第419話 結婚できない色々な理由

 アマンダ王妃の婚約話に一番驚いているのは、当の本人であるレイア姫だった。


 レイア姫もアマンダ王妃ほどではないが、ルディの名前は噂で聞いていた。

 子供でありながら、25万のローランド軍との戦争で勝利に導いた賢者。きっと、大人顔負けの美丈夫で、逞しい体つきをした男性だと想像していた。

 だけど、実際に会ってみたら、自分よりも少し年上の男の子。

 女子と見分けがつかない美形の顔は、本当に戦争の貢献者なのかと疑ってしまう。だけど、可愛い。

 それと、今日食べた料理は本当に美味しかった。もし、ルディと婚約したら、あれが毎日食べられる。そう考えるとチョット……いいえ、とっても嬉しい。


 レイア王女も十四歳。自分が国王の娘であるからには、何時かは政略結婚するのは分かっていた。

 まだ見ぬ相手と結婚するならば、容姿が良くて、料理も美味しい。それに宰相が後継者と認めているからには、将来の席がほぼ確定のルディと婚約を結びたいと思った。




 一方、ルディはレイア王女の考えている事など知らず、悩んでいた。

 傍から見れば、逆タマのシンデレラストーリー。しかし、ルディの体は子供だけど実年齢は八十二歳、寿命も500歳まで生きられる。

 今はまだ人前に出たばかりだから、誤魔化しも効く。だが、時間が経つにつれて、成長の遅いルディが普通の人間ではないとバレるだろう。

 ルディ自身もそろそろ世間から消えて、魔の森でひっそり暮そうと考えていた。

 当然ながらレイア王女との結婚は最初から無理だった。


 ルディが考える断る手段。

 考えたのは二つ。レイア王女に嫌われるか、自分が傷つくか……。

 最初はレイア王女に嫌われる事を考えて、変態をアピールしようと思い付くが、それは自分にもダメージがあると気付いて却下した。

 それなら最初から自分が傷つけば良いかと、クリス国王の側近をもう一度手招きして呼び寄せた。


「お兄さん、お兄さん」

「今度は何だ?」

「耳を拝借してーから、近こう寄れです」


 側近が訝しみながらしゃがむと、ルディは彼の耳に小声で婚約できない理由を話した。


「……それは本当か?」


 側近が憐れむ様な眼差しでルディを見た。


「そんな憐れむような目で見られると、悲しくなるです……」

「それは、すまない」


 ルディの返答に側近が謝る。そして、アマンダ王妃の所に向かう間、今の話をどうやって伝えようか考えていた。




「殿下、ルディ殿からのお言葉です。耳を宜しいでしょうか?」

「何かしら?」


 おそらくルディは王族との婚約に遠慮して、断る理由を伝えようとしているのだろう。

 アマンダ王妃はそう思いながら側近の話を聞いた。


「彼は魔法の呪いで、その……生殖器が機能しないそうです」


 そう、ルディが結婚しない最大の理由。それは彼のオティンティンが立たない事だった。

 一応、魔法を使える時に電子頭脳に埋め込んだ、マナニューロンチップの修正パッチを外せば大きくできる。だけど、大きくなったらずっと大きいままで、小さくならない。

 さすがに普段から勃起したまま生きるのは、ルディも恥ずかしかった。


「……は?」


 チョット何を言っているのか分からない。

 アマンダ王妃が側近を見上げると、彼の目はマジだった。


「そう…それは困ったわね……」


 アマンダ王妃の困惑した様子に、クリス国王も側近を呼んで彼から同じ内容を聞いた。


「……それは不憫だな」


 クリス国王が憐れんだ目でルディを見つめる。


「照れるです……」

「ヒーヒ、ヒヒヒ……アハハハッ! そこは照れるじゃなくて、恥ずかしいだろ‼ アッハッハッハッハッ‼ 」


 言葉を間違えて恥ずかしがるルディと、予想が的中して笑い転げるナオミ。

 二人の様子に、事情を知らない者たちは首を傾げた。


「ルディ……魔法の呪いらしいが治せないのか?」

「魔法が使えるようになった代償に、男としての尊厳を失ったです」


 ルディはクリス国王の質問に答えると、ガックリと肩を落とした。


「……そうか」


 クリス国王もルディとレイナ王女との婚約話は良い案だったのにと、残念そうに呟いた。

 彼が残念に思うにも理由がある。

 封建社会の王族と貴族の重要な仕事は、子孫を作る事と言っても過言ではない。それが出来ないと分かっている者に、結婚を押し付けるのは無理があった。




「お待ちください。何故、私とルディは結婚できないのですか?」


 突然レイナ王女が婚約できない理由を聞いてきた。


 それをこの場で今聞く?

 ルディはショックで頭の中が真っ白になり、ナオミの笑い声が一層高くなった。

 もし、家臣からその質問が来たら断るのは容易い。だが、婚約相手の本人であれば、聞く権利は当然ある。

 だが、ルディからしてみれば、一番聞かれたくない相手でもあった。


「……レイナよ。今この場でその理由を話すことは、ルディの名誉を大変傷つける事になる。後で妻から聞くがよい」


 アマンダ王妃も、これは自分の仕事だろうと頷いた。


「……分かりました。でも、納得できなかったら、抗議します」

「……うむ。理由を知れば、お前も納得するだろう」


 こうして晩餐会は、ルディの精神に深いダメージを与えて終了した。

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