第445話 アガラとの再会

 アクセルと再会したルディ一行は、お互いの近状を話しながらダの集落へと向かっていた。


「……50万もの人間同士が争ったのか……俺には想像がつかないな」


 ルディから戦争の話を聞いてアクセルが顔をしかめる。

 エルフは人間よりも長寿な反面、繁殖率が低い。それ故、人間よりも命の尊さを知っていたので、簡単に命を落とす人間の行為に呆れていた。


「寿命の違うエルフと人間の違いです。僕の知ってるエルダー人も戦争ばかりする人間を愚かだと言って、馬鹿にしていたです。まあ、その態度がムカつくですけどね」


 ルディの話を聞いていたアクセルは納得していたが、最後の余計な一言で苦笑いを浮かべた。

 ルディはアクセルから森のエルフの状況を聞こうと思っていたが、戦争の話が長かったせいで、その前にダの集落に到着した。




「前に来た時は、そことなくどんよりな雰囲気あったですけど、今回は明るい感じですね」

「まあ、前はアレマソの怪物が居たからな。フォレストバードを厩舎に預けたら、長老の下に……」

「あれ? ルディだ!」


 アクセルが話していると厩舎の方からルディを呼ぶ声がした。

 全員が振り返って声の主を見てみれば、驚いた表情を浮かべている女性エルフが近寄ってきた。

 彼女の名前はミンク。以前、ルディと一緒にマソの討伐に参加した一人。

 見た目は二十代と若くて、性格ははつらつ。

 他のエルフと同様に容姿は美しく、金色の髪をポニーテルにしている。


「ルディ、久しぶり! あれ? ……一郎君は?」


 ミンクは挨拶もそこそこに、ゴブリン一郎を探す。

 以前、ダの集落に来た時、ゴブリン一郎は集落の人気者だった。

 何故なら……。

 自ら被検体となって、マソの治療薬の作製に協力する(本人に自覚なし)。

 食料不足だった村に、果物を無料で渡す(自分が食べたかった)。

 暗い雰囲気の村を明るくさせようと、子供とサッカーで遊ぶ(暇だった)。

 自分の命を削ってでもマソの怪物と戦った(ナオミが食べられたと勘違いしてキレた)。


 当の本人は全く自覚していなかったが、エルフたちはゴブリン一郎を村のために尽くしてくれたヒーローだと尊敬していた。

 特にミンクは、マソの怪物と激闘するゴブリン一郎に惚れた、村一番のファンだった。


「一郎は自分の村を守るために、お留守番です」


 それを聞いたミンクがガビーンとショックを受けて、膝から崩れ落ちた。


「ううっ……絶対戻ってね。って約束したのに……」


 涙を流すミンクだが、当時のゴブリン一郎は言葉を理解しておらず、約束以前に彼女の話は通じていない。


 エルフの容姿は全員が美男美女で背が高い。逆にゴブリンは、チビで、お腹がぽっこりして、顔も鬼瓦のように醜い。

 エルフから見たゴブリンは、キモ可愛いく見えるらしい。

 ルディとナオミは、エルフの美的センスは一生理解できないと思った。


「こいつはほっといて長老の所へ行くぞ。ミンク、お前も仕事をしろ」


 ミンクが落ち込んでいる間に、フォレストバードを厩舎に預けていたアクセルが戻ってきて案内する。

 ルディが離れた後も、ミンクはその場に残って落ち込んでいた。




 アクセルの案内で、ルディたちは集落の中を歩いた。

 集落では女性と子供のエルフが協同で働き、当番で狩に行かず村を守っている男性のエルフは弓矢の訓練をしていた。

 質素な暮らしの中でもエルフたちの表情は明るかった。

 彼らはルディたちに気付くと、仕事の手を休めず手を振って歓迎してくれた。


「長老。ルディが来た」


 ルディたちが集落の中央のテントに到着すると、アクセルが天幕を捲って声を掛けた。


「……入りな」


 許可を得てルディが中に入ると、奥で座っていたダの集落の長老、アガラが微笑んだ。


「思っていたよりも早かったね。もっと遅くなると思っていたよ」

「別に大した用事じゃなかったです」


 宇宙の戦争では一度の戦いで何千万もの命が消える。

 ルディからしてみれば、この惑星の戦争などくだらない喧嘩に過ぎなかった。


「そうかい。無事に帰ってくれた事を精霊に感謝するよ。どこでもいいから座りな」


 ルディたちが座っている間、アガラはずっとソラリスを見ていた。


「見ない顔が居るね」

「コイツはソラリスです。育児から殺しまで、なんでもお任せですよ」


 アガラとアクセルは酷い紹介だと思ったが、当の本人はまるで他人事のように無表情のまま、アガラに向かって頭を下げた。


「この娘からマナを感じないね。このもマソの被害者か?」

「うんにゃ。天然です」

「……そうかい。アンタに似て変な娘だね」

「僕、自分が変なの自覚してるですけど、コイツとは次元が違げーです」

「私からしてみれば、同じだよ」


 ルディとアガラの会話の間、ナオミとルイジアナは笑いを堪えていた。




「そろそろ、今年の族長会議の時の話をしようか」

「そーですね。それを聞かないと、何も始められねーです」


 挨拶が終わって本題に入ると、先ほどまでふざけていたルディも真顔になった。


「今年は初めてエルフの真名を知る人間が現れたから、荒れたね」

「予想はつくです」

「しかもそれがまだ子供で、この数年悩まされていたマソの怪物を退治してくれた事も驚いていたよ」

「芸人になった気分です」

「……相変わらずだね」

「ユーモアの重要性を知ってるだけです」

「私は250年以上生きているけど、そこまで重要性は感じないよ」

「老いたエルダー人は悟りを開いたと勘違いするですけど、それはただのボケです」


 このままでは何時までも話が進まないと、ナオミが会話に割り込んだ。


「アガラ。そろそろ、結果を聞かせてくれないか?」

「……たしか、ナオミだったね。狂った方向に話を飛ばされて修正できなかったよ」


 アガラはどこか疲れた様子でナオミに礼を言った。



※ この小説の二巻が9/10に発売されます。

  10日が日曜日だから、書店に並ぶのは早くて8日だと思う。

  今回のカバー表紙には、ゴブリン一郎も登場しています。

  早く見たい方は、カドカワbooksのホームページで確認してください。


以上

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る