第127話 領主の悪事

 ルディは本棚の前に立って、ハルビニア国の税金について考えていた。

 レインズが言うには国に納める税金は人頭税だけで、領都の運営に必要な地方税は所得税らしい。

 ルディから言わせてみれば、人頭税は低所得者でも高所得者でも同じ金額を払う悪税なのだが、如何せん所得税は行政の管理が難しい。

 ハルビニア国の行政能力では国全体での所得管理は出来ず、各領主に任せた所得管理が限界なのだろう。


(人頭税と言う事は領土の人口が分かれば、本当の税収も分かるはずだよな)


 ルディはそう考えると、デッドフォレスト領の年度別人口数が載っている資料を探し始めた。そして、何冊か調べて目的の書物を見つけて人口数を確認する。


(……マジ? 今の領主になってから、人口が3割も減ってるじゃん!)


 あまりにも異常な数値に、ルディが愕然とする。


(人口減の理由は、天候による不作、魔物被害、盗賊の襲撃……嘘くせえ)


 一番の原因はお前だろ? と領主にツッコみながら、手にした資料を鞄にしまった。


(本当に人口が減っていたらこれはこれで問題だけど、何かがおかしい……)


 ルディは今まで色んな人から聞いた話から、金にガメツイ領主が正しい税金を納めるわけがないと考えていた。そこで、1つの疑問が頭の中で思い付く。


(税金が払えなくて奴隷になった領民って、どこに行ったんだ?)


 もし、先ほど見た人口減の理由が嘘で、全てが重税による奴隷化による人口減だと考えれば、納める国税は減り奴隷を売る事で得た金は領主の所得になるから国に払う必要がない。


「この説が正しかったら最悪です」


 ルディは呟くと、この説を立証するための資料を探し始めた。




 本棚を調べてもこれといった証拠はなく、隣の部屋に通じる扉の鍵を開けて侵入する。

 隣の部屋は資料室なのか本棚が幾つも並んでおり、デッドフォレスト領の歴史的資料や過去の帳簿が本棚に入っていた。そして、本棚が並んだ先、部屋の隅で隠れるように大きな金庫が置いてあった。


(こいつは何かありそうだな)


 ルディは金庫に近づいて鍵を開けようとするが、金庫の鍵がダイヤル式なのを見て、ガックリと肩を落とした。


「ダイヤル式、僕は無理だから、ドローン、お前がやりやがれです」


 ルディの命令に、ドローンは胴体から緑の光線を出して金庫をスキャンすると、アームを伸ばしてダイヤルを回して、いとも容易く金庫の鍵を開けた。

 ちなみに、ここまでルディが開けてきた扉の鍵もドローンがやれば時間を掛けずに開けられたのだが、ルディは「それじゃあ、つまらねえです」と自分で開けていた。


「ご苦労です」


 ルディはドローンを労うと、金庫の中を調べ始めた。




 金庫の中には1冊の本と、羊用紙の束が山の様に積まれていた。

 ルディが羊用紙を一枚取り出して確認すると、税金の滞納により納税者を強制奴隷にすると書いてあった。


(つまり、この書類の山全部が、奴隷にした数って事か……)


 ルディがざっと見ても、契約書の枚数は3000枚を軽く超えていた。


 次に本を開いて内容を確認すると、そこには奴隷化した領民の送り先が書いてあった。

 送り先の3割は領主直営地の小作人として働いており、残りの7割は隣国ローランドへ売却していた。


(……嫌な予想が本当に的中しやがった。しかも、予想していた一番最悪の結果かよ!)


 ルディは本を閉じると、ため息を吐いて頭を横に振った。

 おそらく、ローランドに送られた領民は戦争奴隷になって、一年後に始まるレイングラード国との戦争に強制使役されるのだろう。

 しかも、ローランドには使用者の命を削って発動する魔法の銃という兵器がある。もし戦争で生き残っても、彼らの体はボロボロになって長く生きられない可能性が高かった。


(まさか一年後の戦争が絡んでくるとは思わなかったな。一日も早くレインズさんを領主にする必要が出てきた)


 ルディは手にした本と、これも証拠だと契約書の一部を鞄に入れて、持ち帰る事にした。


 後は立ち去るだけなのだが、ルディは領民に重税を強いて払えなければ奴隷にするとか、論理的にふざけた事をするガーバレスト子爵に腹が立っていた。

 そこで、一度書斎に戻り、机の引き出しから羊用紙を取り出すと、ガーバレスト子爵への伝言を書いて、金庫の目立つところに置いた。


「すっきりです」


 ルディは伝言の書いた羊用紙に満足すると、さあ帰ろうと資料室を出た。




 ルディが資料室から書斎に戻ると、廊下から慌ただしい足音が聞こえるや、書斎の扉が開いて巡回中の兵士が中に入ってきた。

 何故、兵士が部屋に入ってきたのか? ルディは気付いていなかったが、ドローンのライトで扉の鍵穴から光が漏れており、兵士はその光を見て誰かが侵入している事に気付いたからだった。


「誰だ!」


 兵士が侵入者のルディを見るなり大声で怒鳴る。


「照らせ!」


 ルディの命令にドローンが兵士の方を向いてライトを照らす。すると、兵士は強烈な光に目がくらみ、腕で目を覆い隠した。

 その隙にルディが窓を開けて、2階の窓から外に飛び出した。


「侵入者だ‼」


 部屋に残された兵士が大声を出して援軍を呼ぶ。その声に館の中が慌ただしくなった。




 2階から飛び降りたルディが無事に地面に着地する。

 正面を見れば、正門を警備していた門兵が声に同僚の声に振り向いて、ルディを見るなり、鬼の形相をして走り寄ってきた。


「泥棒か? どうやって中に入った!」

「大人しくしろ!」


 兵士より速くルディが動く。

 ルディは電子頭脳を高速化してゾーンに入るや、右の兵士の顎に高速の右フックを叩きつけると、拳を喰らった兵士は頭が揺れて脳震盪を起こした。

 さらにルディは左の兵士の腹部に蹴りを入れて背面を向くと、相手の顎を自分の肩に乗せ尻餅をついた。所謂、プロレス技のスタナーである。


「ぐはっ!」

「ぐふ!」


 右の兵士は膝から崩れ落ち、左の兵士は顎が砕けるのと同時にむち打ちになって、ピョーンとのけ反って倒れた。


「ヘル、ヤーです!」


 ルディはスタナーを得意技にしていたプロレスラーの決め台詞を吐くと、ドローンを呼んで自分を運ぶように命令をした。

 ようやく表れた増援の兵士が、空中でプラーンプラーン浮かぶルディを指さして騒ぎ始める。ちなみに、ドローンは光学迷彩で姿を消していた。


「さらばです!」


 ルディは地上で騒ぐ兵士たちに言い残すと、夜空へと消えていった。

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