第145話 青空裁判

 前領主ルドルフの裁判は傍聴希望者が多かったため、領都の広場で青空裁判という形で午前中から行われた。


 ルディとナオミは別に前の領主が死刑されようがどうでも良かったが、一応今回の事件の関係者だったので、ナオミの自宅でふかふかのソファーに座り、投射スクリーンで裁判の様子をのんびり見学する事にした。

 ちなみに、画像と音声は、レインズの側近として側に控えるソラリスの目と耳から送られたデータを投射スクリーンにリンクさせた。


「さて、そろそろ始まるかな」


 投射スクリーンを見ていたナオミが、ソファーの上でだらしなく横になり、ルディが宇宙から持ってきたポテトチップ(のり塩)を食べる。

 その様子を別のソファーに座っていたルディが横眼でチラリと見て肩を竦めた。


「その菓子、結構カロリーたけーですよ」

「3日前に頑張ったご褒美だ。気にしない、気にしない」


 暗に太るぞと言うルディを気にせず、ナオミが「美味い、美味い」と皿に盛ったポテトチップを口にした。


(確かに師匠は頑張ったから、今日はまあ良いか)


 ルディもあまり厳しくする事はないだろうと、ナオミの事は気にせず始まった裁判の様子を見ることにした。




 最初に裁判席に立ったのは、ルドルフに雇用された兵隊長だった。

 ちなみに、彼は兵士は数が多いので代表として裁判席に立っており、他の兵士たちは監獄の牢屋に入って結果を待っている。


 兵士たちの半数は領都に居たが、他にも領主の直営地で小作人の監視、他にも領都から離れた村の見回りなど、領都から離れた兵士も多かった。

 そこでハクが領都に遅れて来たルイジアナ、他にも領都の屈強な男、ルドルフと性格が合わず辞めた元兵士を雇用して、直営地の兵士を全員ひっ捕らえに向かった。

 当然、直営地の兵士たちは抵抗しようとしたが、もし抵抗するなら3日前にローランドの兵士が全滅した魔法を奈落の魔女がするぞ! とハクが脅すと、彼らは悩んだ末に死んではたまらないと降伏した。

 ちなみに、ハクの脅し文句はソラリスのアイデア。彼は奈落の魔女を恐れて最初は否定したが、一番損害が少ないと彼女に説得されてしぶしぶ実行した。


 ソファーで寛いでポテチを食べるナオミの株が、また彼女の知らぬところで上がっている事を彼女は知らない。


 そして、地方へ行っている兵士たちだが、実は彼らの評判はそんなに悪くなかった。何故なら、彼らはルドルフや彼の側近から嫌われて、地方に飛ばされた兵士たちだったから。

 もちろん多少は横暴な兵士も居たが、兵士たちの大半は村の安全を守るために働いており、レインズは彼らの今までの功績を調査したのち、昇給か昇進をするつもりだった。


 話を戻して兵士たちの裁判だが、特に個別の陳情がない限り3年間の労役の刑になり、彼らは低賃金で薪の生産、治水工事、農地の開墾、賃金に見合わない重労働をさせられる事になった。

 さらに、今後一年間は兵士だった頃に行った、略奪、賄賂、暴力など、被害にあった領民からの訴えを改めて聞き、もしそれが真実だった場合は個別に追加で刑罰を与えると言い渡された。




 次にルドルフに近づき甘い汁を吸っていた、デッドフォレスト領の有力者たちの裁判が行われた。

 彼らの大半は商人で、ルドルフに賄賂を贈り様々な権利を得ていた。

 例えば、税金を滞納していた領民を売る奴隷商人は当然ながら、領地で取れた作物の売買を一括で管理する商業ギルドは、税額を誤魔化して多くの税金を搾り取り、他にも独占販売して商品の値段を吊り上げたりと、領民から多くの金を絞りとっていた。


 彼らは官僚ではなく民間人だったが、それでも許される事ではないと、レインズは彼らに対して財産を没収しての罰金刑という重い判決を下した。

 もちろん、財産を没収されてからの罰金刑なので、彼らは無一文。払えなければ兵士と同じく労役刑。だけど、彼らの場合、賃金は普通に支払われるので、やはり3年ぐらいで釈放される予定だった。




 その判決を聞いていた領民たちからざわめきが起こる。

 何故なら、彼らは兵士や有力者たちだけでなく、その家族も死刑になると思っていた。だが、レインズの下した判定はただの労役刑。

 今まで被害者だった領民たちは、レインズの判決を甘いと感じた。


 その様子を見ていたソラリスが、レインズにこっそりと耳打ちをすると、彼女の話を聞き終えたレインズが頷いて再び壇上に立ち、ざわめく領民に向かって口を開いた。


「この判決に不満を漏らす皆の気持ちは分かっている。しかし、どんな人間にも善の心はある。だから私は彼らに懺悔する時間を与えた。だが、もし彼らが労役から逃げ出そうとしたならば、その時は容赦なく処刑する。それとな……」


 レインズは話を一旦止めて、領民に向かってイイ笑顔を浮かべた。


「没収した財産は全てこの領地の運営に宛がう。だから、暫くお前たちは楽が出来るぞ!」


 その話に領民たちもイイ笑顔を浮かべると、一斉に歓声が上がった。




「ソラリスがアドバイスしたですね。なかなか良い判決です」

「そうか? 私は甘いと思うぞ」


 投射スクリーンで様子を見ていたルディが微笑して頷く傍ら、ナオミはどこか不服そうな様子だった。


「革命後に政権が交代すると、基本的に懲罰政府になる傾向です」

「懲罰政府?」


 政治にあまり興味のないナオミの質問に、ルディが話を続ける。


「今までの汚職犯を処刑することで革命の成功を完成させ、今まで苦しめられていた大衆のストレスを発散させるのです。だけど、それは恐怖政治に繋がるから危険を含むのですよ」

「ふむ……よく分からん」

「たしかにこの星の文化レベルだと恐怖政治が許されるですから、理解するの難しいかも知れねーです。悪い事をしたら直ぐに処刑、確かに楽な治安対策です。だけど、それでは領民は幸せを感じる事できねーです」


 ルディの話にナオミは自分なりに考えてから頷いた。


「確かにそうかもな」

「レインズさんは甘いと言う批判を受けてでも、領民全員の幸せを望んだんだと思うです」


 ルディはそう言うと、ナオミは投射スクリーンに映るレインズに視線を向けた。


「思ったよりも心の強い男だったんだな」


 ナオミの評価にルディも頷いたところで、ようやくルドルフと側近の裁判が始まった。

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