第215話 貴族の飯

 ルディとレインズは日程の調整をした後、レインズから夕食に誘われた。

 ルディは貴族の食事とやらに興味があった。だが、ナオミは頭を横に振って彼の誘いを断った。

 もしレインズ以外の貴族ならブチ切れ案件だが、彼は肩を竦めるだけに留まる器量の持ち主だった。


「ししょーは贅沢な食事、食べたくねーですか?」


 ルディが質問すると、ナオミがルディを見返して口を開いた。


「贅沢な食事が必ずしも美味いとは限らない。私はお前の作った料理を食べて、今までの料理は全て家畜の餌だと知ったよ」


 そう言って、ナオミが悲し気に笑うと、レインズとルイジアナが何度も頷いた。


「あーその…ルディ君。1つ頼みがあるんだが……」


 レインズがこめかみを掻いて、良い辛そうに話し掛ける。


「そー言えば、今回の件でレインズさんへの報酬忘れていたです。まあ、僕が払う義理全くねーですが、話だけ聞いてやるです」

「ルディ君が料理に使った調味料。あれを少しだけでも良いから分けてくれないか?」


 ルディの言い分が面白くて笑うナオミを、レインズが恨みがましく睨み要件を言うと、ルディが目をしばたたかせた。

 レインズも一応は貴族なので、庶民よりかは少しだけ豪華な料理を食べている。だが、その料理はこの星の文明レベル。肉は固くて臭く、内地なので海産物もない。味付けは塩分量が多くて辛かった。


「そんな物で良いですか? 凄い武器とか、金とか、もっと欲望丸出しの物、請求して良いですよ」

「そういう物は自分の力で手に入れる。だけど、ルディ君と一緒に旅をしたときに食べた料理が恋しくて、今も思い出すだけで口の中に涎が出る。街の人間に調味料を聞いても、名前どころか存在すら知らないらしい」


 レインズの話に、ナオミとルイジアナは、一度でもルディの料理を食べてしまったが故の苦労を分かって、苦笑いを浮かべた。


「その程度で良いなら、後でソラリス経由で渡してやるです」

「すまない。これで少しだけでも料理が美味くなる」


 礼を言うレインズの顔はとても嬉しそうだった。




 領主館を出たルディたちは、そのまま領都を抜けて輸送機に乗り込んだ。

 ちなみに、ゴブリン一郎は領都に居る間、大勢の人間からの露骨な視線を浴びてうんざりしており、街から出た途端はしゃいでいた。


「ところで、カールに何も言わなくて良いのか?」

「……すっかり忘れていたです」


 ナオミから言われて、ルディは当の本人を無視していたなと思い出す。


「さすがに、それは酷い……」


 ルディの発言に、ルイジアナの顔が引き攣った。


「仕方ないな。私から話をしておくよ」

「ししょー頼んだです」


 ルディはそう言うと、輸送機を動かすためにコックピットへ向かった。


「ルディ君って、発想は凄いですけど、たまにボケますね」


 ルイジアナがナオミに話し掛けると、彼女はクスリと笑って肩を竦める。


「まあな。時々そのボケが凄い事になるけど、案外そこが気に入っている」


 それは似た者同士だからじゃないのか? ルイジアナはそう思ったけど、口に出すのは控えた。


「では、私はカールと話をするとしよう」


 ナオミがスマートフォンを取り出して、カールに電話を掛ける。

 彼女は向こうが電話に出るまでの間、カールがどんな反応をするのかを想像して笑いを堪えていた。




『……はぁ⁉』


 電話先のカールにナオミが計画を説明すると、彼から驚くような声が返って来た。


『いや、チョット待ってくれ。俺はまだお前に目的を話してなかったよな?』

「確かに聞いてないな」

『だったら何で知っている』

「全部予想だ。当たっていただろ?」

『……忘れてたぜ。俺の兄貴は時々頭がおかしいけど、お前は常におかしかったな』

「失礼な」


 カールの冗談にナオミがムッとする。


『だけど、そっちには、新しい領主の説得に協力してもらおうと思っていたけど、手間が省けたのは助かった。それならこっちは直接王都へ向かう』

「分かった」

『それと、途中でフロートリアの近くを通るけど、誰かに言付けがあれば寄るぞ』


 今は国ではなく地名になった故郷の名前に、ナオミの顔から表情が消えた。


「……いや、特にない」

『分かった。じゃあ何かあったら連絡するから、助けてくれ』

「そっちは5人も居るんだ、自分たちで何とかしろ」


 お互いに冗談を言い合って電話を切る。

 電話の途中でナオミの様子が変わり、ルイジアナは心配するが、声を掛ける雰囲気ではなかった。




 魔の森を低空飛行して輸送機がナオミの家の前に降りると、ルディは気持ちが緩んだのかどっと疲れが襲ってきた。

 ハッチから降りて背伸びをしていると、後ろからゴブリン一郎が降りてきて、ルディの横に立ち一緒に背伸びを始めた。


「まるで兄弟だな」


 ナオミは2人の様子に笑みを浮かべ、ルディに話し掛ける。


「僕、そんなに酷でぇツラですか?」


 ゴブリン一郎が言葉を理解していないと知って、酷い事を言う。


「容姿じゃない。雰囲気が似ている」

「そーですか。自分じゃ分からんです。ああ、そうだ。ルイちゃん、渡す物あるから、とっとと家に入りやがれです」

「渡す物?」

「見れば分かるです」


 ルイジアナが首を傾げていると、ルディは先に家の中へと入った。




「これは……⁉」


 ルディからスマートフォンを見せられて、ルイジアナが驚く。


「前に言ったですよね。言ったよ? ルイちゃんにもスマートフォンあげるです。と言う事で、ハイ、チーズ」

「キャッ⁉」


 いきなりスマートフォンからフラッシュが放たれ、ルイジアナがギューッと目を瞑った。


「変顔は面白いけど、さすがにこれは酷いツラですね」


 ルディはスマートフォンに映ったルイジアナの顔を見て、元が美人なだけになおさら酷いと思った。


「ちょっ、ちょっと待ってください。何となく今、何をしたのか分かりました。もう一度、もう一度だけ、チャンスを下さい」


 ルイジアナの懇願に、この光景を見るのが2度目のナオミが爆笑。

 ルディはやり直すつもりだったのを隠して、仕方がないなと、ルイジアナの顔認証写真をもう一度撮った。

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