第367話 支城の制圧

 ルディとナオミ、クリス国王、セシリオ軍務大臣、レインズの5人がソファーに座り、今後の行動について話し合いを始めた。


「まず最初の問題は、外に居る1万の敵だな……。セシリオ卿、其方ならどうする?」

「下手に撃って出たら、こちらも少なからず被害が出るでしょう。防衛に徹するのが無難だと思いますな」


 その返答にクリス国王が頷く。そして、同じ質問をルディにもしてみた。


「ルディはどう思う?」

「僕も同じ意見です。だけど1週間留まっていたら、攻めろ良いと思うです」

「何故?」

「アイツ等、慌てて猫を追い駆けたから、まともに飯を持っていってねーです。補給手段もねーし、多分明日ぐらいに食料が尽きるんじゃねーですかね?」


 それを聞いてセシリオ軍務大臣が呆れ、クリス国王が腹を抱えて大笑した。


「はははははっ! それは本当か?」

「本当だ。私も急いで追い駆けろとは命令したけど、まさか食料も持たずに出て行くとは思わなかった」


 クリス国王の確認に、ナオミが肩を竦めて答えた。

 たとえ周辺の村から食料を奪ったとしても、一万人の食い扶持は確保できない。

 一万の兵力も6日間何も食べなければ、戦う事などできなかった。


「なるほど。そう言う事なら、ルディの言う通りに行動しよう。まあ、向こうの指揮官がまともなら北へ兵を引くだろう」




「そうなると支城に残っている兵士ですが、私は全部潰すべきだと進言します」

「んーー。僕、南側は残しても良いと思っているです」


 セシリオ軍務大臣と意見が少しばかり食い違う。


「ほう? それは何故だ?」


 クリス国王の質問に、セシリオ軍務大臣とルディが顔を見合わせて、どっちが話をするか伺った。


「ルディ殿からお話し下され」

「そーですか? じゃあ僕が話すです」


 セシリオ軍務大臣に促されて、ルディが説明を始めた。


「そもそもです。カッサンドルフはハルビニアの侵攻を食い止めるための要塞です。逆にローランドから守ろうとした場合、そんなに堅牢じゃねーですよ」


 ルディの話にセシリオ軍務大臣が頷いた。


「そうなのか?」

「そーなんです。ハルビニアはピースブリッジ方面からしか攻撃できねーですが、ローランドは北と西の2カ所から攻撃可能です。こちらがカッサンドルフに閉じ籠って防衛したとしても、支城をローランドに制圧されたら、逃げ場がなくなって兵糧攻めされるですよ」

「なるほど……」

「セシリオさんはローランドが攻めてくる前に、今の支城を全部ぶっ壊して、ピースブリッジをぶっ壊す魔道具? よー知らんけど、その装置を無効化するのが先決だと考えている、正解ですか?」

「うむ。その通りだ」

「その意見は僕も同じです。でも、支城を制圧された時点でこちらの負けがほぼ確定してるです」

「確かに言われてみればその通りだな」


 ルディの話にクリス国王が納得する。


「だったら、北は使われない様にぶっ壊して、南は有効活用するです」

「理解した。それなら私もルディ君の意見に賛成しよう」


 ルディの説明にセシリオ軍務大臣が納得していると、話を聞いていたクリス国王が頷いた。


「今の話で私も納得した。支城は南を残そう。それで、その支城に残っている兵士をどうやって追い出すかだが……」


 クリス国王が呟くと、ルディが手を挙げた。


「はいはーい。良い方法があるです」

「うむ。では聞こう」


 クリス国王はカッサンドルフを無血で奪ったルディに対して、全幅の信頼を寄せており、まずは彼の意見を聞こうと耳を傾けた。




 翌日。

 ハルビニア軍は、カッサンドルフの治安維持と防衛に1万6千兵を残して、3千5百の兵が5つの支城の内の最北の支城に向かって進軍を開始した。

 そして、支城を取り囲むと騎士の1人が城門の前に立ち、中の兵士に向かって大声で呼びかけた。


「おーい! 誰か責任者は居るかーー?」

「……今のところ、私が城の責任者だ。何の用だ?」


 騎士の呼びかけに、城門の上から一人の兵士が姿を現して応じてきた。


「薄々気づいているだろうけど、カッサンドルフはハルビニアの物になった。それと、支城の将軍は全員捕虜にしている」

「…………」


 ハルビニアの騎士が状況を説明すると、支城の責任者は何も答えずに話の続きを待った。


「俺たちは国王から城を落としてこいと言われたんだが、ぶちゃけ勝ちが確定しているのに、無駄な死人なんて出したくないと思っているんだが、その考え、そっちはどう思う?」

「……まさか見逃してくれるのか?」

「そのまさかだよ。だって、そちらの国とうちの国って今まで友好だったじゃねえか」

「……まあ、確かにそうだな」

「それがいきなり戦争するから殺してこいって言われても、まだ気持ちが切り替わってねえんだわ」

「…………」

「だからさ。今ならまだ間に合うから、お前等出ていけ」

「……良いのか?」

「良いもなにも、お前等の国って集めれば40万近くの兵士が居るんだろ? たった千人殺したところでそっちの有利は変わんねえよ」

「食料は持って行っても良いか?」

「好きにしな!」

「……分かった。相談するから1時間ほど待ってくれ!」

「おう、十分話し合えや」


 そして1時間後。

 支城の兵士たちは相談した結果、どうせ負けが確定しているのなら逃げた方が良いと決断した。


「おーい、決まった。城を明け渡す。だから危害は加えないでくれ」

「おう! 城門前を開けてやる!」


 ハルビニアの軍が城門前から離れると城門が開き、中からローランドの兵士が続々と姿を現した。


「その……助けてくれて恩に着る」

「まあ、戦ったという口裏だけは合わせておこうぜ」

「……そうだな」


 こうして北へ向かうローランド兵を見送ったハルビニア兵は、空になった城門を閉鎖すると、南へ向かって同じような交渉をして開始した。




 ルディの考えた作戦は、『城を攻めるは下策。心を攻めるは上策。』昔の兵法に基づいた、交渉による明け渡しだった。

 敵に指揮官の将軍が不在。

 ハルビニアの勝ちが確定している。

 まだ大きな戦闘が始まっていない。


 以上の条件であれば、相手も意固地になって戦って来ないだろうと考え相手の心理を突いた。

 その作戦で5つの支城の内の4つの支城を解放。

 残念ながら最後の支城だけは頑なに拒否してきたので、ハルビニアの騎士が「奈落の魔女を呼ぶぞ!」と脅す。すると、直ぐに支城から降参の声が上がった。

 後でそれを聞いたナオミは、腹を抱えて笑った。

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