なるほど、幼馴染を愛しているのですか……。そのせいで身を滅ぼすことになっても自業自得なので、私を恨まないでくださいね?
下柳
第1話
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」
子爵令嬢である私、クレア・ハーストは、婚約者であるロバート・エリスが連れて来た人物を見て、困惑していた。
「悪いけれど、彼はあなたのことより、私の方がいいみたい」
彼が愛している幼馴染というのは、ジーナ・パークスという女性である。
ロバートの隣にいる彼女は、私に挑発的な笑みを浮かべ、勝ち誇ったようにそう言った。
彼女の外見は、驚くほど美しい。
しかし、中身はそうではなかった。
あまりにも突然のことで驚いたけれど、私の中で、ロバートに対する気持ちが急速に冷めていくのを感じた。
だから私は当然、彼に提案をした。
「それでは、婚約破棄いたしましょう。その幼馴染と、末永くお幸せに。私は私で、新たな人生を歩みますので」
私は彼に、別れの挨拶を告げた。
「何を言っているんだ? 婚約破棄なんてしないぞ? お前は世間体というものを知らないのか?」
当たり前のようにそう言ったロバートに、私は腹を立てた。
世間体ですって?
そんなものを気にするくらいなら、最初から浮気をしなければいいでしょう?
婚約破棄するつもりはないけれど浮気はするなんて、そんな身勝手なこと、許されるはずがない。
「何を言っているのですか? そんな道理が通用するわけないでしょう? 婚約破棄は、受け入れてもらいますよ。あなたがなんと言っても、浮気をしている以上、婚約破棄は成立します」
「婚約破棄はしないと言っているだろう!?」
彼が突然怒鳴り声を上げたので、私の体はびくっと震えた。
そして次の瞬間、目の前に彼の足裏が迫ってきているのが見えた。
気付いた時には、もう遅かった。
私は顔面に衝撃を受け、後方に体が飛んで、背中を打ち付けながら床に倒れた。
私は立ち上がろうとしたが、恐怖で足が震えて、床に座ったままだった。
遅れて、痛みがやってきた。
座ったまま床を見下ろすと、ぽたぽたと鼻血が垂れていた。
涙も流れている。
あまりにも唐突で理不尽な暴力に恐怖を感じ、私の体は震えていた。
「いいか? 同じことを二度言わせるなよ? 婚約破棄はしない。逆らえばどうなるか、わかるよな?」
彼は恐ろしい表情で、こちらを見下ろしていた。
「……はい」
私はそう答える以外に、何もできなかった。
「ワイルドで素敵だわ。一瞬で従わせるなんて、なんてかっこいいの」
ロバートの隣にいたジーナが、彼に抱き着いた。
なんなのよ、これ……。
こんな理不尽が、あっていいの?
幼馴染を愛しているのなら、二人で勝手にすればいいじゃない……。
それなのに、どうして私のことを縛るの?
私まで、巻き込まないでよ……。
どれだけ、自分勝手なの?
私のことを、いったい何だと思っているの?
世間体のためだけに、私の自由を奪うなんて……。
私の中で、何かが破裂したような気がした。
そしてこの出来事が、彼の、否、彼らの破滅の始まりになるのだった……。
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