第437話 ゴブリンの意地
ゴブリンの村に二体のオーガが現れた。
オーガの身長は2.5m~3m。ゴブリンの身長が1.3m~1.5なので、オーガとは大人と子供ぐらいの差がある。
皮膚は赤く、全身を包む固い筋肉は、まるで鎧の様に固い。ボサボサの黒髪を肩まで伸ばし、額には二本の角を生していた。
顔つきは悪鬼が如く、見る者に恐怖を与える狂暴な面をしていた。
オーガはこの惑星に昔から存在する、森を生息地にしている肉食原生種だった。
知能は低くて狂暴、力は人間の5倍近く怪力。
彼らは人間が魔族と呼んでいる種族の上位種で、一年前までは同じ魔族のオークやゴブリンを何百年も従えていた。
ところが、一年前に魔族を大量虐殺する事件が発生した。
犯人はルディに良いところを見せようとしたナオミ。
そのせいで、群れていた魔族はバラバラになり生態系が狂った。
今までのオーガは、オークとゴブリンからの貢物を食べていたが、それがなくなって、オーガはオークとゴブリンを食べて生きるようになった。
それ以降、ゴブリンはオーガに怯え暮す生活が始まった。
ゴブリンたちが震えながら、オーガと対峙する。
二体のオーガは、雑魚の分際で愚かにも歯向かおうとするゴブリンを見てニタリと笑った。
「お前等、ビビってんじゃねえぞ! 俺たちには一郎から教わった武器がある! もう俺たちは食われるだけの弱者じゃねえ‼」
今にも逃げ出しそうなゴブリンに、タケーシが怒鳴って発破をかける。
それでゴブリンは気合を入れたのか、震える体が少しだけ治まった。
普段は姿を見せるだけで逃げ惑うゴブリンが、自分たちに歯向かおうとしている。それが珍しくて、オーガが首を傾げた。
だが、問題ない。どうせ何時ものように殴り殺せば、怖気づいて歯向かおうとする気力など無くなるだろう。
二体のオーガはお互いの顔を見て、どちらが多くのゴブリンを殺すか競争しようと、笑みを浮かべた。
油断して隙だらけのオーガがゴブリンたちに近づく。
お互いの距離が15mまで差し掛かったところで、タケーシが緊迫した声で怒鳴った。
「今だ‼ ぶっ放せ‼」
その合図にゴブリンが一斉に助走をつけて、投げ槍を放った。
飛んでくる投げ槍にオーガは驚き、避けようとする。だが、油断していた彼らは間に合わず、全ての投げ槍が体に突き刺さった。
「やったか?」
槍が刺さってオーガが蹲る。それを見ていた、ノービタが高声を上げた。
「馬鹿野郎、油断するな‼」
ノービタのフラグ的な発言にタケーシが叱っていると、二体のオーガが立ち上がった。
そして、体に力を入れただけで、刺さった槍をはじけ飛ばした。
「ヒィ‼」
ノービタが悲鳴を上げて腰を落とす。
オーガの形相は、まさに仁王。
ゴブリン如きが自分たちを傷つけた事に怒り、理性を失くして狂暴化した。
オーガもゴブリンと同様に狂暴化する。その力はゴブリンとはけた違いだった。
体内のマナが筋力を強化し、皮膚は鉄のように固くなり、軽く殴るだけで岩を砕き、素早くなった。
その半面、物を考える事があまりできないという、デメリットもあった。
「逃げるな! 俺たちがやられたら、腹を膨らました家族が居るんだぞ‼」
タケーシが叱咤する。
「ガアァァァァ‼(クソ雑魚がぁぁぁぁ‼)」
しかし、狂暴化したオーガの叫び声に、数人のゴブリンが腰を抜かして、這いずって逃げだした。
「クソ! 俺だけでもやってやらぁ‼」
タケーシが予備の槍を掴んで走り出して、体内のマナが筋力を強化する。
力を込めた一撃を、オーガの太もも目掛けて突き刺した。
「なっ⁉」
タケーシが顔を引き攣らせる。
タケーシの槍はオーガの固い筋肉を刺せず、少しだけ皮膚を切って血を垂らすだけだった。
体に影が差してタケーシが見上げると、オーガが自分を見下ろして拳を固く握りしめていた。
「ブギャ‼」
オーガの拳がタケーシの顔面を貫いた。
顔面の骨が折れて顔が潰れる。殴り飛ばされて建設中の家に当たると、崩壊する家に埋まった。
「「タケーシ‼」」
仲間のスネーオとノービタが悲鳴を上げる。
慌てて駆け寄ろうとするが、その前にもう一体のオーガが走って、スネーオを蹴り上げた。
「グボラ‼」
蹴られたスネーオの内臓が破壊されて、体が宙に浮かぶ。
オーガが浮かんだ体を殴り、スネーオが遠くへ飛んでいった。
……数分後。
ノービタが周りを見れば、狂暴化したオーガにゴブリンは全員やられて、家は全て破壊されていた。
最後に生き残ったノービタは、洞窟の前で槍を構えて震えていた。
本当は全員を見捨てて逃げたい。だけど、自分が逃げたら洞窟の中で震えているメスと子供のゴブリンが、全員食べられる。
ノービタだって、どうあがいてもオーガに敵わないのは分かっている。
だけど、戦わずに逃げたら、自分は一生逃げたままだ。
戦って死んだタケーシとスネーオに、死んだ後で笑われたくない。
ノービタは涙を流して、近づいてくるオーガをギッと睨んだ。
「来るなら来い! ゴブリンの意地を見せてやる‼」
ノービタが叫んだその時、森の中からエアロバイクに乗った、ルディとゴブリン一郎が姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます