学校の片隅で

@rpcrtremote

本文

「私はなぜこんなことになったのだろう。」

そう思う時が一度はあるはずだ。

私もそんなことがあった。

彼はおもむろに鞄からパソコンを取り出しながら言った。

「私も実は、あなたと同じようないじめの経験者であってね、まあ時には死にたいとも思っていたよ。

しかも「障害者」というトッピング付きでね...ハハハ」


カン、ガリガリ...静かなビルの屋上で、彼の持っているパソコンのHDDの音だけが響いている。


ま、そういうわけでこのビデオを見てほしい。

「ここで死にたくない」、そう思うはずさ。

「カチっ」


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ある小学校に、僕は入学してきた。

辺り一面、畑や田んぼのある中で一つぽつんと立っているその校舎は木造で、なんとも言えない木の温もりに包まれている。

全校生徒は100人前後。この町に一つしかない、小さな小学校だ。

校庭には池と田んぼがあり、そこではみんなが思い思いに昆虫を捕まえては先生や友達に見せにいく。

さらに裏山にはアスレチック遊具があり、毎日多くの子どもたちが遊びにいく。

時には校庭まで列が続いているほどだ。

静かな里山の中で、ここだけがたくさんの声に包まれている。

こんなにのどかな小学校で、事件は起きた。


ーそれは、「いじめ」だ。


なぜこんなことが起きたのか、誰も知らなかった...


