第93話 裸の付き合い

「一郎、背中洗ってやるです」

「ギャギャギー(強く擦るなよ)」


 5、6人は入れるだろう大きな湯舟に驚いているレインズとハクを他所に、ルディと一郎はさっさと中に入って体を洗っていた。


「レインズさんも体洗えです」

「あ、ああ。だけど、これは一体……」


 レインズたちも浴場ぐらい知っている。だけど、人里離れた森の中の一軒家に、こんな大きな浴場があるとは夢にも思っていなかった。

 しかも、ルディと一郎は蛇口を捻るだけでお湯を出し、シャワーを使って体を洗う。

 それらの道具を見た事がないレインズとハクから見れば、未知なる不思議な物だった。


 未だ動揺しているレインズたちの様子に、ルディが使い方を説明する。ちなみに、蛇口とシャワーは魔道具だと胡麻化した。

 ほかにも、シャンプー、トリートメント、ボディーソープ、ルディの貸したT字型の髭剃り、石鹸、タオルと、2人はあらゆる品を見て、その都度驚いていた。




「良い湯だなです。ビバノンノン」

「このようにお湯に浸かった形式の風呂は初めじゃが、実に良い物ですな~」


 湯船に浸かって気持ち良さそうにルディが呟くと、同じ様に湯船に浸かっているハクが目を瞑って感想を述べていた。


「俺の人生の中で、ゴブリンと一緒に風呂に入る機会があるとは思わなかったぜ」


 無精ひげを剃ってサッパリした顔のレインズが、一緒に入っているゴブリン一郎を面白そうに見て肩を竦める。


「ギャギャギギャー(爺、少しどけ。足が延ばせねえ)!」


 ちなみに、無精ひげを剃ったレインズの顔を見たルディの感想は、マダムにモテモテなチョーイケおじさん、そんな感じ。


「人生は何が起こるか分からねーものです」


 ルディが言うと、やけに説得力があるように聞こえた。


「全くだ」


 兄を蹴落とす事になるとは思っていなかったレインズが、ルディの話に頷いた。


 湯船に浸かりながら、お互いの事について語り合う。所謂、裸の付き合い。

 その時に、レインズたちからルディの出身について質問されたが、彼はさらっと遥か北からやってきた孤児だと嘘を吐いて胡麻化すと、年の功なのかハクが昔の事を思い出して頷いた。


「確かにルディ殿の言葉遣いが、儂が若いころに会った北の剣士の喋り方に似ておりますな」


 どうやら、ハルの設定したルディの言葉遣いが役に立ったらしい。

 そろそろ普通の喋り方に戻そうか考えていたルディは、今の喋り方を継続する事に決めた。




 男全員が風呂から上がった後、ナオミとルイジアナ、それとソラリスが風呂に入り、ルディはリビングにレインズとハクを置いて、夕食を作り始めた。

 ちなみに、一郎もレインズたちと一緒にリビングでくつろぎ中。

 レインズたちは、人間を見ても襲うことなく、ソファーにだらーっとしながらうちわを扇いで涼を取るゴブリン一郎を、本当にゴブリンなのかと疑った。


 今日のメニューは時間がないので、簡単なドイツ料理。

 ドイツ料理にしたのは、何となくその日の気分。ちなみに、全部市販品。


 ますはスープにマウルタッシェン。

 パスタ生地の中にひき肉、玉ねぎ、ほうれん草などを詰めてから、透き通ったコンソメのスープに入れた。


 サラダはザワークラウトとシュパーゲル。

 ザワークラウトはキャベツの酢漬け、そしてシュパーゲルはホワイトアスパラ。

 シュパーゲルの水煮はそのままでも柔らかくて美味しいけど、七味唐辛子マヨネーズを上にかけるともっと美味しい。


 そして、主食だがドイツと言ったら、ソーセージの詰め合わせ。

 普通のソーセージは当然ながら、バジル入り、レモン入り、レバー入りも用意した。ちなみに、血の入ったブラッドソーセージは、ルディが嫌いだから今回はなし。

 少ない水をフライパンに入れてから、ソーセージを入れてころころ揺する。そうすると、ソーセージはボイルされて焼きあがるので、食べた時にプリっとした歯ごたえと、スモーキーな味になった。

 ソースはマスタードと、ケチャップ。それと、お好みでハバネロソース。ハバネロソースはドイツとは関係ないけど、ウィンナーに合うから仕方がない。




 ルディがご飯を作り終えると、丁度ナオミたちが風呂から出てきたところだった。

 風呂から出たルイジアナを見て、レインズとハクが驚く。彼女は汚れて脂ぎっていた金色の髪の毛がサラサラになり、肌も白磁器の様に白くなっていた。そして、ナオミから化粧水を借りたのか、整った美しい顔は輝いており、入る前と比べて美人度が増していた。


「飯、出来たですよ。ソラリス、テーブルに運びやがれです」

「分かりました」


 やはり風呂上りで美人度が増したソラリスが、ルディを手伝ってテーブルに料理を運び、ナオミたちが席に着いた。


「今日は昼だけでなく、夕飯にも招待いていただき感謝します」


 代表してレインズが頭を下げると、ナオミが彼に向かって笑みを浮かべた。


「お前たちには、明日から弟子のルディを面倒見てもらうからな。このぐらいは当然さ。それに、作ったのはルディで私は何もしていない。礼を言うならルディに言うんだな」


 ナオミの話にレインズが頷き、ルディにも礼を言った。


「料理作るの僕、趣味だから、別に気にするなです」

「ギャギャー(早く食おうぜ)」


 ゴブリン一郎の催促に、ナオミが配られたビールを持ち上げる。


「では、料理が冷める前に食べるとしよう。乾杯!」


 ナオミの音頭で、全員が最初のビールを飲んだ。

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