第133話 領主として騎士として
動かなくなったルディの様子に、何時もの事かとナオミが待っていると、ハルとの通信を終えた彼が話し掛けてきた。
「ししょー、マズイことになったみたいです」
「何かあったのか?」
少しだけ焦っている様子のルディに、ナオミが目をしばたたく。
「領都の方でレインズさんの友達、全員捕まったです」
そう言うと、ルディはハルから聞いた内容をナオミに伝えた。
「向こうもただ黙っているわけじゃないと言う事か……」
「最後、何でバレたか分からねーです」
ルディは侵入した時に見つかった理由が分からず、もし自分が発見されなかったら、マイケルたちも無事だっただろうと落ち込んでいた。
「それでどうするつもりだ?」
ナオミの質問にルディが腕を組んで悩む。
「んー別に見殺しても構わねーんですが、人口増加プロジェクトにレインズさんの印象良くしたい気持ちあるです」
「まあ、助けた方が印象は良くなるのは確かだな」
ナオミが同意して頷くが、ルディはそれに気づかず決断した。
「ししょー、僕、マイケルさんたちを助けに行くです」
ルディが真正面からナオミを見上げて宣言する。
「……お前は本当に人が良いな」
人権などない弱肉強食の世界で、ルディの行動は称賛に値すると思う。
彼女はルディが自分を助けた時を思い出して笑みを浮かべた。
「自分に利益があるときだけですよ」
お人よしと言われて心外だったのかルディが両肩を竦めた。
「分かった。でも、私も一緒に行くぞ」
「ししょーは助ける義理ないですよ?」
ナオミの発言にルディが目を大きく開いた。
「歩いて領都に行くのが面倒くさい」
「そんな理由ですか?」
「そんなものさ」
ナオミの至極単純な理由にルディが呆れて、彼女はにっこり笑って肩を竦めた。
その後、今から出れば夕方には到着するだろうと、ルディとナオミはテントに伝言メモを残し、こっそりと村を出て輸送機に乗り込んだ。
ルディたちが村を発って1時間後、ルイジアナが2人を呼びに行けど不在で、テントの中に残されたメモを見つけた。
「マイケルたちが⁉」
ナオミが残したメモには、領都でマイケルたちが囚われた事、彼らを救出に向かう事、そして、レインズたちは明日の朝になったら領都へ向かえと書いてあった。
「レインズ様、どうしますか?」
ルイジアナの質問にレインズが顔を歪める。
「もちろん今すぐ向かう!」
「駄目じゃ!」
そうレインズが言うと、すぐにハクが彼を止めた。
「何故だ!」
「気づかぬのか? これはレインズ様を誘う罠だぞ」
「……もちろん気付いている」
ハクとレインズは、領主に捕まった人間がレインズの旧友に絞られているのは偶然ではないと気付いていた。
「兄貴は俺の存在に気づいたのだろう」
レインズが呟くと、黙っていたタイラーが頷いた。
「おそらくな。だけど、お前の兄貴は、お前がどこに潜伏しているか掴んじゃいねえ」
「……かもしれん」
「多分、アイツらは拷問されるけど生かされると思う。そして、お前をおびき寄せる罠に使われる」
タイラーの考えに、あの男ならやりそうだとレインズが舌打ちをした。
「だったら、ここは奈落の魔女に任せるのが一番だ。お前はメモの通り明日の朝、ゆっくりと護衛と一緒にこの村を出発すれば良い」
そのタイラーの提案にハクとルイジアナも頷く。しかし、レインズは納得しなかった。
「……駄目だ、やっぱり俺は行く」
「何故ですか?」
レインズの決断にルイジアナが質問すると、彼は今まで隠していた本音を口にした。
「確かに俺は奈落の魔女に兄殺しを依頼した。だけど、依頼した後でずっと悩んでいたんだ。デッドフォレスト領は国王からガーバレスト家が預かった領土だ。それなのに、この土地と関係ない人間に全てを任せて良いのかと」
「…………」
「これから領主になる人間が自らの手で領土を手に入れず、他人から譲ってもらうのはガーバレスト家の恥だ。俺はそう思う」
レインズの考えは領主としての考えではなく、今までの人生を騎士として生きてきた、騎士道精神の考えだった。
「だから俺はこれから奈落の魔女を追いかける。そして、兄を殺すのは俺の手でやると言うつもりだ」
そうレインズが宣言するとタイラーは呆れ、ハクは主の赴くままにと身支度を始め、彼女もその後に続いた。
「全く、馬鹿な領主だ」
タイラーに鼻で笑われて、レインズがニヤリと笑った。
「昔と変わらねえだろ」
レインズの言い返しにタイラーが目をしばたたかせて、彼と同じくニヤリと笑った。
「本当だぜ」
輸送機に乗り込んだルディとナオミは夕刻に領都の上空まで近づくと、マイケルたちが捕まっている場所を確認していた。
「ししょーは領都、詳しいですか?」
「いや、知らん」
「んー捕まっている連中、砦っぽい所に居るらしいです」
ルディはそう言うと、輸送機のモニターを操作して街はずれの監獄を表示した。
「こいつはなかなか丈夫そうな牢獄だな」
モニターの監獄を見てナオミが顎を摩った。
「多分、あそこの中、税金払えねー領民もぶち込まれてるですよ」
「そうか……だったら全壊するのは止めた方が良いな」
「見たかったけど、残念です」
ナオミの考えはどうかと思うが、ルディの返答も常識人から外れていた。
「ところでルディ。街の中央が騒がしいみたいだが、祭りか何かかな?」
ナオミがモニターから目を離し直接領都を見れば、領都の中央広場で多くの領民が集まっていた。
「祭りですか?」
この状況でお祭り? ルディもナオミの見ている方を見て首を傾げる。
その領都では、街の主婦たちが中心となって革命が起きようとしていた。
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