第418話 予期せぬアマンダ王妃の提案

「お邪魔するでやんす」


 ルディが呼ばれて食堂に入ると、全員から拍手で迎えられた。


「ルディ、今晩は大義であった。これだけの素晴らしい料理。この国、いや世界一の料理であったぞ!」


 クリス国王からの誉め言葉に、ルディは恥ずかし気な様子でこめかみをポリポリ掻いた。


 エスタバン王子とレイナ王女は、話の中でルディが自分たちと同じぐらいの年齢と聞いていたが、実際に会ってそれが本当だった事に驚いていた。


「さて、料理長。ルディの料理はどうだった?」


 世界一と褒めた後でそれを聞くのは酷くね?

 ルディはそう思ったが、自分が口出しするのは彼のプライドを傷つけるだろうと黙っていた。


「……どれもが想像を超え、酒との相性も良く、味も素晴らしい…参りました」


 か細い声でエルネスト料理長が口を開く。

 そして、席を立つと、ルディに向かって深々と頭を下げた。


「……なんか仕事を奪って申し訳ねーです」


 ルディも何となく申し訳ないと思い、エルネスト料理長に向かって頭を下げた。




 お互いに頭を下げているとクリス国王が手を鳴らし、エルネスト料理長に話し掛けてきた。


「料理長。これで私が今まで言っていた宮廷料理の改善について、納得したか?」

「……はい。今思うと、あの料理を出していたことが恥ずかしい」

「伝統に縛られていたのだから仕方がない。だが、お前の料理は私の権威の象徴でもある。今日の料理を参考に至急改善に取り組め」


 それを聞いたエルネスト料理長が、慌てて頭を左右に振った。


「陛下! 私では今日の料理を作る事ができません!」

「そのぐらい分かってる。お前はまず味付けから改善しろ」

「……はい」


 その命令にエルネスト料理長が頷いた。


「それについて一つ提案があります」


 会話の途中でペニート宰相がクリス国王に話し掛けてきた。


「なんだ?」

「はい。そこのコンバロ子爵は、以前から宮廷料理の改善について陳情しておりました」

「ほう?」


 クリス国王がクレメンテに視線を向け、その本人は慌てて姿勢を正した。


「そこで彼にも、未知の食材を探す手伝いをさせては、如何かと思います」

「なるほど。コンバロ子爵やってくれるか?」

「はい! 喜んで‼」


 クリス国王の命令に、クレメンテが頭を下げた。


「うむ。これで問題が一つ片付いたな」


 クリス国王はそう言うと、満足げに頷いた。




「さて、ルディ」

「なー…んですか?」


 クリス国王に話し掛けられたルディは、何時もの調子で「なーに」と言いそうになるのを慌てて修正した。


「これだけの料理を作ったお前に褒美を上げたいのだが……お前はいつも私の褒美を受け取らない。さて、どうしたものやら……」

「陛下、欲しい物あるです」


 ルディが挙手して物申すと、クリス国王は驚いた様子で目を大きく開いた。


「お前が物を欲しがるとは珍しいな。言ってみろ」


 クリス国王はローランド国との戦争の報酬も合わせて、ルディの欲しい物なら何でも上げようと考えていた。


「だったら、カッサンドルフ領営の銀行権と、保険業務を容認して欲しいです」

「……何だそれは?」


 聞きなれない単語にクリス国王が首を傾げた。


「領地経営の金融業です。リン!」

「はい!」


 ルディは本当にざっくり説明してから、背後に控えていたリンを呼ぶ。

 すると、直ぐにアンドロイドのリンが書類をルディに渡した。

 この書類には、ルディが草案した銀行業と保険について、詳しく記載されていた。


「お兄さん、お兄さん」


 公の場で国王に直接物を渡すのは無礼に当たる。ルディは手招きして、クリス国王の側近を呼んだ。


「私か?」


 側近が俺の事かと自分を指さし、ルディが頷く。


「そーです。これを陛下に渡してほしーです」

「分かった」


 側近は植物性の紙を珍しいと思いながら触り、安全を確かめてからクリス国王に渡した。

 資料を受け取ったクリス国王がざっと資料を捲る。

 軽く流し読みして、これは直ぐに返答はできないと気付いた。


「うむ。できれば明日の会議前までに目を通しておく。おそらくバシュー卿の同意もなければ、実現できないと思うから返事は暫く待て」

「はーい」


 ルディもすぐに許可が下りるとは思っていなかったので、クリス国王の返答に頷いた。




「難しい話が終わったみたいだから、私からも良いかしら?」


 クリス国王の話が終わると、アマンダ王妃がルディに向かって話し掛けてきた。


「ルディ。今夜の料理はどれも美味しくて、豪華であり、驚きの連続でした」

「頑張ったです」


 身分が高い相手に言う言葉ではないが、ルディの見た目の幼さからアマンダ王妃は叱らず、逆に微笑ましいと笑みを浮かべた。


「頑張ったのね、ご苦労さまでした。ところで、ルディは誰か好きな人は居るのかしら?」


 予想外の質問に、ルディが目をしばたたかせる。


「別に居ねーです」

「そう。だったら、うちのレイナを娶らない?」

「……は?」


 突然結婚話を持ち掛けられて、ルディだけでなく全員が驚いてアマンダ王妃に視線を向けた。

 アマンダ王妃は、別に料理が気に入っただけで発言したのではない。

 クリス国王から、カッサンドルフが手に入ったのも、ローランド国との戦争に勝ったのも、全てルディが考えた戦略だった事。

 政治、経済に詳しく、クリス国王、ペニート宰相だけでなく、政敵のバシュー公爵ですら、ルディの英知を認めている事。

 以上から、ルディの身分が平民だとしても、レイナ王妃の婚約相手として相応しい相手だと考えた。


「それは良い。確かに身分の差はあるが、これだけの功績を上げたんだ。宰相、そなたもルディを後継者にしたがっていたな。お前の所で養子に迎え入れぬか?」


 アマンダ王妃の発言にクリス国王も同意する。

 そして、楽しそうにペニート宰相に尋ねた。


「それは私も良い案だと思いますが、まずは本人の意見を聞くべきだと思います。それに今は奈落の魔女の弟子である事から、彼女の意見も聞くべきでしょう」


 ペニート宰相の意見を聞いて、ナオミに注目が集まる。

 ナオミは既に結果が分かっていたので、視線を気にすることなく必死に笑いを堪えていた。


「くっくっくっ……ダメ、無理、限界……あっはっはっはっはっ! あーっはっはっはっはっ!」


 ナオミはテーブルをガンガン叩いて大笑いする。

 何が面白いのか分からず全員が首を傾げた。

 そんな中、ルディだけが嫌そうな顔を浮かべて、ナオミをジト目で睨んでいた。




※ 本が販売されて一週間が経ちました。

  そろそろ売上のデータも入ってきて、昨日編集者から話を聞いたのですが……。

  結果から言うと、微妙な売り上げだったそうです。

  編集者曰く、小さな出版社だったら上位に入るけど、カドブだとまあまあなな売り上げだそうです。ハードル高けーな!

  このままの売り上げだと、シリーズ連載として本を出すには数字が足りないと聞いて、ガックリ。


  宣言したとおり、打ち切りになったら、ネットの方も打ち切るかどうか悩み中。まあ、打ち切るだろうな。

  もし、まだ本を購入しておらず、お金に余裕があって、続きが気になる方!

  作家も生活が掛かっています、本を買ってください。

  よろしくお願いします。


以上

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