第216話 マソの怪物の正体
「フォレストバードのお肉、美味かったですけど、食べると悲しい気持ちになりやがるです」
ルディの話にナオミが大きく頷く。
ルイジアナは子供の頃によく食べていたので、人間が食べたらそんなものかなと思っていた。
「と言う事で、今夜の晩御飯は楽しくなる鳥料理を作るです」
「イイね」
「楽しくなる鳥料理ですか?」
ナオミは素直に賛成したが、ルイジアナはルディの言っている事が分からず首を傾げた。
「仕事の後とか友達とお喋りしながら、焼きたてをガブッと噛んで、お酒と一緒に食べる料理です」
「それは確かに楽しそうな料理ですね」
ルディの説明に、ルイジアナもそれは確かに楽しいかもと思う。
旅の間、あまり酒が飲めなかったナオミが笑みを浮かべた。
「お酒が一緒というのが最高だな」
「ではでは、すぐに作っちまうから、1時間ほど待ちやがれです」
ルディがルンルン気分でキッチンに向かった。
料理が出来るまでの間、ナオミは自室に入って、スマートフォンでハルに電話を掛けていた。
話の内容は今回の旅で戦ったマソの怪物について。彼女はまたあの怪物が現れないか危惧していた。
『死骸を調査した結果、あの怪物は800年前に死亡しています』
「800年前に死んでいる? では、襲ってきたあれは何だ?」
『マソウィルスに支配された死骸です』
「それはルディが言っていたゾンビという存在か?」
ナオミの質問をハルが計算する。そして、一番高い可能性を導き出した。
『……それに近い存在です。ここからは私の憶測ですが、あの生物は元々マナウィルスの吸収力が高い、蜘蛛型の原生生物だったと思われます』
「そう言えば、体内のマナ保有量が多い巨大な昆虫がいるとか、誰かが本に書いていたな」
『それについては証拠不十分なので回答不能』
「すまん。ただの独り言だ。続けてくれ」
『了解。原生生物が死んだ後も、長年放置された死骸にマナウィルスが付着し続けていたのでしょう』
「……ふむ。それなら何故、マナがマソに変わって、他の生物を襲ったんだ?」
『これも憶測になりますが、あの生物はマナをマソに変える様に改造された可能性があります』
「改造だって? 一体誰に?」
『おそらくエルフでしょう』
「……どういう事だ?」
『800年前のエルフは、あの原生生物を使役して、エルフの道を作成したと想定』
それ聞いた途端、ナオミの中で答えが結びついた。
「なるほど。どれだけの距離があるのか知らないが、確かに人力だけで森に道を作るのは大変だな」
『調査した結果、エルフの道の全長は約500kmあります。800年前のエルフは、原生生物を改造してエルフの道を作成。役目を終えた原生生物を殺害して死骸を放置したのでしょう。原生生物が死んでも、体内のマソウィルスはマナウィルスを吸収し続けて集合体と変わり、やがて自ら食料を探す目的で動けるようになったと思われます』
「何故マソに変える必要があった?」
『マソウィルスはマナウィルスと比較して、魔力への変換率が高かった。そして、マナを吸収する力で道上の邪魔な木々を枯らしていた。目的はそれでしょう。ただし、元々毒性のあるマナウィルスよりもさらに毒性が高いマソウィルスは人間にとって有毒です。マスターが焼却処分したのは正解でした」
「それについては私も同意見だ。結局、エルフの奴隷となった原生生物の死骸が800年経った今になって、エルフたちを襲ったというわけか……皮肉な話だ」
死んだ原生生物に意志などなかっただろう。
それでもナオミは、今回の事件は原生生物の呪いだと思った。
『あくまでも現状の証拠から出した計算なので、正解率は24%です』
「いや、あれだけの証拠しか無かったんだ。それでも十分に高いよ。問題は、他にも改造された原生生物の死骸があるかどうかだな。治療薬を作ったとしても、またあんなのが出たら面倒だぞ」
『善悪関係なく、人間は使える技術があれば使用します。あの1体だけで道路を作ったとは思えません。どの様な処分をしたかは不明ですが、おそらく他にも存在している可能性は高いです』
「一体、どんな改造をしたんだか……」
『魔法ではないのでは?』
その質問にナオミが目をしばたたいた。
「そんな魔法は聞いた事ない。もしあるとしたら、エルフが秘伝にしている魔法ぐらいだが……あーそう言えば、今回の報酬にエルフの魔法を教えてもらうというのがあったな」
その事をすっかり忘れていたナオミは、後でルイジアナに聞こうと思った。
「私はてっきり、宇宙の技術で改造したと思ったけど、そういうのはないのか?」
『実在します』
「あるのか……」
あると聞いてナオミの顔が引き攣った。
『現在、銀河帝国と敵対しているデスグローは、ゴブリンの脳神経に命令チップを埋め込み、意志を奪って戦闘兵として使用しています。銀河帝国も彼らの技術を入手していますが、人権を奪う行為だとして、例え本人の意志があっても法律で禁止されています』
「なるほど。だけどあれだ。魔法にしろ宇宙の技術にしろ、アガラの反応を見る限り、長生きのエルフでも改造の方法は忘れているらしい。後は原生生物の死骸の確認だけだ。時間は掛かると思うが、そっちで調べられるか?」
『分かりました。4体の調査用ドローンを、雪の大森林へ送って調査します』
「うむ……頼んだぞ」
ハルとの会話を終えたナオミは、疲れて椅子に腰を沈める。すると、下からルディの声が聞こえてきた。
「飯、出来やがったです。全員しゅーごー!」
その声にナオミの顔から笑みが零れる。
「さて、楽しい料理と美味い酒でも飲むとするか!」
イスから立ち上がったナオミは、鼻歌を歌いならリビングへ向かった。
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