第138話 革命の大行進

 ルディがキッカの救出に向かっていると、彼の電子頭脳にナオミから電話が入ってきた。

 どうやら彼女はルディが来ないことを心配して、スマートフォンで連絡してきたらしい。


『ししょー、そっちはどーですか?』

『駄目だな。帰れと言っても誰も帰らん。むしろ集まってきている。何故だ? 私のカリスマが足りんのか?』


 その返答を聞いたルディは、そいつは逆で相当暴れたんだなと思った。


『それよりも、ルディ。来ると言ってたのに来ないじゃないか』

『ししょー暴れてる時は近寄れねーです。だから先にマイケルさんの救出に向かっているのです』


 やや拗ねたような口調でナオミが文句を言ってきたから、ルディが現状を説明する。


『応援は必要か?』

『んーいらねえです。もう面倒だから、ししょーはこのまま領主館に行きやがれです。僕もこっち終わったら向かうです』

『分かった。じゃあ頑張れよ』


 ナオミとの電話を終えたタイミングで、丁度2階の管理室まで移動したルディは、マイケルの合図と同時に部屋へ突入。中に居た兵士をぶん殴って鍵を奪うと、2階の牢屋の鍵を開け始めた。




 2階の牢屋は女性と子供が捕らえられており、彼女たちを救出するべくマイケルと手分けして2階の牢屋を開けていると、牢屋に入っていたキッカが話し掛けてきた。


「坊や、無事だったかい!」

「それはこっちのセリフです。何もされなかったですか?」

「いやだね。こんなおばさんが何かされるわけないじゃないさ」


 キッカはそう言いつつも、美少年のルディに心配されてまんざらでもなかったのかウィンクを返した。

 牢屋の鍵を開けて彼女を解放すると、3階の方から怒鳴り声と暴れる物音がしてきた。


「どうやらナッシュさんたちが、暴れ始めたです」

「なあ、掴まってから状況が分からないんだけど、一体どうなってるのさ」

「それは俺も聞きたい。一体何がどうなってるのか、簡単で良いから説明してくれ」


 キッカが尋ねると、鍵を開け終えたマイケルも状況が分からず質問してきた。


「マイケルさんたちが捕まってから、民衆が広場に集まって暴動寸前だったです」

「それは本当かい!」

「マジかよ!」


 ルディの話に2人が驚くが、今は時間がないので続きを話す。


「今はししょーが暴動抑えてるですが、みんな帰らねえから諦めて、これから領主をぶっ飛ばしに行く予定です」

「「…………」」


 状況に理解が追い付かない2人が口をあんぐりと開けて、ルディの話を聞く。


「僕はマイケルさんたち捕まった聞いて助けに来たです。ナッシュさん3階に居たから騒ぎ起こさせて、このままなし崩し的な感じで外に出る、そんな感じで行こうと思っているのです」


 もちろんこれはその場の思い付き。

 だけどルディの考えを聞いた2人は、この考えに賛成だと頷いた。


「どうせ捕まってるんだから今更よ。このまま暴れて外に出るしかないね」

「そうだな。こうなったら俺たちが勝つか領主が勝つか、今晩が勝負だ」


 こうして3階ではナッシュが、2階ではキッカが女性たちを誘導して、監獄を脱出するべく大群となって行進が始まった。




 監獄の入口には8人ほどの兵士が居たが、怒りに満ちた大衆の前ではなすすべなく慌てて逃げだし、誰も居なくなった監獄の入口が開けられて、掴まっていた多くの領民が解放された。

 彼らは久しぶりに吸った外の空気に歓喜し、牢獄の中で分かれていた家族と再会して抱き合って泣いていた。


「坊主、上手く行ったな!」


 ルディが解放された彼らを見ていると、ナッシュとフレオがやってきて、ルディの肩を叩いて喜びを分かち合った。


「ししょーが広場で暴れてたから、こっちの兵士少なかったです」

「坊主の師匠と言えば、奈落の魔女様か」

「そーです。ししょー、今領主の館に向かってるから、僕も行ってくるです」

「だったら、私たちも行くよ」


 ナッシュと話していたら、旦那のフレオと抱擁していたキッカが話に割り込んできた。


「別に構わねーですけど、危険かもしれねーですよ」

「そんなの承知だよ。だけどデッドフォレスト領が変わる様をこの目で見届けたいのさ」


 そのキッカの言葉に、マイケル、ナッシュ、フレオが頷き、解放された領民たちも一緒に行きたいという声が上がり、結局全員で領主の館へ向かう事になった。




 ルディたちが領主館へ向かっていると、同じく館に向かっている最中のナオミを見つけた。

 彼女はのんびりと歩いているのだが、その100mほど後ろでは広場に居た領民たちが彼女を恐れて近寄らず、かといって彼女のする事を見届けようと、ぞろぞろと彼女の後を付いていた。


「ししょー」

「おー、ルディー」


 ルディがぶんぶん手を振って走り寄ると、ナオミもそれに応えて手を振り返す。


「ししょー。いっぱい引き連れて来やがったですね」


 ルディがナオミの後ろから付いてくる領民たちを振り向いて話し掛けると、彼女は肩を竦めて苦笑いを浮かべた。


「来るなと言っても来るんだから仕方がない。それよりもレインズの友人たちは救ったのか?」

「もちろんです」


 そう言ってルディがマイケルたちを見れば、彼らはナオミに怖気付いて遠慮がちに頭を下げた。


「そうか、じゃあ行こうか」

「了解です」


 ナオミとルディはピクニックに行くかの様にのんびりと領主館に向かう。

 その2人の後ろではマイケルたちを先頭に、多くの領民が革命の声を高々と叫ぶ大行進が続いていた。

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