第243話 衣装会議

 夕食後、ルディはベッドの上に寝転がり、電子頭脳でハルとソラリスと会話をしていた。議題は、王城へ上がるときの衣装について。


『基本的にチュニック上衣に装飾を施して、シュールコー外衣マントル外套は地味にするのが基本のようです』


 今まで監視衛星から撮影した録画データから、ハルが貴族の衣装を分析して報告をした。


『見えないお洒落と言うやつか?』

『生物が自己主張をするのは、求愛行動に関係があります。例えば、女性は化粧を施して姿を美しくします。これは異性に対して好感度を上げるのと、同性に対しての威嚇行動の1つと言えるでしょう』

『今回の場合は?』

『地位の自己主張です。外装を派手にした場合、求愛行動と誤認されて同性から下品と見なされます』

『確かにド派手なおっさんとか見るとドン引きするなぁ。心理的に分析すると、求愛行動に見えるせいなのか……』

『その通りです。最上位の王族の場合なら、求心力を高める目的を兼ねて、派手な衣装でも許されます。ですが、中間層の貴族の場合、派手でも地味でも許されないのでしょう』

『派手過ぎると上から睨まれ、地味だと下から馬鹿にされるという事か?』

『その考えで正解です』

『やれやれ、貴族というのは面倒な地位だな。それで今回はレインズさんの部下という立場になるが、どんな衣装を考えている?』


 ルディの質問に、今度はハルと交代してソラリスが対応した。


『まず、国王は紫、王族は赤、公爵は青と、地位によって服の色が異なります。そして、黒は葬儀、白は祝儀の場合のみとされています。今回ルディが着る服の色はブラウンの予定でございます』

『全部を茶色にするのか?』

『いいえ。シュミーズ肌着は白いワイシャツにします』

『シュミーズってインナーじゃないの?』

『それは現代との認識違いでございます。この星の文化では上着に該当します』

『レインズさんに間違って答えたよ……』

『話を続けます。シュミーズは白のワイシャツと、黒色のネクタイを用意します』

『黒は葬式用と誤認されないか?』

『まだこちらの文明ではネクタイは主流ではございませんので、問題ございません。シュールコーの色がブラウンなので、中央を黒にするとクールな印象になります』

『まあ、春子さんのデータが言うなら、そうなんだろう』

『チュニックは外装と同じ色のブラウンベストにして、白糸でツタの刺繍を施します』

『見えないお洒落だし、派手じゃないから、それで良いよ』

『シュールコーの裾の長さは膝丈まで長くして、下も色を揃えるのが主流なのでそれに合わせます。マントルは作成時間に余裕がないので、購入予定でございます』

『マントはサイズが合わなくても問題ないからな。それで良いよ』




『マスター、ソラリス。今の内容からイメージ画像を作成しました。確認してください』


 ソラリスの説明を聞いていたハルが、ルディをモデルにしたイメージ画像を作成して2人に転送した。

 送られた画像を見て眉をルディがひそめる。

『シュールコーの前が開きっぱなしだけど、ボタンで閉めないのか?』

『ボタンは実用では使われず、装飾品の扱いのようです』

『変なの。まあ、いいや。俺じゃ良し悪しが分からん。師匠のスマートフォンに送って確認してくれ』

『イエス、マスター』


 ルディの命令で、ハルがナオミのスマートフォンに画像を転送する。

 すると、隣の部屋からニーナのはしゃぎ声が聞こえた。


『……見られたな』

『タイミングが悪うございました。ニーナ様がナオミのスマートフォンの画像を見て絶賛しております』

『それは画像に対してか? それとも衣装に対してか?』

『両方でございます』


 ニーナと同室のソラリスから報告が入り、しばらくすると扉をノックしてニーナが部屋に入ってきた。

 突然入ってきたニーナに息子の3人が驚くが、ニーナは無視してルディに話し掛けて来た。


「ルディ君!」

「ニーナさん、どーしたですか?」


 ベッドの上でごろんとしていたルディが起き上がって対応する。


「あの衣装、すごく良いわ。だけど、シュールコーが少し地味過ぎるわよ。袖にボタンを付けてみたら? それと最近は胸にポケットを付けるのが流行りなの!」

「そーなんですか?」

「ええ、そのポケットにナプキンを入れるの。それが最近のおしゃれよ」

「さすが詳しいですね」

「あとね、あとね……ルディ君、髪の毛が銀色でしょ。それだとネクタイを黒にしたら、色が3色になって少し派手目になるわ。だから、ネクタイはブラウンにした方が良いわ!」

「髪の色は意識してねーでした。そーですね……髪の色、目立つから黒にした方が良いですか?」

「……そんな事出来るの?」

「ししょーなら出来るちゃうですか?」

「確かに出来そうね。そうねぇ……目立ちたくないという理由があるなら、髪の毛を黒にして、ネクタイも黒なら問題ないわ」

「じゃーそうします」


 ルディが頷くと、ニーナは満足して部屋から出て行った。


「……ルディ、スマン。母さんはおしゃれの話になると時々、ああやって暴走するんだ」


 ドミニクがルディに謝ると、それを聞いていたションとフランツが苦笑いを浮かべた。


「いつまでも美しくありたい心持つ。良い事だと思うです」


 ルディが肩を竦める。

 ハルの解釈では、女性の自己主張は異性に対する求愛行動らしい。

 つまり、ニーナは結婚しているカールを今も愛しているのだろう。

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