第95話 噂の真相
ビールで友好を深めた翌日、ルディとルイジアナが二日酔いで倒れた。
「飲み過ぎたです」
「うぅ…頭痛い……」
「ルイちゃん、これ二日酔いの薬です。水と一緒に飲みやがれですよ」
「ルー君ありがとう」
ルイジアナが頭を抱えながら、二日酔いの薬と水の入ったグラスを受け取る。
ルイジアナだからルイちゃん、ルディだからルー君。
この2人は、昨日飲んだ時にべろんべろんに酔っ払って、お互いの名前の頭文字が「ル」で始まるという事だけで何故か息が合い、愛称で呼び合い始め、最後の方では2人で肩を組んで左右に揺れながら「らんら~ん」と歌っていた。
その2人の様子を見ていたレインズは、真面目が取り柄のルイジアナとあっという間に距離間を縮めたルディを凄いと思う。
ちなみに、酒が好きなハクは、同じく酒を愛するゴブリン一郎を気に入って、仲良くなっていた。
と言う事で、午前中はルディたちが二日酔いで話が出来る状態ではなかったため、午後から全員が集まってお互いの意識合わせをすることになった。
ちなみに、ゴブリン一郎とソラリスは不参加。ゴブリン一郎を運動させるために、ソラリスが外に連れ出して一緒にバトミントンで遊んでいる。
「まず最初に聞きたい事がある。何故、森の入口の村人を全員殺した?」
最初にレインズが険しい顔をして話し掛けると、ナオミの眉間にシワが寄った。
「それは噂で聞いたのか?」
「そうだ。そして、自分の目で確かめるために、村から離れた場所から確認した。酷い有様だったぞ」
レインズたちが見たのは、視覚と聴覚を失った残り僅かな人間が、餌を求めて村の中を彷徨う地獄のような光景だった。
「どんな噂が広まっているですか?」
「俺たちが聞いた噂は、奈落の魔女が村人を皆殺しにして、義憤に駆られたアルフレッドが差し向けた兵士も皆殺しにした。そんな感じだな」
ルディの質問にレインズが答えると、ナオミが鼻で笑い返した。
「そいつは酷い魔女だ」
「全くだ。おかげさまでここに来る途中、森の案内人が魔女を恐れて逃げて行ったよ」
ナオミの冗談にレインズも先ほどまでの険しい表情を解いて、肩を竦めた。
「それで、事の真相はどうなんだ?」
改めて質問してきたレインズに、ナオミとルディが真実を話した。
「なるほど……アルフレッドの性格は知らなかったが、やはり兄にまともな教育は無理だったか」
ナオミから真実を聞いたレインズが頭を左右に振る。
「たった1回の魔法で……」
ルイジアナはルディから「ルイちゃん。僕のししょー、マジでスゲー」と、ナオミが闇の世界を発動させた時の話を聞いて、顔を青ざめていた。
「ところで。ひとつ気になるのだが、アルフレッドは今は何処に居るんじゃ?」
ハクからの質問にルディが嬉しそうに笑った。
「あいつは
ルディはアルフレッドが寄生蜂に連れ去られて、幼虫の餌を作っている事を教え、それを聞いてレインズたちが「うわぁ」とドン引きする。
ちなみに、ドン引きしたのはアルフレッドの処刑方法ではなく、処刑方法を考えたナオミと、それについて笑顔で語るルディに対して。
(まあ、アルフレッドは自業自得だな)
アルフレッドの末路を聞いてレインズが思う。
レインズも戦争や紛争で現地調達に村を襲撃する事は当然だと考えていた。これは彼だけの考えではなく、この星に生きる人間の一般常識なので彼は悪くない。
だけど、自分の領地の村を滅ぼすのはやりすぎだと思う。
(親父が「貴族とは領民を守るべき守護的な存在」と言ってたのに、なんで兄は自分の事しか考えないのか……)
自分の兄を情けなく感じてレインズがため息を吐く。
そして、気晴らしに外を見れば、ソラリスとゴブリン一郎がバトミントンで遊んでいた。
「………」
シャトルの落下位置を計算して、一歩も動かずに打ち返すソラリスに、ゴブリン一郎が振り回されていた。
「レインズ様、どうかなさいましたか?」
外を見ていたレインズにルイジアナが話し掛ける。
「兄の事を考えていたけど、なんか馬鹿らしくなった」
レインズはそう言うと、意識を話し合いに戻した。
「譲渡の件で一番の問題だったのは、アルフレッドだったけど、これが片付いていたのは助かった」
レインズがそう言うと、ルディから質問が飛んできた。
「もしレインズさんが領地を受け継がなかったら、どーなりやがるですか?」
「おそらく、兄を排籍して俺が後を継ぎ、領地は没収されて国の直轄領になるだろう。国としてはその方法が一番有益だからな。だけど、今回は王太子の実績作りという側面もあるから、俺は命令を守るつもりだ」
「それにじゃな。この森は危険な魔獣が多く潜んでおる。直轄領になって数年おきに行政官が変わるよりも、きちんと領主を立てて魔獣災害に対する予防をしっかりやらんと、領民も困るだろうて」
レインズに続いてハクも領主の必要性を話す。
(その危険な森に住んでいるんだけどなぁ)
ルディは真剣に話を聞きながら、そんなことを考えていた。
「それでこれからの俺たちの予定だが、兄の脱税から攻めようと思っている」
そうレインズが告げると、ナオミが首を傾げた。
「それは昨日も聞いたが、王子の方で調べたのではないのか?」
「いや、あくまでも税収が落ちて疑っているだけで、まだ証拠がない。だから、何とかして兄の執務室から証拠となる帳簿、もしくは裏帳簿を盗み出す必要がある」
「ふむ。なるほど……と言う事だが、ルディ、どうする?」
「そういうの一度やってみたかったです!」
ルディが目を輝かせて答える。彼は前にスパイ映画を見て一度やってみたいと考えていた。
「お、おう……」
予想外の返答に、レインズは本当に大丈夫なのかと、頭を抱えたくなった。
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