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それは、4年生になってすぐのとある日のことだった。

中休み、僕が友達に「おはよう」と声をかけた時に彼はこういった。

「こっちついて来んなよ」

その一言に自分はびっくりした。

「え?なんて?」

そう聞いても彼は無視した。

そして、中休みが終わると彼の周りにいた人たちが僕に向かってたくさんの言葉を言ってきた。

「お前、足遅えな。走り方も知らないバカなのか?」

「ほんと、それ思う。さらに言えば球技下手くそ太郎だしなっ」

「あぁ、お前の顔なんか見たくねぇ!」

その言葉一つ一つが、まるで針のように深く心に突き刺さっていく。

「こんなことをされたのは初めてだ。」そう思った。

そして、先生が来た。

自分はクラスで1人、泣いていた。

「どしたの?」先生が聞いてきた。

僕は今までのことを全部話した。

もちろん、彼らは反発した。

その日は全く授業に集中できないまま、一日が終わった。


それからというもの、自分はいろいろな嫌がらせを受けた。

帰りの会のゴミ拾いの時、「こいつもゴミです。世界から消してください」と言われてゴミ袋をかぶせられたこと。

帰り道でいつも通るところの押しボタン信号機に瞬間接着剤がかけられていて、指がくっついてしまったこと。

自分のランドセルにカッターで落書きされたこと。

自分の家が特定され、鍵穴にたくさんの木の枝を入れられたこと。

公園で遊んでいると、いつも自転車で轢こうとしてきたこと。

自転車で適当に出かけていたら、わざと自転車をぶつけられてきたこと。

ドッジボールや鬼ごっこで僕だけ狙われたこと。

顔が「じゃがいも」に似てるから、「じゃがいも野郎」と言われたこと、

そして給食の時、じゃがいもを使った料理が出てくると「共食い」とか言われたこと。




ふと思えば僕は人目を避けるようになっていた。

体調も万全というわけでもなく、学校の話題が出ただけで気分が悪くなったりもした。

そして、何をしても自分が他より劣っていると思うようになってきた。

一ヶ月に一回行くか行かないかの「街へのお出かけ」も人目を避けるために、行かなくなった。

学校を変えたいと本気で思ったけれど、ここから一番近い違う学校までは片道10Kmもあり、到底人の足では行けない。


ふと気がつけば、6年生になっていた。


ずっと苦しくて、学習もままならなくて、ずっといじめられっぱなしだった一年。

辛くても、相談できる人は1人。

こんな状態の僕を受けとめてくれる人は、一つ低学年の友達1人だった。


ある日、僕はその子に言った。

「もうさ、自分っていなくなってもいいよね、誰も、誰も自分を受け入れてくれないよね...」

その子はこういった。

「大丈夫、私がついてるからなんでも言って!」


自分は「天国に行ったら楽に生活できる、こんな世界は嫌いだ」ということだけがずっと頭にあった。

ずっと家にいることも多くなった。

家ではただ何もせずに、もう見飽き過ぎている里山の風景を眺めるだけ。

たまに街の中に一つだけあるマンションの屋上に行ってそこに住んでる友達と話をする。

そうやって一日一日が過ぎていった。

修学旅行では、みんなと離れて1人だけで生活することを先生から許可された。

途中、遊園地でいじめる人に遭遇してしまった。

人目を気にせず自分を殴ってくるし、そばに落ちている空き缶を投げつけてくるし、散々だった。

さらにはゴーカートでちょうど自分の後ろにいた人がいじめる人だとわからずに、そのまま乗ったら追突ばっかりされた。

そしてなぜか場外に飛び出てしまい、係員を呼ぶことに。

自分が落としたバッグを轢きながら、「あばよっ」と一言。

「ごめんなさい」は無いんだな。

そう思った。


その日の真夜中、僕は泊まっている少年自然の家のグラウンドに来ていた。

「なんでここに来たのだろう。」そう思った。

ふと空を見上げた時、そこにはたくさんの星があった。

低い田舎では見られない、高地だからこそ見れる景色だ。

その景色に、泣けてきた。

「なんで僕はこんなことになったんだろう、どうして死んだ方が楽だと思っているのだろう。」

そう思った。

その時、ふと気がついた。

「田舎では見られないけど、山の頂上なら見える。」

「低地では見られないけれど、高地では見れる景色がある。」

「自分からでは見れないけれど、他の人からは見れる自分がある。」


「もしかして、自分には他の人から見えない弱さがあるのでは?」

そう思った。


その時、どこからか自分を呼ぶ声がした。

「まずい、早く戻らないと!!」

まあその後はこっぴどく叱られた。


修学旅行の後、僕は友達に言ってみた。

「何か僕がしたことでいいことがあったかな?」

友達は答えてくれた。

学校で修理費が1万円以上と見積もられた大型コピー機をわずか数時間で直したこと。

給食の時、当番では無いのに当番の人を手伝ったこと。

友達が休みの時、手紙とかを届けたこと。

図書館でいつも本の整理を手伝っていたこと。

放送委員会の時、友達の分の給食まで持ってきたこと。

機械がわからない先生のために、パソコンの使い方やCDの焼き方を一から教えたこと。

急に繋がらなくなった校内電話の電源を直したこと。

雨の日にブレーカーが落ちた時、冷静に状況を判断して落雷で漏電ブレーカーが誤作動したことまで突き止めたこと。

得意の機械関係を活かして、運動会の時用増設スピーカーを作ったこと。


どれも普通の小学生だと出来ない、離れ業ばかりだった。


今までは「これが普通だ」と思い込んでいたことが、他の人から見るとすごいことばかりだった。

その日から、自分に自信が持てるようになってきた。


それからは少しずつ頑張り始めた。

もし、いじめる人に出会って何かされたら、保健室に帰ってくる。

この繰り返しだった。

次第にクラスの雰囲気になれるということはなかったが、以前よりクラスにいても大丈夫なようになってきた。


そして卒業式の日。


最後まで練習に付き合えなかったせいで、半分の時間を席に座って過ごしていた。

それでも最後までその場に入れたから、まあよしとなった。


そして卒業式の後。


体育館の隅で、「疲れた」と腰を下ろしていた時、いつもいじめる人が走ってきた。

自分は逃げれるように、と体制を整えていた。

その時、そのいじめる人は言った。


「今までのこと、本当にごめん。許して。」


グループできた人もみんな来て、自分に「ごめん」や、「申し訳なかった」と言ってその場をさっていった。

いつもいじめる人が最後に自分の前に来てこう言った。

「今まで、すごくストレスや不快な思いをさせてしまってごめん。

実は俺、そういうつもりじゃなかったんだ。

ただ友達になりたくってさ、それでつい...

最初は遊び半分だったのさ。

それから少しずつ、人を傷つけていくのが楽しくなってきて...

気づいたらお前に......」


「お前に深い傷を作ってしまったんだ!!」


「だからもう、その....」


「いや、もういいよ。」

僕は言った。


「自分でもそのおかげで気づけたこともあるし、申し訳なかったこともある。でも、」

話を挟んで彼は言った。

「和解...してもいい?」

その問いかけに、僕は言った。

「もちろん!」


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こうして、長いいじめの歴史は幕を閉じた。

彼とは、今でも仲良くしている。


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...。

どうだった?

もし、「死にたい」と思った時はこんなことを想像してみて。

ちょっとは心が軽くまるはずだから。

「どんなに辛いことがあっても、原点に気づけばいつか報われる。」


私は強く共感した。

「もうこうやって死のうとは考えない」

そう固く心に誓った。


彼は言った。

「実は、もう一つ動画があって...ああ!やばい!電池切れだ.....」

彼はパタン、とパソコンを閉じて言った。

「もし君が僕と同じような感じになったらまたいつでも相談しにおいで。」

「じゃっまたな!」

彼は去っていった。




こうして私の新しい生活は始まった。



ー終わり

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