第131話 ナオミとミリー

「それでルディ。証拠は手に入れたんだな」


 ナオミの確認にルディが頷き返す。


「最初に話した通り証拠バッチリです。もし僕が王様だったら、あんにゃろう、八つ裂きの刑にしてやるです」


 税金が絡むと若干理性が外れるルディが拳をぎゅっと握った。


「それは私がしてやろう」

「ワクワクが止まらねーです」


 ナオミの返答にルディが嬉しそうに笑う。

 そして、2人は席を立つと家を出て、待機していた輸送機に乗り込んだ。




 ナオミの家を出た輸送機がタイラーの村から5Kmほど離れた草原に着陸する。


「ししょー到着したです」

「草原を歩くのも久しぶりだな」

「そーなんですか? 今の季節暑いから水分補給は大事よ」

「熱中症だな。もちろん分かってるさ」


 そう言ってナオミが笑みを浮かべる。


「一々説明する必要ねーから、ししょーとの会話楽しいです」

「はははっ、私もだ」


 2人が降りると輸送機が光学迷彩を起動して姿を隠した。


「急ぐ必要ねーから、ゆっくり行こうです」

「そうだな。良い運動になる」


 現在もナオミはダイエット実行中。

 こうして2人は輸送機を降りた後、のんびりした様子でタイラーの村へと歩き始だした。




 昼を過ぎた頃、タイラーの村に到着したルディとナオミは、レインズたちと再会した。


「ルディ君‼ それに…な、奈落様‼」


 ルディの後から家に入ってきたナオミの姿に、レインズだけでなく控えていたハクとルイジアナ、それと、彼女とは初めてのタイラーも名前を聞いて驚いた。


「奈落様って…レインズ、もしかしてこの方が⁉」

「ああ、奈落の魔女様だ」

「…………」


 タイラーの質問にレインズが答えると、彼はナオミの容姿にゴクリと唾を飲んだ。


「レインズ、ルディが色々と迷惑を掛けたな」

「いえ、彼のおかげで何度も助かりました。お礼を言います」


 ナオミの言葉にレインズが席を立って頭を下げれば、同時にハクとルイジアナも立ち上がって彼女に頭を下げた。

 1人頭を下げなかったタイラーは、恐怖の存在とも言える奈落の魔女が目の前に居ることが信じられず、醜い容姿という噂が嘘で絶世の美女とも言える彼女の容姿に茫然としていた。


 ハクとルイジアナが席を外し、代わりにルディとナオミが席に座る。

 そして、ルディが鞄から盗んだ証拠をテーブルに広げた。


「レインズさん。証拠持ってきてやったです」


 ルディはそう言うと証拠の品々を見せて、領主の脱税および奴隷売買についての全てを話した。




「……これほど酷いとは…クソ兄貴!」


 ルディの話を聞いたレインズが、怒りのあまり拳をテーブルに叩きつける。その勢いで上に乗っていたコップが倒れ落ちた。


「レインズ、証拠は手に入った。今ならまだ間に合うぞ」


 彼の様子を黙って見ていたナオミが口を開く。

 ナオミは例え直接手を出さなくても、自分が手を出せばレインズは兄殺しの汚名を着せられると警告していた。


「……構わない。今は一刻も早く兄を殺して、無実の領民を救うのが先決だ」

「分かった。ガーバレスト領主先代との盟約を決行しよう」


 ナオミは厳かに宣言すると、彼女の体からマナが溢れて家を包み込む。

 豹変したナオミに、マナを感じないルディ以外の全員が畏怖して息を飲んだ。

ちなみに、ナオミが豹変したのは別に威嚇したわけでも気合を入れたわけでもなく、ただの悪戯。昔から彼女はそうやって、相手が驚くのを楽しむ癖がある。




 その後、タイラーがナオミのために家を提供すると言うが、彼女はルディの持ってきたテントに泊まるから不要と断りを入れる。

 そして、話が終わって息抜きにルディが外に出ると、彼が戻ってきたと聞いたミリーが、母親のマリナから抜け出して駆け寄ってきた。


「ルーくん!」


 ルディがしゃがんでミリーを抱き上げると、彼女の後を追ってきたマリナがおろおろとしていた。


「ミリーはいつも元気ですね」

「うん!」


 ルディが話し掛けるとミリーが元気よく頷いたが、ルディの横で面白そうに自分を見ているナオミに気づいて、大きな目をしばたたかせた。


「……誰?」


 ミリーがそう言ってぎゅっとルディに抱きついた。


「私はそうだな……ルディの保護者かな?」

「保護者?」


 ナオミの返答にミリーが首を傾げる。


「母親? にしては年齢が微妙だから、お姉さん辺りにしとくか?」

「だったらししょー、僕がお兄さんですか?」


 ナオミの話にルディが冗談を口にすると、彼女が笑みを浮かべた。

 実際にルディの方がずっと年上だから真実なのだが、2人以外には理解できず、ミリーが首を傾げていた。


「お前がミリーだな。ルディと仲良くしてくれてありがとう」


 ナオミもルディからミリーの事は聞いており、彼女がミリーの頭を撫でると、ミリーはナオミが害のない人間だと判断して素直に撫でられた。




 もっと一緒に居たがるミリーをタイラーが連れて帰り、ルディはハクと一緒にナオミが泊るテントを組み立てた。

 ナオミがテントの中に入って「ほー」とか「うーむ」とか「なるほど」と呟き、感心した様子で外に出た。


「こいつは想像していた以上に便利だな。特に虫が入ってこないようにしているのが、凄いじゃないか」

「そういう仕様です」


 ナオミの称賛にルディが肩を竦めていると、突然ハルから緊急の連絡が入ってきた。


『マスター。領都のマイケル、キッカ、ナッシュ、フレオが兵士に捕らわれました』

『何だって?』


 その悪報に、思わず眉をひそめた。

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