ドラゴンシチューも食べたい。後は、筋もあるからドラゴン筋煮込み、ドラゴンカツサンドもいいな。あっ、唐揚げも!


 まずは筋の下茹でしよう。お鍋に多めに水と筋を入れて火にかける。次はローストドラゴン。塊肉に、塩と胡椒とハーブを塗りこむ。

 ドラゴンカツ用にステーキくらいの厚さに切って、玉葱をすりおろしたものに漬ける。唐揚げも下味をつけて揉み込んでおく。


 筋を茹でていたお湯を捨てて、水で洗ったら、一口大に切り分けて、下茹でした大根と蒟蒻と一緒に圧力鍋に入れる。酒、砂糖、醤油、生姜、水を入れて圧力鍋を火にかける。


 あの人は大丈夫かな。少し摘まめる物を準備しよう。ドラゴン肉を薄く切って、塩胡椒で焼いてパンに挟む。


 パンを持って様子を見に行くと、意識が戻っているけど、動けないみたいだ。


「あの、大丈夫ですか?」


「ここは一体……?」


「私は優里と言います。ここは祖母の家の庭です。あの、日本ってわかりますか?」


「ニホン? いいえ、知りません。あっ、俺はブラウンと言います」


「とりあえず、食べながらお話しましょう。お腹空いてますよね? 後、普通にお話して貰って大丈夫ですよ」


 私はさっき作ったパンとアイスティーを出してあげた。


「あ、ありがとう。では、感謝を。」


 美味しかったようだ。1個じゃ全然足りてない。この体格だ、仕方ない。


「多分、違う世界から来たんだと思うんです。日本にはドラゴンなんていませんし……」


「そうなのか……困ったな……」


「と、とりあえず、今は食べましょう! ドラゴンのお肉を調理しているのでもう少し待ってくださいね。待てますか?」


「あぁ、少し食べたから大丈夫だ。よろしく頼む」


「はい、では作ってきますので、ゆっくり休んでいてくださいね」


 よし、早く作ってあげよう。


 ローストドラゴン用のお肉の表面を焼いていく。ジップの袋に醤油、酒、みりん、蜂蜜でタレを作る。表面を焼いたお肉をジップの袋に入れて、空気を出来るだけ抜いてジップする。お湯を入れた炊飯器にお肉を袋ごと入れて30分保温する。


 ドラゴンシチューはビーフシチューの素があるからそれにお任せだ。

 玉ねぎ、人参、じゃがいもを切って、お肉は早く出来るように薄めに切る。


 順番に炒めてからお水を入れて煮る。煮ている間に玉ねぎに漬けていたお肉でカツの準備をする。カツのタレは醤油、砂糖、みりん、お酒で作っておく。


 ビーフシチューのルーを入れて仕上げてから、カツを揚げていく。からしマヨネーズを塗ったパンに、タレにさっと潜らせたカツを挟んでラップに包んでおく。


 ドラゴンカツサンドとドラゴンシチュー、ドラゴン筋煮込みで先に食べてよう。


「あの、お待たせしました」


「あぁ、悪いな。ありがとう」


「飲み物は何が良いですか? さっきのお茶かお酒どちらが良いですか?」


「酒!? い、いや、それは申し訳ない」


「私も飲みたいですし、お気になさらず。まずはビール飲みますか?」


「ビール?」


「飲むとしゅわしゅわするお酒です。飲めなさそうだったら私が飲むので大丈夫です!」


 こんなお酒に合いそうなもの、飲まずに食べられない! ビールに日本酒、ワインもいいな。祖母の家にはなぜかお酒を仕舞う蔵があるから選び放題、飲み放題だ。グラスにビールを注いで、料理と一緒に出してあげた。


「うわっ、冷たくて旨い! エールに似ているけれど、冷えていてこっちの方が断然旨い!」


 私もビールをグラスに注いで一緒に食べる。まずはドラゴンの筋煮込みを食べてみる。


「んんん! 何これ、今まで食べた中で最高! おっと、ビールビール!」


(やばい、これはエンドレス行けそうなくらいビールと合う)


「なんだこれは! このとろっとしたのは一体?!」


「これはドラゴンの筋の部分を柔らかくなるまで煮たものなんです。このとろっとした食感が堪らないですよね」


「それを食べた後のこのビール? がさらに美味しく感じられていくらでも食べられそうだ」


「ですよね。でもこれ、日本酒も合うんですよ」


 いそいそと日本酒も取ってくる。お猪口に冷えた日本酒を入れて出してあげる。


「ゆっくり飲んでくださいね」


 ブラウンさんは煮込みを食べてから、日本酒に口を付けた。


「こ、これは……なんてすっきりとした味わい。煮込みとの相性といい、止まらないな」


「ふふ、気に入って頂けて良かったです。日本酒ともよく合いますね。ドラゴンってこんなに美味しいんですね。次のお料理が楽しみです」


 次はドラゴンシチューを食べてみる。


「ふわぁ、これは凄い」


 ブラウンさんも食べてみると、やっぱり同じような反応をしていた。


「こ、これは堪らんな。このシチューの濃厚な味にドラゴンの味が負けてなくて、でも全体の旨さも上げている」


「ドラゴンってこんなに美味しいんですね」


「俺もこんなに旨いドラゴンは初めてだ」


 ワインを一緒に飲もうと思っていたのに食べきってしまった。カツサンドと一緒にワインにする為に、ワインを取ってきてグラスに注ぐ。


「次はドラゴンのカツサンドですね。これはワインが合うかと思うのです!」


「ん~、おいしい。噛み応えはあるのに歯切れは良くって、噛むたびに肉汁が溢れてくる。そしてこのワイン! 美味しい~」


「こ、これは食べ応えは凄くあるのに、ジューシーだからか凄く食べやすくて、このワインととても良く合って、いくらでも食べられそうだ」


 メインのローストドラゴンを切ると、中までピンクの美味しい状態に出来上がっていた。

 お皿に盛りつけて完成!タレも器に入れてお皿に乗せておく。


「ローストドラゴンです。そのままでも味が付いてますが、足りなかったらタレを付けてくださいね」


「あぁ、ありがとう」


「ん~、これもジューシーで美味しい。ドラゴンあんなに大きいからお肉が硬いかと思っていたけれど、全然柔らかいですね。」


「うわっ、この肉汁が溢れる感じがもう……幸せだな」


「本当ですね」


 2人でこの後少しうっとりと余韻に浸っていた。それほど、ドラゴンのお肉は美味しかった。

 大満足でごちそうさまの挨拶をした途端、ブラウンさんの身体が光った。


「えぇ!?」


「うわっ、なんだこれ……あっ、なんだか帰れそうな気がする。旨い酒に旨い料理、本当に感謝する」


「無事に帰れそうで良かったです。私もとっても楽しかったです」


 強い光で目を開けていられなくなった。目を開けるとブラウンさんはいなくなっていた。

 なんか夢を見ていた感じだ。あれだけあった料理はブラウンさんのお腹にほとんど入っていった。


 外を見るとドラゴンも消えていた。


「えぇー、ドラゴンのお肉もう少し欲しかったなぁ。残念……あっ! 唐揚げ揚げるの忘れてたー!」



 次の日


 ドォーン!!!


「えっ、まさか?」


 目の前にグリフォンとブラウンさんがいた。


「鶏肉きたーーーーーーー!!」

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