第96話 人間のマネをする豚
その日の夜は、レインズたちをリビングで泊らせて、次の日の朝。
ルディがレインズと一緒にガーバレス領の領都へ旅立つ前に、玄関先で見送るナオミが話し掛けてきた。
「ルディが居なくなると、酒を飲んでもつまらなくなるな」
ナオミの冗談にルディが眉をひそめる。
「ししょーは少し酒を控えろです。飲みすぎ肝臓悪くなりやがれですよ」
「その時は薬で治すさ」
確かにナオミが作った薬があれば、飲み過ぎて肝硬変になっても1発で治せる。
「ぐぬぬ……脅しが効かぬです」
「だけど気をつけろよ。魔物よりも人間の方がよっぽど恐ろしいからな」
悔しがるルディにナオミが注意すると、会話を聞いていたレインズが間に入ってきた。
「奈落様。ルディ君は必ず俺が守るから安心してくれ」
レインズの話にナオミが頷いた。
「レインズ、ルディの事は別に心配していない。むしろ心配なのはお前たちの方だ。いいか、重要だから良く聞け。コイツは時々行動が暴走する。そして、私の予想だが今回もどこかで必ず暴走する。その時はあきらめろ」
ナオミの警告にレインズたちが顔を引き攣らせた。
(俺はもしかして爆弾を負わされたのか?)
レインズがそう考えていると、ナオミの警告が面白くて笑っていたルディが口を開いた。
「ししょー、みんながリアクションに困ってるです」
「おお? それはスマン」
ルディのツッコミに、ナオミが周りの空気の異様に気づいて謝った。
「ソラリス、一郎の面倒とししょーのご飯は任せたです」
「かしこまりました」
ルディの命令にソラリスが頭を下げる。
ちなみに、ゴブリン一郎は現在爆睡中。彼は朝が苦手。
「そろそろ行こうか」
「分かったです。では、ししょー行ってきまーす!」
レインズに促されたルディがナオミに手を振って、彼らの後を追いかける。
「ちゃんと帰って来いよ!」
ナオミはルディが森の中に消えるまで手を振り続けた。
ニーナを救うために乗ったエアロバイクなら2時間、空を飛ぶ揚陸艇なら1時間で抜ける森も、今回はレインズたちが居るから、森を抜けるのに歩いて2日掛かる予定だった。
レインズたちがナオミの家に行くときは、途中で立ち寄った町で森の入口の村出身の案内人を雇ったが、今回はルディが彼らを道案内していた。
ルディもそれほど森に詳しいわけではないが、彼はナイキからの衛星写真を受信して、左目のインプラントで自分だけが見えるように表示できるので正確なルートを歩いていた。
それと、ルディがこの星に降りてから、ナイキの方で通信衛星を作成して軌道上に展開しているため、星に来たばかりの頃と違って、何処でもナイキとアクセスが可能になっている。
家を出たルディたちは、ナオミの結界を抜けると一路、南西へと歩いていた。
レインズとハクはまだ子供だからと、ルディの体力を心配していたが、彼は疲れしらずで1時間もしない内に2人は舌を巻き、今は一番体力のないルイジアナのペースで進んでいた。
そして、太陽が中点に掛かる頃、ルディの周辺を観測していたハルから警告が入ってきた。
『マスター、前方から4体の生物が接近中。おそらく敵性生物だと思われます』
『相手の正体は分かるか?』
『平均身長2m、平均体重150Kg。容姿は二足歩行の豚。手にはこん棒らしき武器を持っています』
『了解』
ルディはハルとの通信を終わらせると、足を止めて正面を向いたままレインズに話し掛けた。
「レインズさん。前から豚が人間のマネして歩いてるです」
「豚が人間のマネ? ……オークか!」
レインズは一瞬何を言っているのか理解できなかったが、すぐにオークが近づいていると気が付いた。
「ルイジアナ!」
「少々お待ちを」
レインズがルイジアナを呼ぶと、彼女はすでに検索の魔法を詠唱していた。
「……本当。500m前方、4体のオークが近づいています」
「4体か……」
レインズは、500m先のオークに気付いたルディに驚くが、すぐに気持ちを切り替えて、オークの対処について考える。
オークはゴブリンと同じく魔族に属して人類とは敵対しており、彼らは魔法を詠唱することなくマナを変換させて筋力を強化することが出来るため、人類の倍近い力を持っていた。
そして、太った見た目通りに大喰らいで、人間も捕食対象に含まれている。
「厳しいな。できれば戦闘は避けたいが……」
呟くレインズにハクが諦めろと頭を左右に振る。
「オークは鼻が利く、隠れても無駄じゃぞ。さて、腕の1本ぐらい覚悟するとしようかの」
ハクはそう言うと、腰からバスタードソードを抜いた。
レインズとハクが険しい顔をするのにも理由がある。
以前、揚陸艇の騒ぎに集まった魔族をナオミが一網打尽にした事があるが、あれは彼女だから出来た事で、普通の冒険者ではオーク1体に対して最低でも3人掛かりで戦わないと、釣り合わないとされていた。
もちろん、近衛騎士の副隊長まで務めたレインズと、若いころから戦ってきたハクの剣の実力は相当だし、ルイジアナも国で1,2を争う魔法使いだが、それでも3人でオーク4体と戦えば、死ぬことはないが怪我をする危険はあった。
ちなみに、今のレインズの頭の中では、ルディは頭数に入れていない。
「仕方がない。俺とハクで何とか食い止める。ルディ君は後ろに下がっていてくれ。何かあったら、ルイジアナを守ってくれると助かる」
「了解。ルイちゃん、守るです」
ルディが後ろに下がると、レインズも腰からブロードソードを抜いて、オークが来るのを待ち構えた。
ルディが背負っていたリュックを地面に降ろして、背中から弓と矢を取り出す。
そして、左目のインプラントをサーモグラフィーと望遠モードに切り替えて、近づいてくる4体のオークを確認すると、どうやら、オークたちは既に匂いでこちらの存在に気づいているらしく、警戒しながら確実に近づきつつあった。
「レインズさん。弓で攻撃しても良いですか?」
「まだ姿は見えないが、当てれるのか?」
ルディの弓の腕を知らないレインズが逆に尋ねると、ルディが小さく頷いた。
(相手との距離どころか目視も出来ない状態で矢を放ってもどうせ当たらない。だけど、ルディ君はオークが近づくのを誰よりも先に察していた。だったら、少しは信じても良いかもしれない。何故なら、あの奈落の魔女が弟子と言うからには、この少年には何かがあるに違いない)
「だったら、放て!」
レインズの合図と同時にルディが矢を放つ。
放たれた矢は木々の間を抜け、先頭を歩くオークの胸に突き刺さった。
※ ごめん、話数が多くなって全部のコメント返し、もう無理。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます