第24話 オリーブオイルが良い感じ

「ししょー、料理出来たです」

「おー待ってたぞ」


 ルディが作った晩ご飯は、ギリシア風の地中海料理。テーブルの上に置いた料理を見てナオミがお腹を鳴らした。


 まずは野菜にイェミスタ。

 トマトとパプリカの中身をくり抜き、抜いた中身をミキサーにかけてペーストにした後、オリーブオイルで炒める。米とひき肉、トマトソースを合わせてから、くり抜いた後の野菜に戻していた。


 パンに付けるディップにタラモサラダ。

 たらこをほぐし、マッシュポテトと合わせてから、レモン汁やすりおろしニンニク、オリーブオイルで味付けされていた。


 そして、肉料理にクレフティコ。

 骨付きのラム肉をオリーブオイルとレモン汁でマリネにし、アルミホイルに包んで蒸し焼きにしている。


 最後にヨーグルト。

 ヨーグルトを水切りして、ギリシャ・ヨーグルト独特のクリーミーな味わいとなっている。その上にミントを乗せて、清涼感も味わえるようにした。


「ヤバイ、今日も美味そう!」

「ししょー、また語彙力なくなってろです」


 料理を見て興奮しているナオミにルディがツッコミを入れる。


「だから、こんな美味しそうな料理を作るルディが悪い」

「ええー、そんなぁ……」


 昨日と似たような会話をしていると、ドローンがお酒を運んできた。


「ししょー、食前酒飲むですか?」

「もちろん」


 ルディの提案にナオミが頷く。


「今日のお酒はウゾですよ」

「ウゾ?」

「ギリシア、お酒です。水割りで飲め美味いです」


 ルディがウゾをグラスに注いでから水と氷を入れる。すると、透明だったウゾが白く濁った。


「さて、どんな味かな?」


 ナオミが期待を込めて水割りのウゾを飲む。甘い香りのするアニスの香辛料をベースに、コリアンダーなどの香料が口の中に広がって、スッキリ美味しかった。


「良い香りと味だな」

「ぷはーうめぇです」


 ナオミの意見にルディも同意見だと頷いた。




 料理はどれもオリーブオイルがふんだんに使われており、味は絶品。清涼感のあるヨーグルトが油っぽくなった口の中をスッキリさせて、いくらでも食べれそうだった。


「ルディは料理が好きなのか?」


 食事中の会話でナオミから問われて、ルディが頷く。


「作るのも食べろのも好きですよ」

「だから色んな料理を知ってるんだな」

「色んな料理、知っていろ。それには、ふかーい理由あるのです」

「理由を聞こう」

「僕、宇宙で運送屋。これ前に話したですよ」

「ああ、覚えてる」

「荷物運んで色んな星飛んでろです。だけど着いた先、忙しく観光しろ暇ねえですよ」

「それで?」

「観光できねえから、その代わりに星の料理食べ歩き。それで移動中は暇、だからうめぇ料理、再現して作れです」

「なるほど。全然理由が深くないな」


 ナオミが頷いていると、ルディが彼女の顔をジッと見て口を開いた。


「だけど、ししょー。ししょーと一緒に食べて気づいたのです」

「何をだ?」

「1人で食べるより、他の誰か一緒に食べる。料理がおいしいです」


 ナオミが笑って頷いた。


「私もそう思うよ」


 こうして2人は、魔法や化学、他にも色々な事を話しながら夜遅くまで飲み明かした。




 翌朝。

 酒豪のナオミにつき合ったルディは、また二日酔いでぶっ倒れていた。


「ばたんきゅーです」

「ふらふらだけど、大丈夫か?」

「ししょー、お酒強すぎです」

「普通だと思うが……」

「僕、お酒飲む方ですよ。それなのに敵わぬ、異常です」


 ルディがげんなりとため息を吐いた。


「それで今日はどうするんだ?」

「午前中、宇宙船に入れ。午後はししょーの家作りです」


 ナオミの質問にルディが答えると、彼女はあきれた様子で肩を竦めた。


「なんか忙しいな」

「ししょーの家、あんなボロッちいからですよ」

「家を作り直すと言ったのはルディだろ」

「そうさせたししょー、悪人です」


 昨日と同じく、ルディが「胃酸よ暴れろなです」と朝食を抜いて、ナオミだけ朝食を食べると、二人は宇宙船の中に入った。




 二人が宇宙船のAIルームに入る。AIルームは前と変わらず、部屋の中央に巨大なコンピュータがそびえており、部屋の中は静まり返っていた。


『ハル、状況は?』

『電源の修理は完了しています。現在最終チェックの段階です』

『了解。何か色々させて悪いな』

『まだキャパシティーに余裕があるので、問題ありません』


 ルディがハルと連絡を取ってから、コンソール端末の前に移動する。

 すると、一緒に来たナオミが話し掛けてきた。


「これから何が始まるんだ?」

「宇宙船の管理AI、目覚めろです」

「AIか……確か前にも聞いたな」

「んー-、ししょーの世界で例える、喋れゴーレム? そんな感じです」

「なるほど、理解した」


 しばらく待っていると、チェックを終えたハルから連絡が入ってきた。


『マスター、チェックが完了しました。いつでも復旧できます』

『了解。今すぐ始めてくれ』

『イエス、マスター』


 ハルの返答後、AIサーバーのコンソールの電源ランプが光った。それで通電したと分かったルディが、ボタンを押下する。

 コンソールが起動して、モニターにパスワード入力画面が表示された。

 パスワードか……無線はなし。有線のコネクターは……これなら繋がるな。

 ルディが鞄からネットワークケーブルを取り出す。髪の毛を掻きわけて左耳の裏にあるポートに刺し込み、コンソールと電子頭脳を直接接続させた。


 その様子を背後から見ていたナオミが驚いて話し掛けてきた。


「ルディ、何をしてるんだ?」

「パスワード掛かってろ、解除してろな最中ですよ」

「いや、そうじゃなくて、糸が頭に刺さってるぞ」

「例えろなら、僕、脳みそ手作りです」

「すまないが、その例えは一生理解できない。ああ、中断して悪かった、作業を続けてくれ」

「はーい」


 ナオミに言われるまでもなく、ルディは会話しながらパスワードのロック解除を試みていた。そして、3分もしない内にログインに成功すると、AIサーバーの電源をオンにした。


「目覚めろです」


 ルディの声と同時に、今まで動いていなかったAIサーバーが光りだした。


「おおっ!」


 平然としているルディとは逆に、何が起こるのかと、ナオミがAIサーバーに驚く。


「私は銀河帝国特殊艦隊所属、巡洋艦ビアンカ・フレアの管理AI、ソラリスです」


 ルディたちに、機械音のする女性の声が話し掛けてきた。

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